今回の作品は、前回と同じ李白の「独坐敬亭山(独り敬亭山に坐す)」という題の五言絶句です。
出典の『唐詩選』岩波文庫版の解説によると、題中の「敬亭山」は安徽省宣城の北方にある名勝地で、作者の尊敬する六朝の詩人謝眺(しゃちょう)が宣城の太守に在任中、いつもこの山に登って遊んだので、作者もそのあとを慕って、山頂を望む場所に座っていつまでも眺めていたということです。
では本文を読んでみましょう。
独坐敬亭山 李白
衆鳥高飛盡 鳥どもは空高く飛んで、視界のはてに消え去った。
孤雲獨去閑 ひとひらの雲は、ひとり、静かに流れ行く。
相看兩不厭 ー私と山と、たがいに眺めあったまま、どちらも飽くことのないのは、
只有敬亭山 この世にただ一つ、この敬亭山だけなのだ。
以上です。理解の困難な箇所に下線を引かせていただきましたので、その部分の註釈を出典から抜き書きさせていただきます。
三句目「兩」=双方とも。
同「不厭」=飽きない。
五言絶句の創作上のきまりは、偶数句末が押韻することと、起承転結の構成でしたが、通読してみると二句目、四句目は押韻していて、一句目、三句目も押韻していますね。
構成も、「起承転結」の規則どおり、一句目が「書き起こし」(起)、二句目がそれを承けて(承)、三句目で内容に変化をつけて(転)、四句目で全体を結んでいます(結)。
一句目の「衆鳥」という「群れ」の動きと、二句目の「孤雲」という「一つの雲」の動きの対比がとても鮮やかで、ぱっとイメージにも浮かんできます。こういう「鮮やかな光景」をまるで絵を描くように再現する力量、それは詩表現に不可欠だと再認識させられます。
静かな大自然の中で、敬亭山に向き合っている李白。日本各地にもある名山を前にした時の我々の気持にも通ずる感慨を、この時の李白も感じていたのでしょう。
今回は名山に向き合っている李白の作品でした。日本の画家や書家の方も、自然に対する李白のような気持ちを持っておられることでしょう。では今回はこの辺で。