9月某日
マンガカフェヨミガエルにて
第34回コミック読書会が行われました。
テーマは「マンガ日本の歴史」
日本の歴史漫画のおススメを語り合います。
お菓子は
聖徳太子も好んでたべた?
あおによし感たっぷりの「蘇」と
南蛮渡来といえばコレ!の「かすてら」です。
参加者はトークネーム大島弓子先生、魔夜峰央先生、
大友克洋先生、安野モヨコ先生、池田理代子先生の五名です。
魔夜先生「おかざき真理先生の『阿吽』を紹介します。
空海と最澄の物語です。生きること、死ぬことを知りたい、
学びたいという二人がそれぞれ異なった場所で、生きざまを
シンクロさせながら物語が進んでいきます。
精神世界をものすごいタッチでかかれていて、宗教が
うまれる瞬間を画面から感じられます。ものすごい
集中力で描いていらっしゃるというのがこちらにも
伝わってきて感動をおぼえます。話は難しいのでストーリーを
しっかり理解するのに時間はかかりますが、精神世界を
漫画化しようという試みはとても興味深いです」
大島先生「暗い、重い感じのストーリーなのですか?」
魔夜先生「暗くはないですが、濃い、ものすごい密度がある作品です」
大島先生「阿吽ってどういう意味なのですか?」
魔夜先生「サンスクリットでAからZまでという意味なので、おそらく
ふたりの男がそれぞれの場所で森羅万象を知ろうとする、己を高めようとする
物語という意味なのではないでしょうか」
魔夜先生「もう一作は『戦国コミケ』。コミケ会場で落雷が起きて
主人公のオタクが豊臣秀吉の時代にタイムスリップします。
オタクの圧倒的な知識で戦況を切り抜けていくギャグ漫画です」
魔夜先生「二作で全然絵柄も内容も違いますが、どちらも面白いですよ」
大島先生「ゆうきまさみ先生の『新九郎、奔る!』を紹介します。
応仁の乱の頃が舞台の物語です。まだ2巻なのでそんなに
盛り上がっているわけではありませんが(笑)今後の展開が楽しみです。
魔夜先生「応仁の乱って有名な割にはあまりマンガで描かれてないですねえ」
大島先生「この時代は、身分差にとらわれながら己の名誉のために生きていく、
といった感じなので、大変だなあと思います。現代に生まれてよかったなあと(笑)」
大友先生「ゆうき先生なので、あえてドラマティックに盛り上げるというよりは、
淡々とした路線でいかはるかもしれないですね。歴史ものとしては画期的ですね!」
安野先生「『はだしのゲン』を持ってきました。誰しも小学校の図書館で目にされたことは
あると思います。ただ、最後まで読んだことがないなあと思いまして、
今回最終巻まで読んでみました。自分の原爆の原体験ともいえるこのマンガですが、
改めて読み直してみて、原爆投下時にも苦しみ、その後も差別に苦しむ、
被ばくした方は二重三重にも苦しめられて、いたたまれない気持ちになります」
池田先生「福島の方も同じような差別に苦しめられているそうですよね」
安野先生「自分が小学校時代、図書館ではどうやら5巻くらいまでしか読んでなかったです。
調べてみたら、6巻以降は1985年ごろに描かれたようなのでそもそも当時はまだ発刊されて
いなかったのだなあと。ちなみに最終巻では「第1部完」となっていたので、中沢先生の
構想ではこの後上京編があったようなのですが、先生が体調を崩されたこともあり、
この後は描かれていません。5巻以前は子供のゲンが語ってるという感じがしましたが、
5巻以降は子供のセリフというよりは大人のセリフ、中沢先生自身のメッセージを
ゲンが語っているという感じが強いです」
大友先生「掲載誌の影響ですかねえ」
安野先生「それはありそうですね。5巻以降ゲンも恋をするけど恋の相手も亡くなる、
家族も亡くなる、周りの人々がどんどんなくなっていきます。戦争は終わっても
そのあとも生き地獄が続く、戦争は終わらないということを実感させられます」
大島先生「読んでいると、人間の心が怖い、傷ついた人への対応が悲しすぎて
ほんとうにつらいです」
池田先生「原発もそういう問題がありますよね。文明が進んでもいまだに
なくならないですねえ」
大友先生「あだち充先生の『虹色とうがらし』を紹介します。あだち先生と言えば
ほぼスポーツマンガのイメージですが、珍しく歴史ものです。架空の江戸時代を
舞台に、七人兄弟のドタバタコメディがくりひろげられます。忍者もでてくる、
ラブコメ要素もある、盛りだくさんで飽きずに読めます。スポーツものでしたら、
野球なら最後に甲子園にいくとかオチがある程度読めてしまいますが、
オチの想像がつかないところも魅力です。」
魔夜先生「あだち先生と言えば、キャラの見分けがつきにくいイメージですが、
歴史モノだと髪型や服装が似通っていてさらに混乱するってことはないですか?」
大友先生「キャラの年齢がさまざまなこともあって、むしろ他作品より書き分け
られている気がします。登場人物の中に、異国人だと思ったら宇宙人、という
キャラもいてSF要素もありますよ」
魔夜先生「宇宙人!?意外!!」
大友先生「ドタバタ時代劇って感じで楽しいのでぜひ読んでいただきたいです」
大友先生「もう1冊は重野なおき先生の『信長の忍び』。織田信長の
活躍した時代の忍者の女の子が主役です。それぞれの人物に、突っ込みたおす、
ボケまくる、重野なおき節がさく裂しています」
池田先生「たまに泣きそうになるいい話がありますよねえ」
大友先生「悪い人を作らない、悪を作らずにあたたかい笑いがありますよね。
とにかくテンポもすごくいい。ほかにも歴史モノの四コマを描かれていますが、
テンポよくボケ倒してくれるのでほんと面白いです」
大友先生「三冊目は『暴れん坊少納言』です。平安時代、清少納言が生きた時代が
舞台です。この時代の空気とは外れた、破天荒な少女が宮仕えをし、
古くからのしきたりとぶつかりながらも持ち前のバイタリティで乗り越えていきます。
和歌がストーリーに大きくかかわってくるのですが、視覚的、漫画的に
和歌が表現されていて印象的です。」
池田先生「古文勉強している中高生が読んだら面白そうですね。古文の勉強が
身近にかんじられるかも」
池田先生「まずは『レイリ』です。戦国時代を舞台に、殺すために生き、殺されるために
生きている少女レイリの物語です。食うか食われるかぎりぎりの生活の中で人が
いかに死ぬか、いかに生きるかについて考えさせられます。原作があの岩明均先生
なのですが、間の取り方やセリフのいいまわしがむっちゃ岩明先生ぽくって
ファンにはたまりません。」
大島先生「(表紙をみて)主人公女の子やったんですか!?」
池田先生「はい、こうみえて女の子なんですよ。でも男の子よりよっぽど強いです(笑)」
池田先生「もう一冊は『結ばるる焼け跡』。戦後日本で、なんとか命をつなぎ生きている
孤児や売春婦たちと、彼らを救う謎の男の物語です。傷つきながらも懸命に生きる人々の
姿がせつなくも感動しつつ、また謎の男が一体何者なのかということも含め、とても
面白い作品です。この作品の作者雨瀬シオリ先生の『ここは今から倫理です。』が好きで
読み始めたのですが、人の心の中にきりこんでいく作風と、あと、主人公の男性が
むっちゃ色気があるという点もとても魅力的です」
いろいろな作品が紹介されましたが、日本の歴史も世界の歴史同様、戦争と切り離せない
関係にあるようです。どんなに文明が進んでも変わらない人間の心にさみしさも感じつつ
このようにマンガ作品を通して戦争や平和を考えられる力をまた人間はもっている
のだなと可能性も感じられるひと時でした。
次回は11月16日(土)
『The Best Comics of 2019』
一足早い忘年会も兼ねて、
今年読んで面白かった作品について語り合いましょう!