なぜ 今、食と農の基本法が改定なのか(上)

                                     農業基本法の顛末 

                               

 

食料不足時に増産指示へ 政府、新法など閣議決定

             2024年2月27日   日本経済新聞

 気候変動や紛争、世界の人口増加などで 食料供給が不安定となるリスクが高まるなか、政府は

増産指示 や 財政支援・罰則を通じて 食料安全保障を確保する 新たな仕組みを整える。

農政の基本指針を定めた「食料・農業・農村基本法」の改正案と「食料供給困難事態対策法」と

名づけた新法案を 27日に閣議決定した。

                                                       食料供給困難事態対策法案について:農林水産省

 

    基本法は「 農政の憲法 」とも呼び、1999年の制定以来初の改正となる。日本の食料自給率は

2022年度にカロリーベースで 38%にとどまり、主要7カ国(G7)の中で 最も低い。とくに

小麦や大豆といった穀物の低さが目立つ。

    異常気象に伴う不作 や ロシアによるウクライナ侵攻などを受け、食料、肥料、飼料の安定確保

への危機感が高まり、法改正と新法制定が必要と判断した。坂本哲志農相は 27日の記者会見で、

日本の食料事情に関して「 これまでのように 自由に買いつけができなくなってきた 」との考えを

示した。

   新法では、政府が あらかじめ重要だと位置づける食料 や 必要物資を指定する。コメ、小麦、大豆

に加え、肥料や飼料も 念頭に置く。世界的な不作などで これらの食料の供給が大きく不足する兆候

を確認した段階で、政府は 首相をトップとする本部を立ち上げる。

   本部には 全閣僚が参加し、確保をめざす品目や供給目標を盛り込んだ実施方針をまとめる。

買い占めや価格高騰を防ぐため、商社やメーカーなどに 計画的な出荷調整や輸入拡大を要請する。

農林水産品の生産者にも増産を求める。これらの要請に応じるために 必要な場合は、政府が補助金を

出す。

 

 

   事態が悪化して、供給量が 2割以上減ったり、実際に 価格高騰に至ったりした場合に 政府本部が

「 困難事態 」を宣言する。 宣言を受け、政府は 生産者や事業者に 食料の確保に向けた計画の策定を

指示する。計画を届け出なければ、20万円以下の罰金を科すことを 新法案に盛り込んだ。

   それでも 供給が不安定で、さらなる生産や輸入拡大が必要だ と 政府が判断した場合、計画の

変更指示も可能とする。政府からの変更指示に応じれば、追加で 財政支援もする。政府の資金拠出は

各年度の予備費で対応を検討する。

   事態が さらに深刻さを増し、最低限必要な食料の確保が困難となれば、政府が コメやサツマイモ

といった熱量が高い品目への生産転換を要請・指示する。1人あたりの 1日の供給熱量が 1900 Kcalを

下回る恐れが生じた場合を想定している。

 

 新法案には 平時の対応も定めた。不測の事態に備えて 政府が指定した食料や必要物資について

生産者や事業者、各種団体などに報告を求め、需給状況の把握につなげる。 基本法の改正案にも 

平時から食料自給率などの目標を設定し、達成状況を 年1回公表すると盛り込んだ。

 

   欧州を中心に 海外では食料安保のリスクに対応する法整備が進む。

ドイツは 17年に制定した「食料確保準備法」で 戦争や自然災害などで生存に必要な食料を確保

できない状況を「供給危機」と位置づける。国が 価格決定や食料配給などを命じる。

英国は 20年に「英国農業法」をつくった。食料品の価格高騰などで 農業市場に混乱が生じた場合、

担当閣僚が「不測事態宣言」を発出できる。 生産者の収入悪化を財政支援する。

  日本は 農林水産省が 12年に策定した「緊急事態食料安全保障指針」で 食料危機時の政府の対応策

を記している。法的拘束力がなく、実効性を担保できていなかった。

  三菱総合研究所の稲垣公雄・食農分野担当本部長は「 財政支出を増やせない制約のなかで 豊かな食

を維持し続けることが重要だ 」と指摘する。