ITは便利だが、地獄の蓋の上の便利さ

 

 

    医師90人がグーグルを集団提訴へ クチコミ放置で「被害受けた」

    治療費の踏み倒し狙うケースも

         2024/02/29   AERA dot. (アエラドット)

      飲食店や病院などを選ぶ際に、参考になる「クチコミ」。しかし、実名を挙げての罵詈雑言や

      暴力的な書き込みが削除されずに 放置されているとして、国内で最も多く利用されている

      グーグルマップを運営するグーグルに対して、医師や歯科医師ら90人が 今春、損害賠償を求めて

      東京地裁に集団提訴する。 否定的なクチコミに対し、病院側から「反論」「説明」するのは

      難しく、グーグルも なかなか削除に応じないため、低評価を恐れる病院側を 患者が脅迫したり、

      弱みに付け込む「削除ビジネス」が横行したりしているという。

        グーグルマップでは、飲食店やホテル、病院、観光地などの位置だけでなく、星のマークを

      並べた5段階での「評価」やクチコミを書き込むことができる。

    しかし、2年前に「Googleクチコミ被害者の会」(2月28日現在の署名数473人)を立ち上げ、

      今回の集団訴訟でも 原告となる予定の40代の医師は言う。

       「 本当に 見るに耐えない、あり得ないようなクチコミが、いっぱいある 」
 

       実際に グーグルマップには、医師などの実名を挙げたうえで、真偽不明の内容の書き込みが

      数多く見られる。

        < 腫瘍内科A医師の(意図的な)見過ごしで めちゃくちゃにされました >
        < Bに実験台にされました。切らなくてよいところまで切られて、試験的な縫合をされました >

        < 理学療法士のCは D病院で汚職をしていた。Eは D病院で毎日患者を殴っていた >
        < ここの医療事務は いかれポンチばかりです。IQ70以下ばかりで、腹が立つよりあきれる

         ばかりです。頭があまりよくないメス豚どもと まともに話をしてはいけません >
        < F病院は、行かないで! 馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎! >

 

     さらに、チェックをすり抜けた有害な投稿があれば、ユーザーが申告できるとしている。

        < グーグルのオペレーターチームは、24時間体制で申告があったコンテンツを確認しています。

         ポリシーに違反するクチコミが見つかった場合は削除します >
 

   しかし、前述の医師は、

      「 明らかに 人権侵害といえるような投稿が放置されている 」

   と指摘。グーグルには ポリシーに沿った対応を求めているが、削除を求めても なかなか対応

     してくれないのが実情だという。

 

    医師は、クチコミにおける「表現の自由」を否定しているわけでは まったくない。

     「 でも、人権侵害にあたるような、相手をぐさりと刺すような書き込みは許されないでしょう 」
 

  病院側からの「反論」難しく

    グーグルが 不適切なクチコミを削除してくれないのであれば、病院側から何かしらのコメント

    を返したいところだ。グーグルマップのクチコミには、返信を書き込む機能もある。

    しかし、話は そう簡単ではないという。

     不満の声に対し、「 ご指摘ありがとうございました 」と返信する程度であれば問題ないが、

    病院側が具体的な内容を書き込み、来院を促す「広告」とみなされた場合、病院の広告行為を

    規制する「医療広告ガイドライン」や 医療法に抵触する恐れが出てくるのだという。

     また、医療機関には 守秘義務があり、個別な患者の情報を グーグルマップという 誰でも

    見られる場で書いて「説明」したり、「反論」したりすることは難しい。

 

  所管する厚生労働省の担当者も、

     「 個々の患者の状態は 人それぞれであり、それを クチコミで書くことは誤った認識を読んだ人

       に与える恐れがあるため、医療広告の禁止事項に当てはまります 」

    と釘を刺す。
 

    グーグルのポリシーが ほとんど守られていないうえ、医療機関側から反論できないことに

    付け込んで、医者を脅す患者もいるという。

      「 俺のほしい薬を処方しないと 悪口を書くぞ、と言う人もいます。医療費の支払いを踏み

       倒そうとした患者が、断れば 低評価をつけるぞ、と医療機関を脅したケースもあります 」

    低評価のクチコミを書き込んだ後、クチコミ削除と引き換えに高額な金を支払わせようとした

    ケースや、高額な金銭を要求し、施設が断ると多数の悪いクチコミを書き込んだ事例もある。

  そもそも グーグルマップに表示される情報は、病院とは関係のない人でも登録できる仕組みに

     なっている。「嫌がらせ」のために「閉業」と書き込まれた病院もあったという。
 

  クチコミ削除に高額要求

    被害者の会には、悪いクチコミや低評価を恐れる医療機関に「悪いクチコミを消します」と

   持ちかける「 削除ビジネス 」の事例も寄せられているという。

   この医師も 先月、被害に遭いそうになった。

     < あなたの病院のグーグルレビューを確認しましたが、結構、悪口が書かれていますね。

     それ、消しますよ >

 そのような文面とともに、手の込んだ作りのパンフレットと名刺が郵送されてきた。

     「 もう『消しますよ』と書かれている時点で詐欺ですから。クチコミを削除できるのは

     グーグルか、それを書いた人しかいません。つまり、グーグル以外の人間が クチコミを消せる

     と言うのは、100%できもしないことを言っているか、その人が クチコミを書き込んだ本人だ

     ということです。そのような脅迫みたいなことはちらほらあります 」

 

   改善しないプラットホームを国も問題視

     訴訟代理人の中澤佑一弁護士によると、訴訟における法律的なハードルは高く、厳しい戦いが

     予想されるという。

     「 違法な書き込みによって 誰かの何らかの権利が侵害されたとしても、運営サイトについては

      一応免責が法律で認められていますから 」

 

       グーグルが提供するマップやレビューは社会インフラともなっているが、そこに 多数の誹謗中傷

     が書き込まれていることは 政府も把握している。

      総務省が 2018年に立ち上げた有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」の調査

     によると、グーグルは 日本国内に 投稿の削除要請に対応する部署や責任者を置いていない。

      これまで 政府は 誹謗中傷への対応を事業者に任せてきたが、1月31日に公表された

     「第三次とりまとめ(案)」では、改善が一部にとどまっている状況をふまえて法規制の必要性

    を求める内容になっている。

 

  原告の医師は言う。

    「 医療機関だけでなく、多くの事業者が登録されているグーグルマップやレビューだからこそ、

     この状況を 少しでも改善してほしい。そのための裁判です 」

   原告側が指摘する不適切なクチコミへの対応の遅れなどについて、編集部はグーグルに質問を

    したが、期日までに グーグルからの返答はなかった。

 

                                                            (AERA dot.編集部・米倉昭仁)