2023/05/11 AERA dot.
新型コロナウイルス感染の波がまたじわりとやってきている。BA.5にかわり、
世界的に増えているのは XBB系統だ。AERA 2023年5月15日号から。
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新型コロナウイルスの流行の主体が、オミクロン株の亜系統XBBに変わりつつある。
東京都によると、4月20日現在、4月に遺伝子解析した都内のウイルスの71.0%をXBB系統が占めた。
3月の39.3%から急増した。
XBB系統の中で 特に多いのは XBB.1.5系統で、4月は全体の46.8%に達した。ただし、
XBB.1.9.1系統も 3月の8.5%から 12.9%と増えており、海外の動向をみると、国内でも
今後さらに 増える可能性もある。
国立感染症研究所によると、4月10日時点の推計で、第16週(4月17~23日)には、全国で
XBB.1.5が 54%、その他のXBBが 9%に増える一方、かつて割合の高かった BA.2.75は 15%、
BQ.1は 13%、BA.5は 9%に減ると推測されるという。
海外でも XBB系統が主流だ。米疾病対策センター(CDC)によると、1月下旬に XBB.1.5系統が
遺伝子解析したウイルスの過半数を占め、3月には 80%を超えた。ただし、4月に入ってからは
やや減少傾向で、その分、XBB.1.16や XBB.1.9.1といった別のXBB系統が増えている。
■感染が広がりやすい
世界保健機関(WHO)によると、4月3日~9日の週に国際的な新型コロナウイルス の遺伝子解析データベース
に登録された件数のうち、XBB.1.5が 45.39%、XBB.1.9.1が 9.36%、XBB.1.16が 4.31%、
その他のXBB系統が 16.02%を占めた。
XBBの「X」は、組み換え体を意味する。通常の亜系統は、ウイルスの遺伝子の一部分に変異が
起きている。組み換え体は、2種類のウイルスの遺伝子が組み換わって生じる。2種類のウイルスに
同時に感染した人や動物の体内で発生する。 XBBは オミクロン株のBJ.1系統と、BM.1.1.1系統
の組み換え体だ。 2022年8月に インド、9月に シンガポールや米国から報告され始めた。
XBBの亜系統であるXBB.1.5は 米国を中心に広がり始め、XBB.1.9.1は 欧州などから、XBB.1.16
は インドなどから広がり始めている。
感染研によると、XBB.1.5は BA.5 や BQ.1よりも感染が広がりやすく、感染者を増加させる
優位性がある。また、感染したりワクチンを打ったりしてできた免疫を回避する能力は BA.5よりも
高いとされており、すでに 感染したことがある人や、ワクチンを打った人も感染するリスクが高まる
可能性がある。
ただし、入院が必要になるなど 重症化する割合は、BA.1やBA.5、BQ.1と同程度だとみられている。
英健康安全保障庁(HSA)は、22年4月4日~23年2月24日に遺伝子解析したウイルスの増減の
速度などから、オミクロン株の様々な亜系統の感染の広がりやすさを推計した。XBB.1.9.1 は、XBB.1.5に比べ、さらに 10%近く感染が広がりやすいとみられた。
英HSAは 4月21日現在、XBB.1.16 も XBB.1.5より 感染が広がりやすいとみられるものの、
まだデータの数が少ないため 確実ではないとしている。XBB.1.9.1 や XBB.1.16の免疫回避能力
と重症化率については まだ不明だ。
英国内では、XBB.2や、XBB.1.9.2といった、新たなXBB系統の亜系統も報告されている。
■第8波を超える可能性
全国の感染者数は、4月に入り、東京などの都市部を中心にわずかずつ増える傾向にある。
厚生労働省の専門家会議の座長を務める脇田隆字(たかじ)・感染研所長ら専門家4人は 4月19日、
今後の感染がどう推移するかの予想を発表した。
「 第9波の流行が起きる可能性が高い。国内では(英国などに比べて)自然感染の罹患率が低いこと
を考慮すると、第9波は 第8波よりも大きな規模の流行になる可能性も残されている 」
厚労省が 2月3日~3月4日に 5都府県で実施した住民の抗体調査では、自然感染したと考えられる
住民の割合は 32.1%だった。 2月に実施した献血者の調査では 感染したとみられる人は 42.3%
だった。
一方、英HSAが 昨年10月~今年1月に実施した献血者の調査では、感染したことのある人の割合
は 86.1%だった。 英国では 感染経験者が多いため、これまでの亜系統よりも 感染が広がりやすく、
しかも 免疫回避しやすいXBB系統が主流になっても 流行の波はさほど大きくならなかった。
しかし、国内では、XBB系統が主流になるだけでなく、大型連休で 人と人との接触が増え、さらに
5月8日からは新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行し、法律に基づく感染対策が大きく緩和
される。そのため、第9波は 大きな流行になる可能性がある、と専門家有志は指摘している。
その上で、特に 重症化リスクの高い高齢者ほど、すでに感染した人の割合が低いことも踏まえ、
次のように助言した。 「 死亡リスクの高い高齢者や基礎疾患を持つ人たちに対する対策は
5月8日以降も継続する必要がある 」 (科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2023年5月15日号
2023.5.12 ダイヤモンド・オンライン
・「コロナ収束ムード」漂うも
・「第9波」到来リスクは残る
さらに、コロナによる死者増加の大きな要因となっていると見られる医療機関や高齢者施設
でのクラスター被害を減らすために、特に 流行時には 検査の効果的な運用が求められる。
コロナが5類になると、検査費や治療費の公的負担が減らされる。 院内や施設内でクラスター
の兆候を早く把握するには、濃厚接触者の範囲をやや広めに取って、対象者を繰り返し検査する
必要がある。
だが、これに要する費用が医療機関や施設の持ち出しとなると、躊躇するケースが出てくる
かもしれない。さらに、流行期には院内や施設内へのコロナの持ち込みを防ぐために、スタッフ
に週2回程度の検査をすることが、入院患者や入居者の感染者数や死亡者数を減らすという報告
が米国からあった。
診断目的でのPCR検査は 有効である一方で、クラスターを抑え込む際には、一定の精度
(感度・特異度)が保証されていれば、PCRより はるかに安価な抗原検査でも十分であるようだ。
鍵となるのは、頻回の検査と 結果報告の迅速さだとされる。
流行期には、病院 や 高齢者施設への検査の公的補助は、引き続き行うのが望ましい。
限られた予算で 重症者や死者を減らす、費用対効果に優れた政策と考えられるからだ。
・コロナ後遺症の実態も いまだに謎が多いまま
最後に後遺症の問題に触れたい。コロナの後遺症については まだまだ未解明の部分も多いが、
多くのことも分かってきている。コロナウイルスは当初、肺炎を中心とした呼吸器感染症と
考えられてきたが、実際には ほとんどあらゆる臓器に侵入する多臓器疾患である。
コロナの発症から3カ月以上たっても 何らかの症状がある人は、少なく見積もっても感染者の
10%程度はいるのではないかと推定されている。メカニズムについては不明な点も多いが、
コロナ自体の持続的な感染に加えて、免疫系の異常や微小血栓の存在、腸内細菌叢の異常などとの
関連が取り沙汰されている。
特に 頻度が高いのは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群など脳神経系への影響である。
この病気になると、健康な人にとっては 何気ないような日常動作でも、強い疲労感に襲われ、
身体がだるくなったりする状態が繰り返される。
この後遺症が続いている人のうち、75%の人は フルタイムで働けなくなり、25%の人は
寝たきりになるといわれる。しかし、世界中で この後遺症の認知度は低く、医師の間でも ほとんど
認識されておらず、心理的な問題である と誤診されることも多い。
※ 日本のコロナ感染者数累計:33,803,572
この10%は、338万357人
うち、75%のフルタイムで働けない人は、253.5万人
他の25%の寝たきりになっている人は、 84.5万人
新型コロナウイルス 日本国内の感染者数・死者数・重症者数データ|NHK特設サイト
〇 コロナ後遺症(3か月以上経っても症状あり)の人は、
例えば 働き盛りの 31歳(107.7万),32歳(112.8万),33歳(114.8万)
すべての人口(計335.3万)規模に相当する.
現在 この人口の規模が、ごっそりと 戦力外になっているのである。
世界で最も名高い医学雑誌『The New England Journal of Medicine』にも、医師のこうした
認識が、コロナ後遺症患者を置き去りにしかねない と懸念を表明した記事が掲載された。
科学的に証明された根本的な治療法は 存在せず、多くの人は完治しない。コロナに感染すると、
この病気の発症リスクが 60倍になるという。大人で コロナ後遺症が多いのは、36~50歳であり、
子どもでも 同様の症状が報告されている。
何度もコロナに感染すると、こうした後遺症のリスクは増すとされる。あまりに感染者が増える
と、今後、数十年にわたって、働くことさえままならない人が多く発生する可能性があり、
患者本人はもちろん、社会経済にとっても 深刻な課題となりかねない。
後遺症を減らすには、ワクチン接種や先に述べたパキロビッド内服が有効であるという複数の報告
があり、そのことも 人々に伝えていく必要がある。