登山靴新調 | 八ヶ岳 随筆 亀盲帖

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曲草閑人のブログ

 最後に登った山は八ヶ岳の編笠山(標高2524m)の単独行であった。その時に登山靴が破損し、やむなく破棄した。以来、我が家には『自分登山史の記念登山靴』が棚に飾られているだけで、実用出来る登山靴は無かった。

 

 八ヶ岳も南アルプスも未だしっかり雪を被っているが、いよいよ春が近づいてきた。雪解けもそう遠くはないだろう。今年は久々に山をやりたい。

 

 今まで、仲間と何度となく山行をやろうという話を繰り返した。山行が決まったらその時、靴を新調しようと考えていた。しかし、話ばかりで結局実行されないままとなっている。学生時代と違い、それぞれの家庭の事情もあり、それぞれの生活も有り、仕事の都合もあり、やむお得ない事だ。だが、今年はやりたい。今年はまた単独行でもやるつもりだ。それにはまず、靴を新調しなくては。

 

 先日、ちょっとした用が有り、八ヶ岳アウトレットに遊びに行った。知人と会い、用を済ませ、ちょっと買い物もした。その時の帰りがけに、フと、あ、登山靴を見てみようと思いついた。実際には登山専門店で買うつもりだったので、ちょっと下調べをしようと思ったのだ。

 

 アウトレットの中にもアウト・ドアの専門店は何軒も有り、順番に見て廻る。まあまあイイなあと思う靴はやはり、安くても2万~3万円。高級な物は5万6万とする。やっぱり、こんな感じなんだなあと、あたりを付けた。そうして、ある一軒のショップに入った。すると、そこでは決算セールなのか、ものすごい値引きで幾つかの商品が並んでいた。その中に登山靴があった。セール対象の登山靴は二種類あり、どちらも中々良さそう。セール品なので現品限り、サイズはココに有るだけとのこと。

 

 二種類の登山靴は、一方が本格的な登山靴(重登山靴)で他方がトレッキング・シューズ(軽登山靴)だったのだが、その値段がビックリだった。登山靴の方は定価22000円のものが、なんと6000円! トレッキング・シューズの方は定価24000円のものが、なんと7000円となっていたのだ。スゲェー値引き率だなあ、と思いつつ、買う時は専門店でと思い込んでいたため、そのままアウトレットを後にした。

 

<登山靴 (重登山靴) 定価22000円>

 

<トレッキング・シューズ (軽登山靴) 定価24000円>

 

 家に帰って、今日見た登山靴が頭から離れない。う~ん、どうしよう。「モンベル」や「好日山荘」などの専門店で買うことにこだわっていたが、考えて見ればあの店もれっきとしたアウト・ドアの専門店ではないか。しかも、あの値引き率は他のどの店に行っても有り得ないよなあ。う~ん、気になる。よし!明日、もう一度行って、サイズがあるかどうか、履き心地はどうか、確かめてみよう。そして気に入ったら、どちらか買っちゃおう。そう決めた。

 

 翌日、さっそくアウトレットに行き、いそいそと店に向かう。あるある。二種類の登山靴がちゃんとセールのままある。店の人を呼んで、試着させてもらう。どちらもピッタリ! 店の中を歩き回るも、完璧なフィット感。自分の為にオーダーメイドされたみたいに感じる。うわー、コレ、どっちもイイなあ~。よーし!どっちか買っちゃおう!

 

 二種類の靴をとっかえひっかえ、穿いちゃあ脱ぎ、脱いじゃあ穿き、歩き、眺め、さすって、迷いに迷っていると、しびれを切らした店員が声を掛けてきた。

 

 「どちらも素晴らしい靴ですよ。このメーカーのこのクラスの登山靴を、こんな値段で手に入れることは今後もう出来ません。どちらも自信を持ってお薦めします。いっそ両方お買い求めになったら如何ですか? 考えてみてごらんなさい。両方とも定価は20000円を超えています。二つ合わせると定価46000円です。それが今なら両方合わせて13000円。一足の定価より遥かに安く二足ご購入いただけます。」

 

・・・まるで悪魔のささやきだ。

 

 「そうだなあ~。どっちもカッコイイもんなあ。確かに予算は20000円までで買いたいって考えていたんだよな。一足でも13000円なら完全に予算を下回る金額。だのになんとそれで重登山靴と軽登山靴の両方手に入る。しかも履き心地はどちらも最高。これって買うべきだよなあ。うん、買うべきだね。今がチャンスだ! 今しかないよ、買っちゃえー! よし、買っちゃおう!」

 

 以上が自問自答の心の声で、次の瞬間は店員に実際に声を掛けていた。

 

 「両方下さい!」

 

<両方買っちゃった! 両方合わせて13000円也>

 

 というわけで、今、我が家には二足の新品の登山靴が有る。欲しかったもの、探していたものが、予想外の形で手に入った時ほど嬉しい事はない。わーい!ウレシイナ、ウレシイナ!

 

<靴紐の調整  こら、ブーシカ、やめなさい!>

 

<ブーシカも同じくらい嬉しいようだ>

 

<さっそく慣らし穿き>

 

<さあ、ブーシカ、一緒に森を歩いてみようか>

 

 やりたい山は幾つも有る。狙っているのは難しい山じゃなくて、日帰り山行で楽しめそうな山ばかり。でも、山を舐めてはイケナイ。十分な装備は絶対必要だ。重要なのは特に足回り。今回の買い物で足回りは完璧になった。しかし、完璧な登山靴を買ったことに満足して結局登山はしなかった、という本末転倒に陥らないよう、十分注意しなくてはならない。