アルゼンチン出身のAgustin Balbiシェフによる、モダンな日本料理の店、Hakuで、台湾で台湾食材を使い、自身のテロワールを表現するTairroirのKai Hoシェフと、様々な食材、材料、機材を使い、新しいカクテルを追求するMixology Groupの南雲主于三さんを招いての、6ハンズディナーが行われました。

→Hakuについて詳しくはこちら

 

(左から、Kaiシェフ、Agusitinシェフ、南雲さん)

 

3人に共通するところは?とお聞きすると「ピュアな味わいを好むところが似ている」とAgustineシェフ。

 

ペアリングは今回はHakuのソムリエによるワインも織り込んだミックスペアリングで。

「時々カクテルではないものを入れると、より緩急がついた印象的なペアリングにできる」と言う考えから。

 

 

南雲さんは、カクテルペアリングの際は、アルコール度数は大体ワインと同じくらいの13〜14%、またはクラフトビールくらいの、6%に抑えているのだとか。

 

そこで、まずはKai Hoシェフが持ってきたのは、台湾のワイナリー、Weighstoneの、限定400本だけしか生産されていないという、L’Origine。

 

 

自然醸造で、24ヶ月瓶内熟成させた台湾のスパークリングワイン。ゴールデンマスカット100%ということで、確かにフルーティーさ、そしてナチュラルワインのような、少しウールのような動物性の香りがあります。

 

Welcome Snacks

 

 

それに合わせるのは、様々なスナック。

Agustineシェフは、個人的に大好きだという、「お好み焼き」をアレンジ。硬めの小麦生地の上に、千切りキャベツとマヨネーズ、ソースに鰹節を乗せて。

 

 

もう一つは、卵黄のムースの上にいくらを乗せた最中。

 

 

そして、Kai Hoシェフは、オデットで働いていた、ということもあって、以前オデットでよくスナックとして出していたバジルのパフペストリーに、ラタトゥイユを詰めて、キャラメリゼした黒オリーブを飾ったもの。もう一つはチュイルのような薄い生地にピータンと豆腐、きゅうりを包んだアジア風のもの。

 

 

Hokkaido Scallop

 

 

スターターが終わって最初の一皿は、Kaiシェフのもの。ビネガーゼリーの上に、カリフラワーのクリーム、皮が柔らかく、まったりとした食感と、後味にはっきりとしたナッティさのある、台湾産のベルーガキャビアをのせて。周りには、塩でしっかりとマリネして水分を抜いたホタテ。

それに南雲さんが合わせたのは、ウォッカベースのカクテルResonance。

 

 

ライムリーフをウォッカに漬け込むだけでなく、別のウォッカに焼いたアスパラガスをつけて、やや甘さのある緑の香りを移します。これが、カリフラワーのクリームにとてもよく合っていました。

 

続いては、Agustin シェフのShiro Uni。しっかりと表面をカリッと焼き上げたブリオッシュに、クリーミーなウニをたっぷりと乗せて。

 

 

これに南雲さんが合わせたのは、ウニの香りと合うカクテル Teatail

 

最近南雲さんがよく作るのが、5ccだけビンテージのコニャックやカルヴァドスなどを入れて、それをスワリングしてグラスの内側に沿わせ、香りをグラスの内側にまとわせてから、カクテルを静かに注ぐという方法。最初はビンテージスピリッツの香りがふんわりと漂い、カクテルはフレッシュな味わい。それがスワリングすることによってお互いが重層的に重なり合う。日本の文化では、不完全さに美を感じたり、時間の移り変わりに美を見出したりするもの。そのような「移り変わり」を表現するカクテルでもあるのです。→南雲さんのカクテルについて詳しくはこちら

 

 

まず作ったのは、Agustinシェフの生まれ年でもあるという、1988年のアルマニャックをスワリングさせた中に、上質な烏龍茶として知られる梨山茶、オーガニックの桃のリキュールを混ぜたカクテルを。最初に、アルマニャックの奥行きのあるウッディな香りが漂った後に、梨山茶のどこかフルーティーさのある緑の香りと桃の香りが、胡瓜のような瓜系のニュアンスの香りがあるウニと合います。

 

続いてはワイン。

Tenuta Selvadolce ‘Rosso se’2012

 

 

ピノ・ノワールに似た品種の イタリア・リグーリア州のナチュラルワイン。生産量が年間1000本という、非常に珍しいもの。ぶどうのフルーティーさを生かした味わいです。

 

65℃ Egg

 

 

そこに、Kaiシェフが、以前働いていたJaan(現在は自身のレストラン、Odetteをオープン)のJulien Royer シェフのシグネチャー、温泉卵とチョリソー、クルトンの一皿にインスパイアされて台湾風に作ったという料理をサーブします。紫タロイモのピュレ、温泉卵、セップ茸、上には、ロティのようにカリカリに焼いたパンケーキ、伝統的な揚げたタロケーキの角切り、素揚げにした小エビ、スモークした鴨の角切りを散らして。

 

Octopus

 

 

低温調理機は一切使わないというAgustinシェフ、スペイン・ガリシア産のタコは、大根おろしでよくもんでから、だしと醤油で80度で2〜3時間茹でて、醤油、酒、みりん、玉ねぎ、にんじんなどで作ったマリネ液に24時間浸けてから、ガスの上で火をつけたオークの炭で炙ってあります。ほうれん草のパウダーと、自家製味噌のソースを添えて。

 

 

このタコに南雲さんが合わせたのは、「タコには甲殻類が合う、甲殻類と同じような組み合わせ」ということで、しっかりとした味わいに、緑の香りを添えるようなイメージで作ったHerb to the glass。ドライベルモットとスーズ、エルダーフラワーのリキュール、フレッシュなコリアンダーの葉と胡瓜を絞ったジュースを入れて。

 

Les poisson du jour

 

 

続いては本日の魚。この日は大分産の鯛で、皮を外して、皮の代わりにしらすを乗せてカリッとグレープシードオイルで焼き上げて。グレープシードオイルは、熱した時に高温にできるので使っているのだとか。少し中華の高温で炒めた時の油の味、Wokのようなニュアンスがあります。炒めたシャロットやタイムなどの代わりに、サンドライトマトと塩昆布を入れたというブールブランベースのソースを添えて。

 

Sake & Tea

 

 

そこに南雲さんが合わせたのは、日本酒。同世代の友人でもある杜氏、吉田泰之さんが作っているという、手取川の純米大吟醸、生酛の無濾過の生酒。酵母が生きているので、運搬などの扱いが難しい部分もあるものを、大切に香港に持ってきました。

 

 

ほんの少しだけ香りづけに、台湾の最も南でつくられる台湾の港口茶をインフューズして。いただいてみると、生酒ならではの少し発泡を感じる味わいで、香りにほんのりと中国緑茶独特の桃やマスカットを思わせるような甘い香り、後味にほのかに苦味があり、この苦味がブールブランのコクを甘く感じさせるように思いました。

 

Creole Duck Breast

 

 

そして、肉はKaiシェフによる、スペイン産のオーガニックの鴨。しっかりと脂肪がついているので、フライパンで焼いて、表面の皮をカリカリに仕上げるとともに、皮の下の油を程よく落として、それから95度のオーブンで芯温が45度になるまで15分ほど焼き上げるのだとか。砕いたローストアーモンドに、台湾の胡椒、馬告を混ぜたもの、セロリをビーツのジュースに漬け込んだものを添えて。台湾らしい果物の一つでもあるという、金柑の砂糖煮、ビーツのジュースに漬け込んだセロリ。

 

Kaiシェフは、「これは台湾でも愛されている北京ダックをイメージ。鴨のジュの中に、北京ダックを包むのに使うクレーブを浸して、香ばしさを移した」と語ります。確かに少しでんぷん質のとろみと、キャラメリゼしたような香ばしさがあります。

 

Aroma tex

 

 

ペアリングは、カカオニブを漬け込んだカンパリ、梅酒、紫蘇リキュール、カシスのリキュール、日本の紅茶、ヴィンテージのカルヴァドスを使ったもの。

ビーツと同じ赤い色素の紫蘇、アジアな味わいの梅酒。北京ダックには欠かせないのは、甘い梅のソース。鴨に梅のフルーティーで酸味のあるソースを添えるようなイメージです。

 

 

そして、Kaiシェフからサプライズの一皿。

 

 

「アジア人にとっては麺は欠かせないもの。台湾で愛されている、上海風の焦がしネギ油を使った汁なし麺を作ってみました」とのこと。中華圏でも、最後の締めの炭水化物は欠かせないもの、手打ちの麺に焦がしネギの油にラードと醤油、刻んだ青ネギ、削ったボッタルガの粉をかけて、洋風のコクを加えています。汁なし麺にはスープがつきもの。セロリ、人参、玉ねぎと鶏肉でとって卵白で清澄したチキンコンソメを添えて。

 

ここからがデザート。

Nashi pear

 

 

Agustin シェフが用意した、和梨のデザートは、最後に凍らせた立派な和梨を削りかけて仕上げます。カリカリのメレンゲ、ヨーグルトのエスプーマを添えて。

 

 

 

南雲さんが作ったのは、和梨との対比が楽しめる、洋梨の香りをまとったジャスミン茶のカクテル。アルゼンチン人の解釈の和梨、日本人の解釈の洋梨。そんな自由な解釈の交換が楽しいコンビネーションです。

 

 

End of Bouquet

ポワール・ウィリアムの中でも、粕取り焼酎のような独特の香りがなく、とてもピュアな印象のMetteのものを使い、ジャスミン茶、エルダーフラワー、ホエーなどを使い、まるで香水のように、白い花の印象がとても華やかなカクテルを。アルコール度のインパクトが高い食後酒の代わりに、香りのインパクトで、口の中に清涼感が広がります。

 

Tairroir’s Pineapple “Cake”

 

 

そして、最後はKaiシェフのシグネチャー、パイナップルケーキの再構築。真ん中の部分は、ふんわりとした自家製ギモーヴ、間にラムレーズンのクリームをはさみ、その上下を椿オイルで作ったサクサクのサブレでサンドして、周りを乾燥させたパイナップルのスライスで包みます。

 

 

Nouvelle Vague

 

 

そして、南雲さんは抹茶を使ったカクテルを、ウォッカ、パッションフルーツ、ココナッツウォーター、バニラなどで、抹茶の味の構成要素を更に昇華させたような印象。抹茶のカテキンの収斂性で、甘すぎないパイナップルのデザートの、自然な甘みが引き立ちます。

 

3人3様の「アジアの解釈」が重なり合ったスペシャルディナー。Kaiシェフはシンガポールのモダンフレンチ、Jaanで研鑽を積んだシェフ、またAgustinシェフもフランス料理での経験があります。フランス料理も、バーテンディングも、洋の技術。それを、いかにそれぞれが消化して、アジアの文化を表現していくか。上質な日本の食材に洋のクリームやバターの味わいを加えた、Agustinシェフの料理、台湾人として自分の心に残る「アジアの味」をフランス料理の技法に落とし込むKaiシェフの料理、日本の茶道と洋のバーテンディングの哲学を融合した南雲さんのカクテル。こんな形のコラボレーションが、これからのアジア料理をもっと面白くしていくのかも知れません。

 

 

 

<DATA>

■Haku x Tairroir x Mixology Group

日時:2018年9月21日、22日(終了)

 

■Haku(ハク)

営業時間:ランチ 12:00〜14:30、ディナー 18:00~22:00(無休)

住所:Shop OT G04B, Ground Floor, Ocean Terminal, Habour City, Tsim Sha Tsui, 香港

TEL: +852 2115 9965

URL : http://www.haku.com.hk/