東京の一等地に5軒のバーを展開する、今注目のバーテンダー、南雲主于三さんがシンガポールのインターコンチネンタルホテル内にある会員制サロン、1880で、シェフなどの飲食関係者やメディアを対象にした海外初のポップアップイベントを行いました!

 

 

先週行われた、Asia's 50 Best Barsでも40位にランクインしたMixology Salon。

 

 

父が陶器の収集家で、子どもの頃から、父が気が向いた時に点てる抹茶を飲んで育ったという南雲さん。

バーテンダーになり自らの店を持ってから、シェフやソムリエ、クラフトビールの造り手など、様々な方とコラボレーションをする中、一番興味深かったのが、お茶だったとか。

 

 

お茶には、抹茶や煎茶、ほうじ茶や玄米茶など種類が多く、生産者や畑ごとに味が違い、幅が広い。また、「国を変えると、それぞれの国に独自のお茶があり、広がりもあると思った」というのがその理由。

 

そんな南雲さんの設立した会社、SPIRITS&SHARINGで、クラッシックカクテルのマスターバーテンダーとして働く伊藤学さんと、二人で行うセッション。

 

 

 

Mixologyとは、混ぜることを科学する、という意味、それを店名に冠したMixology Salonのアプローチは、科学的かつ、日本の精神を表現しているという意味で、とても印象的なものでした。

 

 

宇治産の玉露をテーマにした7コースが、一口サイズの軽食とのペアリングという形で提供されました。

 

まず面白かったのが、同じ玉露の茶葉を使い、一煎目、二煎目、三煎目、茶殻と、それぞれの楽しみ方で提供していたこと。

 

1st Shizuku "Drop" Tea

 

 

まずは本来の味をと、何も加えていないお茶そのものの味を楽しんでもらいます。「一番、玉露の旨味が出るのは、氷温抽出か、35度〜40度」とのことで、たっぷり8gの茶葉に、40度のお湯を40mlだけ加えて、3分間抽出した一煎目を。

玉露ならではのボリュームの高い旨味と甘みは、良質な茶葉ならでは。様々な産地を巡って、どんな茶葉を使うか決めているのだそう。「カクテルは、加える材料で味を調節できる。甘みや苦味、それぞれの茶葉の個性に合わせたカクテルを作っています」と南雲さん。

 

軽食は、少し甘めに作った自家製のドライトマト。

玉露のテアニンの旨味に、グルタミン酸とアスパラギン酸を含むトマトの味を凝縮させて、旨味の相乗効果を起こさせるコンビネーション。

 

2nd Gyokuro Tea-tail

 

 

二煎目は、50〜52度に温度を上げ、同じく3分間で70mlを抽出。これをカクテルに仕上げて行きます。

「玉露は、合わせる味の幅が狭く、カクテルにするのが難しいお茶の一つ。しかし、アイラウィスキーのスモーキーさが玉露に合うし、玉露には海のニュアンスを感じる。なので、海に近い蒸留所のアイラのウィスキーにしたのです」と南雲さん。

そこに、フルーティーさ、シトラス感をプラスするアイスワインというコンビネーションを考えたのだとか。

 

また、印象的だったのは提供方法。まずは、アイラウィスキーをグラスに入れて、グラスを斜めにしてから回し、グラスの内部にウィスキーの香りをつけます。





そのあとに、お茶、アイスワインを加えて仕上げます。

 





つまり、グラスの中は混ざっていない状態。それを、「スワーリングしないでください」と渡されます。

最初の香りは、アイラウィスキーのスモーキーさ、力強さ。そして、静かに一口いただいてから、スワーリングします。

すると、最初ウィスキーの印象が強かったところから、徐々に玉露の旨味、アイスワインのフルーティーさが立ち上り、まるでワインのように、時間と共に変わっていく味わいが楽しめます。

 

ただ飲むのではなく、一口飲んでからスワーリングするという「作法」があるのが、茶道のような感じがして面白い、と思ったら、南雲さんによると、カクテルそのものにも、茶道の精神が隠れているのだとか。「日本の美、侘び寂びは不完全の美。混ざっていない、不完全な状態は茶道、そしてスワーリングではありますが、混ぜる、というのはカクテルの作り方。一杯のカクテルが茶道でスタートして、カクテルとして完成する、というのを表現したかった」とのこと。

 

カクテルは元々、欧米発祥の文化。Asia's 50 Best Talkでも、アジアのバーテンディングとは何か、という話が議題に上がり、「ただ食材を西洋のものからアジアのものに置き換えるのではなく、文化の理解が必要」と結論づけられましたが、こんな風な日本らしさ、アジアらしさの表現があるのだな、と改めて感じさせられました。

 

合わせたのは、細かく刻んだ奈良漬、酒粕、クリームチーズで作ったディップをクラッカーに乗せたもの。

クリームチーズとウィスキーと、酒粕と奈良漬の和の旨味は玉露と、ゆずの香りはアイスワインと、それぞれ印象の重なる食材を組み合わせていたのが印象的でした。

 

3rd Soba, Pineapple, Miso

 

 

続いては、そば茶。「蕎麦茶の香ばしい香りは、焼いて美味しいフルーツに合う」と、パイナップルを。他にも、りんごや桃との相性がいいのだとか。

 

使うのは、フレッシュのパイナップルジュース。フルーツを焼くと生まれる、キャラメリゼした味わいを、そば茶で加える、そしてさらに凝縮した香ばしさと味わいを、上から散らした自家製の合わせ味噌のパウダーで加えるような印象。




 

こちらは、自然な甘さに、味噌の香ばしさが生きていて、食事にも合いそうなカクテル。味噌の味わいと相性の良い、小さな醤油せんべいを合わせて。

 

4th Exclusive Gyokuro Spirits

 

 

また、南雲さんはエバポレーターを使って、蒸留を行なっているのも特徴。こちらは、様々な分量の玉露の茶葉をウォッカに入れて、抽出したもの。茶葉の分量は、試行錯誤の結果1ボトルに対して50g。一からこういったベースのアルコールを作ることもあるミクソロジーカクテル、「エバポレーターは気圧と回転数と温度で結果が変わる。また、味わいの違いが、素材由来なのか、工程なのか、機材によるものかを見極めるのも重要」とのことでした。

 

 

(エバポレーターの使い方を説明する南雲さん)

 

ちなみに、会場から出た「何回くらい実験したのか」という質問には、「とにかくたくさん。原価を考えると、数えたくない」と苦笑いをされていました。

 

味わいは、透き通ったウォッカのアルコールのボリューム感の中に、しっかりと玉露本来の香りと甘みが感じられて、とても好みでした。地元のジャーナリストの友人達からも、「このまま売ったら買うのに」と大好評でした。

抹茶クッキーにメレンゲを挟んだお菓子を添えて。

 

 

甘みが強いものと合わせても、アルコールのボリュームで後味をすっきりと、またクッキーの抹茶の味わいに、この玉露スピリッツが玉露の香り高い甘い印象を加えることで、ワンランク上のペアリングに仕上がっていました。

 

5th Houji cha Manhattan

 

 

自家製の、ほうじ茶を漬け込んだラム酒に、コニャック、ベルモットを加えて。

 

 

合わせたのは、ほうじ茶とヒッコリーでスモークした、柿の種。特に、ピーナッツが、油分のためかしっかりとスモークの香りを吸い込んでいて、アルコールよりも、むしろフードの香りのボリュームが高く、そちらで香りを加えるという逆転の発想が面白かったです。

 

6th Match God Father

 

 

抹茶は、京田辺の出島さんという方が育てている茶葉から。畑ごとに違う抹茶を作っていて、全体的に甘みが強く、苦味が控えめなのが特徴とか。

白州の12年、アマレット、黒蜜と抹茶パウダーという、どこかデザートのような仕上がり。最後に抹茶を加えて茶筅で点てる姿を見られるのは、外国人のゲストも喜びそう。アマレットのクマリン系の香りとあう、桜餅を添えて。

 

 

香りは甘いですが、ウィスキーのスモーキーさが甘すぎないバランスに。南雲さんのカクテルはどれも、複雑ながら、糖分もアルコール度も高く感じない、程よいバランス感で、グラスを重ねても飲み疲れず、心地よかったです。

 

7th Warmed Gyokuro tea

最後は、三煎目の玉露を、一煎目と同じように、アルコールを加えずそのまま。雑味が出てしまうので、浸出時間は1分。ほのかな苦味とすっきりとした清涼感を感じる三煎目は、味わいとしても食後にぴったり。

 

南雲さんの出身地の備前焼や信楽焼など、地図を広げて、様々な日本の焼き物の産地についても説明があり、「器を愛でる」茶の心が、外国の方にもわかりやすく紹介されます。

 

 

合わせたのは茶殻。南雲さんから、「日本では、全てのものを無駄なく使う文化があるだけでなく、茶葉には12種類のビタミンが含まれていて、そのうち水溶性のビタミンは半分だけ。残りの半分のビタミンは、茶殻を食べることで摂取することができます」と説明が。




 

今回の玉露のコースは、海外からバーテンダーのお客さんがいらした時に提供するもので、カクテル自体は、Ginza SixのMixology Salon で楽しめるもの、とのこと。

お茶を使ったカクテルを通して、その両方の新しい可能性を探りたい、とのこと。日本のカクテルの新しい形として、とても印象的なセッションでした。

 

 

<DATA>
■ Mixology Salon Ginza Pop up @ 1880 Singapore

日時:2018年5月8日(終了)
会場:1880  1 Nanson Road Singapore 238909 Nanson Rd, Singapore 
■ Mixology Salon Ginza

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