タバコとタコと。 | 境界線型録

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 稽古がヘンな事情で吹っ飛んだので、急遽、タバコ巻器を製造した。私はケチなので自作できそうなものは、なんでも自作する。子どもの頃からそうで、分解して破壊するものの方が多いけど、色々作って遊ぶ。
 タバコ巻器は市販の格好いいものも数百円からあるが、そういうものに倣わず自分でどうしたらもっとも効率的に良い感じのタバコが巻けるかを考える過程が楽しい。作ること自体は面倒臭いので適当だが、思いつきを形にするのはなにものにも代え難い喜び。
 自製タバコ巻器にシガーペーパーをセットし、タバコの葉を詰めた。

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 手巻きだとこのボリュームにするのは、難しい。タバコ巻器の最大のソリューション課題は、このボリュームを出すことだった。

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 シガーペーパーをゆっくり引っ張りつつ回して、貼りつけ部をペロンとなめる。
 そして貼りつけ部を、ペタリとやる。
 手巻きタバコの完成。

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 この自製タバコ巻器は、ただの小さな木箱のようなものだが、陥没部が円筒状になっているところがミソ。ラワンの棒を万力付き工作台に固定して、電動ドリルに市販タバコの太さに近いドリルを付けて手持ちでくり貫いた。垂直に穴を穿つマシンはあるが、これほど長い穴には対応できないので、手持ち。穴が曲がってしまったのはご愛敬。商品ではないので曲がろうが拉げようがどうでも良い。

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 シガーペーパーのサイズに合わせてラワン棒をカットし、両端にやはりラワン棒を削いだ木片を貼りつけ、ざらざらを磨いて完成。たいへん便利な逸品ができあがった。

 これひとつあれば、さらにタバコ関税が引き上げられても、シケモクを巻いて吸うこともできる。市販サイズにできるので、やはり市販されているやに取りフィルターにぴったりフィットする、と至れり尽くせり。貧しい愛煙家の必需品として普及することだろう。しないか。

 さて本題はタバコではなく、タコ。
 momoさんの記事でモンドラゴン協同組合が紹介されていて感動したので、わが国の可能性について、ちょっと触れたくなった。
 今朝、ラーメンを食べつつテレビを眺めたら、タコの島として売り出している日間賀島が紹介されていた。私はここにちょっと着目していた。ヒマか?と問うような名が心地よい。
 愛知の小さな島だが、観光に訪れる人が多いらしい。とりたてて観るような名所旧跡はないようだが、美しい海があり、なんといっても豊かな海産物がある。観光と言うよりも、海産物目当てで行きたい、飽食の島ではないかと思う。
 もっとも島の皆さんは観光客誘致に熱心で、さまざまな祭りを開催したり、タコの島、フグの島として宣伝強化するために、島中にタコやフグの意匠を展開したりして頑張っている。タコ祭り、フグ祭りなどというイベントもある。

 長くなりそうなのでBGMも貼るか。



 この島は観光名所として成功し、潤っている。国内の漁港としてはもっとも豊かな範疇に入るのではないか。
 日間賀島漁業協同組合の取り組みは、農林水産省の「立ち上がる農山漁村」の事例として平成20年に選定もされた。立ち上がる農山漁村というのは文科省の教育GPなどと似たような制度だろうし、その有識者会議やそこで策定される施策や提言はどうなのか良く知らないけれど(というか報告書や提供マニュアルが大部過ぎて読む気がしない)、日間賀島の成功は、よくよく分析されると良いだろう。

 第一の成功条件は、元もと豊かな海があり、海産物に特色があった。近海物、地場産物がUSPを自然に恵んでくれている。わざわざ遠くまで漁に出かけて水揚げする漁港とは性質が違う。
 第二の成功条件は、その豊かな海産物に、地元の漁協の皆さんがしっかり目をつけたこと。おらが島には良いタコがある、良いフグがある、こいつをインパクトのある食に仕立ててキャラクターを立ててはどうかと考えた。タコの丸茹で料理は、目論見通りのインパクトを市場に与えた。
 観光客の主目的は、たぶん観光にあるのではなく、タコ料理にあるのではないかと思う。私は行ったことがないのでわからないが、とりたてて人寄せを目的とした施設などはないのではないかと想像する。なぜなら、そんなものがあると、たぶん逆効果になりかねないから。温泉地の施策の失敗を見ればわかる。伊豆などは良い例だと感じるが、そこら中に博物館だのミュージアムだのギャラリーだのがあり、遊興施設も雑多にある。遊園地みたいなものやスーパー銭湯のお化けみたいのもあった。
 が、考えなくてもわかりそうなものだと思うが、われわれ観光客というのは、見知らぬ土地の風情を愉しみに行くので、新奇な祭りを愉しみに行きたいのでもないし、芸術に触れたいのでもない。温泉地ならば、温泉地の風情を味わいたくて行く。サスティナブルというのは、そういうモチベーションの本質を提供することで生まれる。故に、人気が萎んだに他ならないだろう。
 日間賀島の成功は、どう見ても、そこに自然にある特性をセールスポイントにしたおかげだろう。しかも、他に余計なことをしてニーズを分散させたり風情を破壊していないから、いつの間にか安定した成果を生みだし得た。
 失敗するケースを見ていると、必ずこれじゃ弱そうだという不安にかられたり、この方が強いと勘違いして、やらない方が良いことをやってしまった、という事情が散見される。あらゆる事業がその類から洩れないと思う。
 日間賀島の成功は、今のところ、やらない方が良いことをやっていないことにあると言って良いのではないか。日間賀島がもっている本質的な魅力を素朴に伝え得たから、人々はタコの丸茹で料理を食いに訪れる。同じタコ料理でも一流シェフの手になる何々と宣伝してしまったら、きっと瞬間風速は強まるが、持続力は弱まる。島の人々が素朴に自分たちが持てる財産を検討し、素朴に名物開発し、素朴に提供しているから、われわれ余所者は行ってみたくなる。
 その本質は、個性に他ならない。
 なぜ個性的であるべきか?というのは、そう言うことだろう。一様であるなら、誰も移動する必要はない。例えば国際化した羽田は成功すると思うが、それは東京がすぐという利便性は大きいけれど、あのターミナルが日本という個性を感じさせるプランになったから。意図的か否かは知らないが、たぶん成功例となり得るのではないか。開く前日に行ってから後は目にしていないが、きっとそうだろう。

 モンドラゴンの成功は協同組合という仕組みにも当然あるが、彼らがまず取り組んだのは、伝統的に得意だったストーブとかコンロづくりだった。彼らは観光という外部を呼び込むビジネスではなく、伝統的な物作りを地道にやった。私は経営の仕組み、組織体としての有効性と併せてそのこと、自分たちにできる最善のジョブを選択したこと、にこそ強さがあったのではないかと感じている。
 あの協同組合の組織はとても良くできていて、かなり公平な配分に気を遣っている点もすばらしいが、日間賀島の漁協は、加盟員が投資者(オーナー)という制度を作らなくても、民主国家日本の法に則り資本主義という環境下にあって、島民はそれぞれに仕事に取り組み、たぶんさして富の偏向もなく、よって島民間にわだかまりもあまり発生せず、一人ひとりが自分にできること、自分に向いていることを、きちんとやっているのだろう。そうなのだとしたなら、それはつまらない主義主張を越えた、本物の公共が存在するということではないか。日本でも不可能ではないのかもしれない。
 島の人々は、個人の成功よりも、島全体の安穏を希求した。
 それが最大の成功理由、と私は読む。
 この後、いつまでも安穏が持続され、いつか私もタコの丸茹で料理にありつけることを祈りたい。

 また長くなった。ほんとうは和術したかったが、稽古が吹っ飛んでしまったので。