……細い路地を入ったところに、誰も知らない本屋がある。
表に看板はなく、見るからに重そうな扉の横には「妖書取り扱い」という小さな札がかかっているだけ。
いつからそこにあるのか、誰が経営しているのか、どんな本が置いてあるのか、誰も知らないのである。
-土方妖書店-
「嫌な天気…」
今朝の天気予報では、一日中快晴だったはずなのに…
見上げた空には分厚い雲がかかり、じりじりと暑かった太陽の姿は消えていた。
真夏だというのに、急かすように吹く風は嫌に冷たく、ぞくりと背中が震えた。
「…降りだす前に帰ろっ…」
心細くなり、少し大きめの声で独り言を呟く。
これだけ人がいても、誰の耳にも届かないのはわかっているのだけど。
小走りに駅までの道を急ぐ。
営業先から最寄りの駅まではまだだいぶ遠い。
(確か駅ってこっちの方向だったはず…)
数回しか来たことのない場所で、近道をしようとすれば迷うのは当然のことで。
普段は通らない道に曲がったところで、ここがどの辺りなのかわからなくなってしまった。
迷った挙句に入り込んだ路地はひどく薄暗くて、静かだった。
人通りはほとんどなく、人の声もない。
なんとなく嫌な空気に一瞬足を止めたけれど、それでも何かが私を前へと進ませた。
路地の一番奥には、やけに古い建物があった。
何かのお店のようだけれど特に看板はない。
外壁には植物の蔓が伸び、日当たりの悪いため苔のようなものも生えている。
(何の建物だろう…)
なぜか急いでいたことは、すっかり頭から抜けてしまった。
好奇心か、はたまた怖いもの見たさからか、自然と建物の前で立ち止まると、窓からそっと中を覗き込んだ。
薄暗いため様子はわからないが、奥の方には灯りのようなものが見える。
恐る恐る重い扉を開けた。
ギィと低い音を立てる扉をすり抜けて中へ入ると、
そこには天井の高さまである棚に様々な本がぎっしりと並べられていた。
(…うわぁ…)
見渡す限り、本、本、本…。
大きな本棚がいくつもあり、それでも入りきらない本はあちこちに積まれている。
…かといってゴチャゴチャしているわけではなく、本は規則正しく並べられ、掃除も行き届いていた。
洒落た小物などは一切ないが、本棚の隅には1人掛けの椅子も用意されている。
部屋には紙独特の香りが漂い、人の気配はないのにパラパラとページをめくる音がした。
(古本屋さん…?)
それにしては、知っている本がひとつもない。
私だって多少は読書をする方なのに、見聞きしたことのあるタイトルがないのだ。
特別な学問や研究者なんかが扱う本なのだろうか。
すでにボロボロで背表紙が読めないようなものも置いてある。
「すみませーん…」
部屋の様子をうかがいつつそう声をかけてみたけれど、しばらく待っても返事はない。
目の前の本棚に並ぶタイトルを目で追って、その中から比較的新しそうな本に手を伸ばした。
…その時。
「誰だ」
低い声が冷たく響く。
本に触れそうだった手は、その声と同時にサッと引っ込めた。
「…すみません、たまたま見かけて入ってしまって」
本棚の間から声のする方に顔を出すと、眼鏡をかけた色白の男性が、椅子に腰をかけてこちらを見ていた。
手には分厚い本を持っている。
射抜くような眼差しは深い緑色を宿し、ランプの光が揺れるたびに宝石のように美しく輝いた。
力強い眼差しとは逆に、本のページをめくる指先は繊細だった。
薄暗くてもわかるほど、艶のある人。
(…人?……だよね…)
私よりも一回りは年上に見える彼は、私を一瞥すると、
「ほう、珍しい客だな」
そう言って読んでいた本をパタンと閉じた。
そして、見るからに重そうな鎖を机から取り出すと、その本を手早くグルグル巻きにし、
鎖が外れないように大きな錠前を掛けたのだ。
鎖で巻かれた本は、彼の腕の中でカタカタと揺れ、徐々に大人しくなった。
(な、なに…今の…)
「その辺のもん、勝手に触るなよ。死なれちゃ迷惑だ」
ここの店員らしき男性は、呆気にとられた私の横を通り、一番奥の、これまた頑丈そうな扉のある棚に本をしまった。
「…あの…、ここは本屋さん…なんですよね…?」
「さあな」
彼はそっけなくそう答えると、またもや私の横を通りすぎた。
私のことなどまるで相手にしていない様子に少しムッとすると、
こっちの感情が伝わったのか、私のほうをちらりと見て“構ってほしいのか?”とでも言いたげに、ふっと笑った。
(…ッ…失礼な人…!)
そう思いつつも、なぜか熱を持つ自分の頬に、もっと腹が立つ。
彼は私の様子を気にすることなく、先程の椅子に深々と腰をかけ、机の上にあるランプの火を吹き消した。
「さ、店仕舞いだ。ここはお前のような餓鬼が来るところじゃねえよ」
「…がき……」
「さっさと帰んな」
ガキって…!
れっきとした大人に言っていい台詞じゃない。
言い返そうと思ったのに、追い払うように手を振られ、仕方なく踵を返した。
入ったときと同じような音を立て、重い扉が閉まる。
先程窓からかろうじて漏れていた灯りはすでになかった。
(二度と、来ない…!)
もう二度と会いたくない、あんな人。
そう誓って、お店に背を向ける。
(見た目が好みだからって、こんなに動揺するな…!バカ!)
やけに煩い心臓の音を誤魔化すように心の中でそう呟いて、足早に来た道を戻った。
「―――…やれやれ」
静かになった店内で、土方は溜息を吐いた。
何も知らない客が来たのはいつ以来だろうか。
確かあれは…と記憶を辿っていると、先程厳重に保管した妖書が本棚の中でガタガタと暴れ始めた。
「ったく、総司の野郎、また厄介なもん押し付けやがって…」
わざとらしく眉間に皺を寄せると、彼はしぶしぶ重い腰を上げた。
机の中から妖書にかけた錠前のカギを探し出すと、
カギに付いているチェーンを人差し指に引っ掛けてクルクルと回し始めた。
一歩ずつ棚に近づく土方の瞳は、次第に美しい色を乗せてゆく。
棚の前に来たときには、深い緑色の眼差しが宝石のようにキラキラと光った。
「きつーく縛ったつもりだったんだがなぁ」
気だるげにそう告げた彼の口元には、うっすらと笑みが刻まれていた。
…続く…かもしれない。w
こんばんは^^
またまたものすごーくお久しぶりです…(;'∀')w
久しぶりかと思ったら、こんな話ですみませんww
一体何の話なのかさっぱりわかんないと思うのですが、
土方さんが妖書屋さんだったら…という話ですw
Twitterでフォロワーさんがやっていた #空想職業 という診断が凄く素敵で!
マネしてやってみたんですが、その時の診断結果がこちらでした↓
那美の書く土方さんは『妖書屋』です。髪は翡翠色。
瞳は深緑。
真面目な性格で、包丁を使用します。
仲がいいのは『魔法屋』、悪いのは『記録士』。
追加要素は『背が低い』です。
土方さんが妖書屋さんってすごく合ってる~!と思って書いたのがこの話ですw
元はツイッターに載せてたやつなのでもっと短いんですが、
少し付け足してみました。
要素を全部取り入れるのは難しいんだけど、
包丁を使用するってのも続きが書けたら取り入れたいな。
背が低い、は、うーん、どうしよう。
しかし続きを書く自信がない…(´・ω・`)
艶の日だけでも頑張りたいけどなぁ。
ちなみに高杉さんはこちら↓
那美の書く高杉さんは『仮面屋』です。
髪は朱色。瞳は紅。
冷静な性格で、腕輪を使用します。
仲がいいのは『からくり職人』、悪いのは『草原航海士』。
追加要素は『頭領』です。
これも最高すぎませんか!?w
仮面屋で髪は朱色、瞳は紅って…♡
仮面屋で、とあるイベ(だったかな?)を思い出しました。
お面被ってお祭り行ったよね?…あれ、行ってない…??
行った気がするんだけど、何のイベだったかなぁ。
(どなたか知ってたら教えてください^^)
これもいつか書きたいな。
冷静な性格ってのは、ちょっと考えますw
あ、先月なんですが、艶ステと日野に行ってきました!
こちらのレポもしたいなと思いつつ、もう1か月経ちそうですねw
忘れないうちに書き留めておきたいと思います。
書いてたら艶の日過ぎちゃった><
また来月も頑張れますように。