短編小説「京のおんな」静御前物語<3> | 京こね☆ニュース

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静御前物語<3>

 

 神泉苑の舞台では、白拍子一人一人が舞を披露している。 だけど、雨は降らない。 そりゃあそうだ。 そんな非科学的なことがあるわけない。 ということは、雨が降るまで舞は続く。 私は最後100番目。 絶対にまわってきてしまう・・・。 ここで私は白拍子ではないのでと、エスケープする雰囲気も勇気もない。 いや、見た目、白拍子なんだから説得力は、ほとんどゼロ。

 

 はあ~、どうするの? というか、そんなことより、なぜ私がここにいるの? 正しくは、この時代というのが正解か。 つい、1時間ほど前まで平成という世の中にいたはず。 そして、ウキウキしながら静御前の衣装合わせをしていたはず。 なのに、なんでこんな訳の分からないことになってるの? 壮大なドッキリ? いやいや、私にドッキリを仕掛けて何のメリットがあるんだか。 じゃあ、考えられることは平安時代に来てしまった・・・つまり、タイムスリップってこと!?

 

 答えの出ない質問を、延々と頭の中で考える。 そうこうしているうちに、90番台までまわってきた。 今は舞のことを考えなければ。 職業は舞妓なわけだから、ちょっとしたことは舞える。 でも、白拍子がどんな舞だったかなんて知らないし、雨乞いの時はどうすればいいのかも教えてもらったこともない。 あ~、でもやるしかない!

 

 そして、とうとう、私の出番がまわってきた。 空を見上げると、真っ青な夏空が広がっている。 あ~あ、雨は降りそうにないな・・・。

 

 「あと、一人舞ったところで、龍神様は雨を降らせてくれるのやろか」

 

 雨乞いを見学している貴族っぽい人たちからも、落胆の声があがる中、私は舞台に立った。 とりあえず今までの人の見よう見まねで舞ってみるが、自分がどうやって舞ったか、なんて覚えてない。 ただ、無我夢中だった。 そして、終わった時・・・私の頬には水滴が伝った。 涙? いや、違う。 水滴は頭の上から降ってくる。 空を見上げると、いつのまにか黒い雲がたちこめているではないか。

 

 「日本一の白拍子じゃ!」

 

 声の主は、貴族たちの真ん中にいた一番権力のありそうな人。 たぶん、後白河法皇・・・かな?

 

 それにつられるようにして、多くの観客、白拍子たちがざわめく中、雨は一層その勢いを増した。

 

 そんな中、私は一つの視線に気づいた。 それは一人の若い男性からの熱い眼差し。 私はこの人を知っている。 いや、顔を知っているわけではない。 私の心の奥底にある懐かしい記憶を思い起こさせるような、そんな気分に陥った。 この方は、きっと源義経(みなもとのよしつね)。 静御前が、その一生をかけて愛する人物に間違いない。 私は薄れ行く記憶の中で、そう確信していた。

 

つづく

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