前回までのお話は↓から。
静御前物語<4>
見覚えのない天井。 あの雨乞いで倒れてどのくらい眠っていたのだろう。 きっとここは平成ではない。
「気がついたか?」 あの男性が声をかける。
「そなた、本当に雨を降らすとは大した白拍子なのじゃな。 その雨はまだ降り続いておる。 名は何と申す?」
「しず・・・か」
私はとっさに本名を答える。 そうしなければいけないような気がしたから。
「そうか、静(しず)か。 私は源義経と申す。 ここは私の屋敷だ。 体がよくなるまで、ここに留まるがいい」
そう言うと、義経は部屋を出ていった。
「しず」ではなく、「しずか」なんだけどなぁ。 まあ、いいか。
私は横になったまま考える。 何が原因かは分からないし、きっかけも分からないけど、きっと私はタイムスリップした。 しかも、義経と神泉苑で出会ったということは、私が静御前になるわけで。 じゃあ、本当の静御前はどこに行ったのか? 私はこれからどうなるのか? 未来に帰れるのか?
そんなことを考えていると、雷が鳴り出した。 そして、障子の向こうから稲光がした瞬間・・・
***
「雪葉! 雪葉! しっかして! 大丈夫?」
見覚えのある顔が、心配そうに私をのぞき込んでいる。
「えっ・・・どうして・・・?」
「あんた、衣装合わせの時に倒れたんよ。 今日は蒸し暑かったさかい。 軽い熱中症じゃないかって、お医者様が言ったはったわ」
どうやら、私は平成の世に戻ってきたらしい。 それとも、あれはただの夢だったの?