静御前物語<2>
なぜか私は外にいた。 あれ?衣装合わせは中で行われていたのに。 しかも、雷もなってないし、雨も降ってない。
町行く人は、みんな衣装合わせにでも来たかのような衣装で歩いている。
私が知っている京都の街中とは全く違う! ビルが! 車が! 何もない!!
どういうこと? なんなの、ここ??
「おい、あんた白拍子(しらびょうし)やろ? 早く神泉苑(しんせんえん)に行かんと祈祷始まるで」
道行く人に声をかけられた。
・・・白拍子・・・。 確かに、私は今、静御前の格好をしているのだから、見た目は白拍子に間違いない。 でも、神泉苑って? あの二条城に近いところよね? 静御前のゆかりの地だから、何度か訪れたことはあるけれど。 しかも、祈祷って何だろ?
「そういえば、白拍子を100人集めたはずやのに、1人足らんって言ってたわ。 あんたのことやな。 ほら、何をしてるんや、はよ立ち上がり」
私は、その男に腕をつかまれ、どんどん引っ張っていかれた。
「あの・・・、ちょっと・・・、待って下さい」
私がそう言うのも聞かず、どんどん歩いていき、とうとう神泉苑らしきところにたどり着いてしまった。 そう、私が知っている神泉苑ではない。 そこは、とんでもなく広大な庭だったのである。
連れて来られた場所には、私とよく似た格好をした女性ばかり。 白拍子を100人集めたって言っていたけど、何のために? まさか、時代祭でそんなにいるわけがないし。
「あの~、ここで何が行われるのですか?」
私は近くにいた白拍子に聞いてみた。
「何って、雨乞いじゃないの。 あなた、何も知らないでここに来たの?」
その白拍子は驚きを隠せないようだったが、親切に事の成り行きを教えてくれた。
「この国中の白拍子を集めたのよ。 もうずいぶん長い間、雨が降っていないでしょう? 偉い僧侶の方々を呼んで読経をしたそうだけど、効果がなかったから、私達が祈祷して雨乞いをするのよ」
昨日もゲリラ豪雨があったはずなのに。 雨乞い? 祈祷? いやいや、それで雨が降ったら苦労しないでしょ。 平安時代でもあるまいし。
ん? 平安時代? 白拍子? 神泉苑?
私は頭の中で歴史の本のページをめくった。 1182年、大日照りが続いて、後白河法皇は神泉苑で白拍子に雨乞いをさせている。 その祈祷に、私が大好きな静御前がいたのだ。
今、まさにそんな状況・・・。
「まさか!!!」 そこにいたほとんどの人に注目されるほど、私の声は大きかった。