※フィクションの部分もあります。あと、現代の言葉を使っています。
ご了承下さい。
醍醐の花見・まつ遍<2>
お花見会場である醍醐寺は桜で埋め尽くされていた。700本もの桜が植えられ、8ヶ所の茶店が建ち並び、お花見というよりは、もっと盛大な博覧会のよう。
派手なことがお好きな秀吉様らしい。
いや、秀吉様の年齢を考えると、大きなイベントとしては、きっとこれが最後になるのだろう。最後に女性たちを喜ばせたいという、なんとも女性にお優しい秀吉様ならではのアイデアだ。
私が桜を見上げながら、そんなことを考えていると、女性の諍(いさか)いの声が聞こえてきた。
そう。 お花見でちょっとした事件が勃発したのだ。
諍いの声は、側室の淀殿と松の丸殿の二人だった。 発端は秀吉様の「お流れ」。
この「お流れ」というのは、主催者(今回でいう秀吉様)が飲まれたお酒の杯を、次席、第三席、第四席・・・というように、次々にまわして飲むこと。
もちろん、秀吉様はおね様におまわしになった。 そう、そこまでは良かった。 問題はその次。
おね様から杯を受け取ろうとした淀殿。 しかし、それを制止しようとする松の丸殿。
「側室の主席は私。 淀殿が北政所(きたのまんどころ:おね)様より頂くのはおかしいのでは」
松の丸殿からしてみれば、側室になったのも自分の方が先だし、出身である京極家は、淀殿の出身である浅井家よりも格上。いくら跡継ぎの生母だからといっても、正室の次に杯を受け取ろうとするなんて、ということだろう。
二人の目からはバチバチと火花が飛んでいる。 しかし、「まあまあ、杯の順番ぐらいで何を・・・」 と、ちょっとおろおろしている秀吉様。
きれいな桜の下で、女のプライドがぶつかり合うのは無粋だ。しかも、せっかく秀吉様が自らプロデュースされたお花見を台無しにするのも申し訳ない。ましてや、最後になるかもしれないイベント。それをこんな痴話喧嘩で終わらせられますか。
そう思った瞬間に、私はこう言ってしまった。
「その杯、私に頂けますか」
みんなが一斉に私の顔を見る。 そして、部外者は黙っていろと言わんばかりの二人の目。 でも、ここでひるむほど私も若くはない。 私は言葉を続けた。
「恐れ多きことながら、おね様とは姉妹以上のお付き合い。 年齢からいっても次は私ですし、その杯は私が頂戴致しましょう」
そして、おね様の満面の笑みと共に、杯は私の元へときた。
側室の方々お二人の苦虫を噛みつぶしたような顔とは反対に、私はおね様と微笑み合ったのであった。
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