暫く歩いていると、再びドアを見つけた。


とりあえず開けてみる。


開けて、正直に驚いた。


砂漠でもない、真っ白の部屋でもない。


緑が目立つ、温室のような部屋。


緑が生い茂り、疑似であろう太陽の光がさんさんと照っている。


そして目立つのは石。


石と言うよりも、石碑。


誰かの墓が、たくさん並んでいた。



ラ=ルカナ、ノクラル、ルイ・ウェイ、レイ・ウェイ、タカイシリム、テル・ユーラ、……


見た範囲だけでもこれだけ名前がある。


ざっと二十ほどだろうか。


そして、みつけたある名前。



クロサキイチゴ



ルキアが言っていた少年だ。


墓標を見ようと近づいて、



「誰?」



その声に足を止めた。


いたのは、先ほど写真で見た少女。


少女は大きな如雨露を片手に、日番谷を訝しげに見つめていた。


写真よりも幾分か大人びたその少女は、長い髪を払った。



「ここ、あたし以外立ち入り禁止」


「そうなのか?」



知るはずもない。


日番谷は今日来たばかりの言わば敵なのだから。


知ってか知らずか少女は続ける。



「ま、入っちゃったものは仕方ないよね。……ようこそ、『緑の宮』へ」




丁寧に一本ずつ木に水分を与えていく。


水がなくなっては汲み、与える。


それの繰り返し。


少し待っていて欲しいと頼まれた日番谷は、居心地悪そうに何故か置いてあった白いベンチに腰掛けていた。


せわしなく動く少女を目で負いながら。


一つ一つの動作が、それもちょっとしたことが目に入る。


今までこんなこと無かったのにな、と日番谷は頭を掻いた。


どうも、ここにきてから調子が狂う。


漸く水を与え終えたころには既に小一時間はたっていた。


少女は日番谷の隣に座る。



「で?何の用?死神の隊長さん」


「……何故分かった?」


「その白い羽織。藍染サマが言ってたから」



すごいね、隊長なんてと言われて、


日番谷は何と返せばいいのか全く分からなかった。



「お前の名は何だ?」



気が付けば口にしていたその質問。


少女は軽く驚くも笑って答えてくれた。



「夏梨。よろしく、隊長さん。あんたの名前は?」


「俺は……日番谷冬師郎だ。よろしく。で……名字は?」


「黒崎。黒崎夏梨」



そこにあるお墓、兄貴のなんだ。


そう言って夏梨は目を細めた。





「こう申せば、私はその……死神としてあるまじきことを致してしまったというか……」


「死神として……?」


「私は……破面、しかもそのトップにたつであろう#1の十刃に恋、というものをしてしまったようなのです」



恋、だと?


一瞬だけだが、その言葉の意味を思い浮かべることが日番谷には出来なかった。


仕事しかすることのない自分にとって、それだけ無縁の言葉だった。


ルキアは続ける。



「その破面を私は自らの手で刺し殺してしまいました。……ですから、詫びたいのです。あの者が最後に呟いたその名を持つ者に」


「しかし戦いは犠牲が常……本来なら謝る義理は無いとは思うが」


「それでも私は、」



謝りたいのです。


謝ることで自分の心を救いたいという、卑怯者なのです。



そんな苦痛を浮かべるルキアの表情を見ていて、


ただ日番谷は頷くことしかできなかった。





半日ほど歩いて、漸く虚夜宮へとたどり着く。


あたり一面、白、白、白。


ここには、白しかない。


具合が悪くなりそうなほどに一色に統一された視界。


それでも進まなければならない。


ルキアからの頼みを抜けば、本来の任務は虚圏、虚夜宮の調査。


だから何かしら見つけて報告しなければならない。


自ら王と名乗っていた藍染は封印された。


市丸ギンと東仙要は死んだ。


だから三人が従えていた十刃達がどうなったのかは知らない。


戦いで死んだか、それとも生き延びたか。


少なくとも#3のハリベルとその従属官は生きているらしい。


会って、話を聞ければ一番早いのだが。



暫く歩いていると、扉を見つけた。


色は白。


ただ、壁との境目とドアノブがあったから分かっただけで、適当に歩いていたら見逃していたかもしれない。


その部屋の扉をゆっくりと開いて、中の様子を窺った。


人は、居ない。


侵入すると、男の部屋と思われるそこは、ほとんど物が置かれていなかった。


ベッド、机、小さなキッチンに浴室……。


生活に必要最低限の家具たち。


見て回るが、収穫となりそうなものは何もない。


仕方なしに部屋を出ようとした時だった。


入るときには気づかなかった小さなドア近くの机。


その上には小さな写真立て。


その中には二人の人物の写真。


黒髪の少女と、橙髪の少年。


ひっくり返せば、「カリンと」と書かれている。


つまり、この少女が朽木ルキアの言っていた少女なのだろう。


手掛かりを探すため、日番谷は再び外へと向かった。



隊長格には威厳がある。
それこそほぼ全ての死神に、子供の姿をしていたとしても敬語を使わせる程には。

ただ、決してそれに従わない者もいた。

なのに、何故その貴族の中でもトップクラスに存在する朽木家当主の妻の妹……朽木白哉の義妹、基、朽木ルキアが、わざわざ見舞品であろう高級菓子を持ち、病室へと入ってきたことは俄かに信じられなかった。

後から知った話では、彼女は死神であり、遠くとも自分の部下であったらしい。

「日番谷隊長……実は折り入ってお頼みしたいことがございます……」

ルキアが切り出した。
若干声は震えていて、緊張していることが窺える。

「あー……何だ?」

「……虚圏に探し人がいる故……行くことができぬ私の代わりにその者を見付けてきてはくれないでしょうか」

聞けば、その探し人とは破面(アランカル)らしい。

破面の、少女。


朽木ルキアが戦った相手と繋がりの深い彼女……つまりは自分が殺した者の関係者、カリンと呼ばれた者を探して欲しいと言う。

一体何故、当然のように疑問に思い、訊く。
そうすれば彼女は少しばかり戸惑い、それでも話してくれた。