みなさんこんにちは。前回からの続きです。
今月8日、最終回を迎えたNHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。舞台となった「東映太秦映画村(京都市右京区)」の訪問記を、作品を回顧しながらお送りしています。
「3人のヒロインがつなぐ三世代100年にわたる家族の物語」という、これまでの朝ドラでは考えられなかったストーリーだった「カムカムエヴリバディ」。第112回(4月8日)最終回放送より。
劇的な展開もさることながら、それぞれのヒロインを取り巻くさまざまな人間模様が実に緻密に描かれていて(いわゆる「伏線回収」になりましょうか)、最終回から2週間近く経過したいまでも、余韻に浸ってしまいます。
「ラジオ・あんこ・英語・時代劇・ジャズ」…などと、輻輳的に重なり合う数々のテーマは半年の放送期間中、常に、陰に陽にと貫かれていて、その織り交ぜ方というものは絶妙で、それはそれは大変興味深いものがありました。第5・79・81・111回放送より。
しかし、テーマとして明示はされなくとも、とりわけ、初代ヒロイン・安子(上白石萌音さん)、二代目ヒロイン・るい(深津絵里さん)らの人生に影響を与えていたのは、間違いなく「戦争」だったと感じます。
あんことおしゃれを好む、ごくありふれた普通の少女だった安子。第16回(2021年11月22日)放送より。
その人生が変わってしまったのは、岡山空襲によって、母・小しず(西田尚美さん)、祖母・ひさ(鷲尾真知子さん)や、幸いにも生き残ったものの、父・金太(甲本雅裕さん)を喪ったこと。第27回(2021年11月23日)放送より。
そして、愛する夫・稔(松村北斗さん)と死別したこと。第16回放送より。
その娘・るいとは、貧しいながら幸せな生活を持ちながらも、戦死した稔の実家・雉真家との行き違いで、半世紀にわたる親子断絶に至ります。50回目の終戦の日、生まれてから一度も会えなかった父・稔の幻に出会ったるい。第97回(3月18日)放送より。
るい(深津絵里さん)は、それによって引き起こされた複雑な家庭環境と、憎しみさえ覚えた母との記憶を実に後年まで抱きながら、生きて行くことになります。
しかし、その行き違いを乗り越え、長い時間をかけながらも、互いの心境を深く理解し、そして再会を経て和解するという展開が、ストーリーの大きな肝になっていたように感じます。第111回(4月7日)放送より。
人生というものは、果たして明日にでもどうなるのかわからないものです。
しかし「戦争」というものは、本作で描かれたように、本来であれば平穏で、幸せな人生を送るはずだった一人ひとりの運命を、一瞬にして破壊し、狂わせるもの。理不尽の一言に尽きます。第27回放送より。
折しも放送期間中に、ロシアによるウクライナへの一方的な侵略戦争がはじまりました。
悲惨さ、非現実さを見聞するにつけ、ドラマとはいえど、この現実に、オーバーラップすら感じる次第です。
戦争とは、誰にとってひとつも、良いことなどありもしません。
生まれるのは、憎しみ、絶望、悲しみ、怒り…
それが一生続くのかも知れませんし、後々の人生にまで大きな影響を及ぼすということ、さらについ80年ほど前には、我が国にもそのような事実があったということ。第109回(4月5日)放送より。
ヒロインのみならずそれを支えていた人々の人生にも、心の根底に計り知れないほどの「深い闇」をもたらしたことに、作中から滲み出るさまからそれを強く感じることが、実に多々ありました。
ただ、深い傷を負いながらも、愛する人、愛する家族、仲間を持つことが出来た、安子とるい。劇中でその経緯を窺い知れたことは、実に幸いなことでした。第70・72回(2月9・11日)放送より。
極めて逆説的ではありますが、安子・るいが目に見えず背負い続けて来たものに対し、平和な時代に生まれたひなたや弟の桃太郎が、のびのびと成長して行く姿を見ていると、平穏な生活というものがどれほど有り難いものか、ということを、あらためて身に沁みて痛感します。
すばらしい作品を、ありがとうございました。
このシリーズはこんなところです。