☂63 樹上の世界 | 世の中の色々なことについて思うこと・神吉雄吾のブログ

 特殊伐採という仕事柄しょっちゅう高い木の上に登る。20mとか時には30m以上登るときもある。

 

「高いところは怖くないのですか?」と聞かれると、

「怖いです」と正直に答える。

 

 ロープ一本に命をぶら下げるのだから本当に怖い。でも樹上の世界は地上とは少し違って楽しくもある。

 

 ロープをよいしょよいしょと登っていくと、まず多いのが生き物との出会いだ。色んな鳥が梢を飛び交い、警戒の鳴き声をあげたり興味を持って近づいて来たりする。カラスは明らかに怒っていて、「コラ!出て行け!」という風に、猛烈にお叱りを受けることもある。

 

 鳥の巣を見つけることも多い。作業は繁殖期を避けて、子育てを終えた巣は木と一緒に片付けるしかない。

 

 リスやモモンガにも会う。びっくりして彼らが木から飛び出すのを見ると本当に申し訳なく思う。幹の割れ目やくぼみにどんぐりが隠してあるから、彼らの大切な生活圏なのだ。

 

 キツツキの仲間が枝を歩きながらコツコツと叩く。これは幹の中を探っているそうだ。打音で木の中の虫を見つけると、ドドドド!と猛烈な速さでつついて穴を開けている。わりと腐朽している木に多く穴を開けるから、こちらとしては登る木の状態を知る手掛かりにもなる。穴だらけの木には怖くて登れない。

 

 毛虫やヘビにもよく出会う。とはいえ気にしてはいられないので気が付くかぎりで避けるしかない。昆虫の類もどうやら地面とは少し生態が違うようで、下で見ないような虫が木の上に沢山いたりして不思議だ。

 

 高所から枝を下すとき樹上と下では声が届かないし、安全のため僕らは目立つオレンジ色の服を着ている。だから遠くから見ると、木の上にオレンジの実がなっているみたいに見えるらしい。

 

 よく目立つから行き交う人たちが立ち止まって見上げてく。車もスピードを落として眺めてく。子どもたちがこっちを指さして驚いている。めずらしい作業だし、感心して見てもらえるのは正直悪い気はしない。

 

 樹上で一休みしてお茶を飲むと、吹き抜ける風がとても心地よい。ふと振り返ると、ビルの窓から見ている人と目が合ってびっくりする。

 

「こんにちは」。

「こんにちは」。

 

びっくりしたのは僕よりも向こうの方だろう。