「珍妃の井戸」歴史小説かと思いきや、どんでん返しの推理小説 | kuwanakenのブログ

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 浅田次郎さんの「珍妃の井戸」を読みました。物語は、義和団事件から2年経った北京が舞台です。事件のどさくさの中、皇帝の最愛の妃である珍妃が井戸に落ちて亡くなりました。その経緯は謎に包まれています。

 

 義和団事件を取り上げた「北京の55日」という映画を見た覚えがあります。中身はあまり覚えていませんが、軽快な音楽は耳に残っています。ブラザースフォーや、「エイトマン」の克已しげるさんの曲を聞いてみました。久しぶりで懐かしかったです。

 

 小説の主人公は四カ国の貴族です。イギリスのソールベリー伯爵、ドイツのシュミット男爵、ロシアのペトロビッチ公爵、そして日本の松平子爵。それぞれの国の思惑が絡み合って、珍妃を井戸に落とした犯人探しが始まります。

 

 現場に居合わせた当事者の証言を取るため、四人揃って北京の街を巡ります。以前読んだ「長く高い壁」のように、一人の探偵が活躍する物語ではありません。今度は少年探偵団のようなものです。探偵団一人一人の影が薄いのはご愛嬌。

 

 反して、証言者の面々は実に怪しげでアクが強いです。新聞記者、宦官、将軍、側室、義和団指導者、皇帝など。新聞記者を除いては、歴史上の実在人物のようです。残念ながら、西太后さんが登場することはありません。

 

 ほとんどの証言者が、はっきりと犯人を名指しします。ところが、困ったことにそれぞれ別の犯人の名を挙げるのです。新聞記者は「西太后が・・」宦官は「瑾妃が・・」側室は「袁世凱が・・」推理小説ではお馴染みの「藪の中」です。

 

 最後に亡くなった珍妃自身が語り始めるところなど、まさに本家通り。歴史上では、西太后さんが珍妃を殺したことになっているそうです。ただ、歴史は単なる伝言ゲームの成れの果て。事実を伝えるものではなく、時の権力者が都合の良い伝言ゲームの答えを記すものです。

 

 物語は皇帝の証言で大どんでん返しが起きます。浅田次郎さんは事実を求めたかったわけではないでしょう。当事者が嘘をついているんですから、事実など伝わっているはずがないのです。裏を返せば、歴史小説は自由に書けるということです。おもしろいわけだ。