学生時代、鬱屈した気分を晴らすのに、さだまさしさんの歌を大声で歌っていました。外なら人けのないところで、家の中なら布団を頭からかぶりラジカセの音量を最大にして、「飛梅」や「最終案内」など失恋ソングを怒鳴り上げます。
コンサートでさださんが観客に向かって「君たちにさだまさしの怨念が分かるのか」と悪態をついていました。ロックなら盛り上がるところですが、なぜか会場は爆笑の渦でした。さださんの怨念は笑いのタネのようです。
それでもさださんの歌の多くは、どうにもこうにもやるせない感情が澱になって、怨念と化しているように思います。歌詞の中に悲しいとか辛いという言葉は出てきませんが、言葉にできない切なさが腑に落ちるといったところです。
その頃に出会った美しい恋人にも、CDを渡して聴いてもらいました。運が良いことに恋人も気に入ってくれました。さださんとしては珍しく爽やかな歌「きみのふるさと」を、二人で聴くだけでうれしくなったものです。
先日、SONGSで「親父の一番長い日」を歌っていました。12分を超える大作です。この歌で一番気に入った歌詞は、娘の結婚相手に「奪っていく君を殴らせろ」というセリフです。まだ結婚してもいないのに、いつか使おうと心に決めました。
娘が生まれてからは国際結婚することも想定して、英語とスペイン語で「一発殴らせろ」を覚えました。ところが、いざ結婚するとなるとあろうことか、相手に「君を誇りに思う」としゃべってしまいました。一生の不覚です。
妻と二人でカラオケに行くと、さださんの曲を歌います。妻の十八番は「秋桜」ですが、これは百恵ちゃんの歌としての印象の方が強いみたいです。僕は「桃花源」をよく歌います。二曲とも珍しく怨念の感じられない、穏やかな曲というのもおもしろいところです。
僕が一番好きな歌は「主人公」です。二十数年前、カラオケでこれを歌っている時に、感極まって声が出なくなったことがあります。今思えば、自分の怨念が溜まっていた頃かもしれません。それ以来、この曲を人前では歌いません。一人でこっそり歌います。