「notte stellata 2024」最終日を配信で見た。
8日と9日は見れなかったので、今日が初見。
何も知らずに見ると、たとえ配信でも理解が全く追いつかない恐れがあるので、あらかじめ演目やセットリスト、初日・2日目のインタビューといった情報を入れてから臨んだ。
今年も最初に滑られるのは、羽生君の「notte stellata」。
この3月というときに、この場所でアイスショーを開催するにあたっての、土地への挨拶、地鎮、魂鎮めのように、いつも感じる。
昨年は3月11日にライビュで、12日は配信で見た。
昨年は3月11日に黙とうする羽生君の姿もあったので、東日本大震災の押しつぶされそうな悲しみを感じながら見ていた。
この日に、この場所でアイスショーをして大丈夫なのかと案じながら。
だけど今年は、3月11日よりは前の日程ということと、昨年を経ての2回目ということもあり、東日本大震災のことを強く意識せずに見ていた。
アイスショー全体を通して、たまに震災のことがよぎるくらいで。
でもその見方は、羽生君の心情に寄り添っていなかったなと、終わってから思った。
おそらく羽生君にとっては、この「notte stellata」というショーは、その全てに東日本大震災への思いが詰まっているはずなので。
そんなわけで、プログラムの感想は軽々しいものになってしまいそうだけど、初見の感想を書いておきたい。
冒頭の「notte stellata」。
去年の3月12日の「notte stellata」に大変感動して、何回もその録画を見てきた。
だけど今年は「notte stellata 2024」。
昨年とは違う印象を受けた。(羽生君のスケートは、滑られる度に違う印象を受けることは珍しくないのだけど)
昨年の「notte stellata」は、悲しみの絶頂にありながらも、なんとか前を向いて歩いていく、希望を見出していくという、そのぎりぎりのはざまにあるようなスケートだった。
かろうじて一歩を希望に向かって踏み出す、でもその一歩が途方もなく大きな一歩というイメージで、丁寧に丁寧に滑られていた。
今日の「notte stellata」は、さらに一歩、希望に向かって進んだようなイメージ。
悲しみを振り払う必要はないけれど、希望を怖れる必要もない。
希望の中に歩み入ったような、そんな滑りに思えた。
相変わらず、スケーティングもツイズルもジャンプも極上だった。
そしてドキドキしながら待っていた「Carmina Brana」が始まった。
冒頭の大地真央さんの登場で、配信の映像なのに、その存在感の大きさを感じた。
よく言われる「スターのオーラ」を。
そして羽生君が登場する。
冒頭の振付や表情を見て、演劇のようだと思った。
演技の仕方、表情の作り方が演劇っぽいなと。
私は小中学生のころ、両親の趣味が観劇だったこともあり、よく演劇を見に行っていた。
当時の、日本を代表する演劇俳優の様々な舞台を見た。
演劇というのは、生で見るための総合芸術。
ライティングや音楽、そして何よりも俳優さんの存在感が素晴らしかった。
そして、演劇特有の見せ方があったように思う。
舞台で生身の人間が演じて、中ホールや大ホールの観客に、その肉声と演技のみで伝える必要がある。
しかも、映像作品のようにカット割りされるわけではなく、舞台はずっと続いていく。
主演俳優はでずっぱりということもよくあった。
そして舞台という限られた空間の中で展開しながらも、観客を全くの別世界へ連れていく必要がある。
それは生身の俳優と観客との真剣勝負の場でもあったと思う。
俳優の存在感、説得力があってこそ、観客の心にうったえかけることができる。
そういった演劇のエッセンスが、この「Carmina Brana」には詰まっていたように思う。
なので、この演目は生で見るのが一番良いのだろうなと。
大地真央さん演じる「運命の女神」と羽生君の動きがシンクロするシーンが圧巻だった。
そして、シンクロしながらも全く同じ動きではない。
それは運命に抗ったり、自分なりに受け入れたりする過程を表現しているのかもしれない。
それにしても、これだけ演劇的な演目だと、もっと長く見てみたいという贅沢な思いがよぎった。
そして後半、こちらも待ちかねた「Danny Boy」。
「おげんさんのサブスク堂」でおげんさんが、人生の一曲として紹介していた曲。
元々はアイルランドの民謡に新しく歌詞をつけて歌われた曲だそう。
民謡といえば、イングランド民謡がもとになっている「グリーンスリーブス」や「埴生の宿」など、外国の曲だけど、どこか懐かしく心に染み入るような曲が多い。
この「Danny Boy」も、そういう旋律を持つと思う。
羽生君が真っ白な衣装で登場して滑り始めると、あっという間にリンクが別世界になったように感じる。
アイスショーのリンクではなく、全く別の時間と空間に入り込んだような。
「あの夏へ」も別世界感がすごいけど、この「Danny Boy」も、「あの夏へ」とはまた違う世界に入り込んだような感じがした。
静かなような激しいような、悲しいような希望があるような、不思議なプログラム。
民謡というのは、長い時間の中で、たくさんの人の悲しみや希望、思いがこめられて歌い継がれてきた音楽。
そういうものが羽生君のスケートによって表れてきているような気がした。
そしてフィナーレへ。
すっかりおなじみになった「希望の歌」。
いつものメンバーとの「ありがとうございました」を聞いて、フィニッシュ。
今年も「notte stellata」を開催できてよかったと羽生君も宮城の方たちも思っているといいなと願う。
今年は3月11日よりも前の開催になったので、本当に乗り越えなければいけないのは明日なのかもしれない。
そんなことも最後の羽生君の挨拶とインタビューで感じつつ、今年の「notte stellata」が閉幕した。