「 OFFICIAL PLAYER’S GUIDE」の感想を再び、書いてみたい。
今回は、「RE_PRAY」の制作過程について。
「RE_PRAY」という、過去に前例のないICE STORYが、いったいどうやって作られたのか。
「OFFICIAL PLAYER’S GUIDE」では、かなり核心の部分まで披露してくれた。
まずはコンセプトとプロットを、羽生君が全て書いた。
それは、この独特の世界観からするに、そうだろうなと思っていたけど、驚いたのは、制作スタッフへの伝え方の部分だった。
プロットにはストーリーやナレーション部分のほかに、映像シーンやプログラムシーンが持つ意味やストーリーの流れなどについても書き込まれていたという。
羽生君は制作スタッフに、ナレーション部分だけでなく、シーンについての記述部分も全て自分の声で吹き込んだものを渡したという。
通常は、書いたもののみを渡すものだと思う。
まさか、プロット全体を自分で吹き込んだものを渡すとは。
この発想に驚いた。
でも、確かに、文字だけよりも、肉声というのは何倍もの情報量を込めることができる。
どういうニュアンスなのか、どういう感情なのかを、声色や声の強弱によって伝えることができる。
それだけでなく、緊迫感、テンポ、リズム、揺らぎなども。
プロットを吹き込んで渡すというのは、目からウロコの発想だけど、「伝える」という目的に、すごくかなっている。
最初に目的、ゴールがあって、そのためにどういうアプローチがよいのか。
普通は既成のやり方を踏襲してしまうけど、羽生君は既成の概念を軽々と超えて発想することができる。
ものをつくるとき、なかなか新しいやり方というのは、思いつかない。
どうしても、過去に見聞きしたものや、それまでのやり方を踏襲することになってしまう。
だけど、羽生君は、そういうものを飛び越えて発想することができる。
これこそが、真のクリエーターの資質なのだろう。
そして、次に驚いたのがVコン(ビデオコンテ)を羽生君自身が作ったということ。
これは、そもそも、自分の中にかなり明確な映像が浮かんでいないと、作ることができない。
「なんとなく、こういうイメージ」というのを言葉で伝えてプロに作ってもらう、というのが普通だと思う。
ところが、羽生君自身がVコンを作ったという。
最初から明確な画が羽生君のなかであったということだし、それを伝えたいという、制作者としての執念を感じた。
今まで、羽生君のスケートは、なんて情報量が多いのだろう、なんて多彩な思い、感情、情景が込められているのだろうと感嘆していた。
今回 「OFFICIAL PLAYER’S GUIDE」を読んで、なるほど、これだけのイメージを持っている人だからなのか、と思った。
もちろん、「RE_PRAY」と「OFFICIAL PLAYER’S GUIDE」は、その一端を垣間見せたにすぎない。
羽生君が滑るプログラム1つ1つに込められているものは、言葉で開示されるものではない。
だけど、これだけの制作力、イメージ、表現への執念、さらに言えば、それらを引き出すための方法論、プロデュース力、客観性。
そいうものをもとから持っているから、あれだけのプログラム世界を作り出せるのだということが、垣間見えた。
羽生君は、極上のスケートをするために必要なもののうち、本当に多くのものを持っているなと改めて思う。
①情熱
②集中力
③身体能力
④技術
⑤音楽や美への感性
⑥伝えたい内容
⑦客観視
⑧プロデュース力
⑨貪欲さ
⑩固定観念から外れることをいとわない勇気と自由な発想
他にも挙げればキリがないのだろうけど。
MIKIKO先生をして「末恐ろしや」と言わしめた、そのポテンシャルは計り知れない。
これからも、羽生君が生み出すICE STORYやプログラムたちを見れらるのは、本当に僥倖。
「 OFFICIAL PLAYER’S GUIDE」を読んで、つくづく、そう思った。