島津保次郎「男性対女性」(1936)感想① 眼鏡っ子・田中絹代が可愛すぎの巻 | トトやんのすべて

トトやんのすべて

猫写真。
ブンガク。
および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

アナザー・ヤスジローもおもしろい。ちと大味だけどね。

 

今回は「男性対女性」(1936)なのですが……

こないだとりあげました、「家族会議」(1936)の宣伝が

手持ちの「懐かしの復刻版 プログラム映画史 大正から戦中まで」に載ってたので

ちと、みてみます。

 

こんなです↓↓

色々おもしろいです。

 

おもしろいのは……

誰がどう見ても高杉早苗たんメインの映画

なのに↓↓

 

下賀茂スター!! 現代劇特別出演

高田浩吉

と、高田浩吉メインの宣伝をしている、ということか。

 

スチール写真も、及川道子&高田浩吉で、あくまで高田浩吉推し、なんである。

「熊本電気館」という、地方の映画館で作ったプログラムだからなのか?

(当時、プログラムは映画館各々で製作していたようである。

TBSラジオ・アフターシックスジャンクションでプログラム特集をしたときも、たしかそんなことを言ってた)

それとも、

全国的に 高田浩吉推しで宣伝したのか??

 

それと……

疑問だった「立花泰子」さん、

ググると 上白石萌音ちゃんの画像ばかりでてくる、謎の俳優さんが……

 

俳優募集主席当選 名花

立花泰子

と紹介されていることで……なにかのコンテストめいたもので当選した人らしい。

 

一体なんで、無名の俳優が 松竹のスタア大集合映像の、ど真ん中にいるのか、

疑問だったのですが↓↓

松竹としては、このコンテストのチャンピオンを売り出したかったのでしょう、おそらく。

 

□□□□□□□□

で、「男性対女性」です。

ウィキペディア情報によると、「松竹大船撮影所の建設記念映画」なんだそうで、

キャストからして、気合入りまくりな感じ。

 

ただ↑↑のチラシによると 「家族会議」は「大船撮影所第一回作品!」なんだそうで、ややこしい。

「家族会議」→1936年1月公開

「男性対女性」→1936年8月公開

のようです。

 

冒頭、上海……

ブロードウェイマンションが バァァーーン!! と登場するショットからして、

もうただ事ではない。

小津映画では絶対にあり得ないオープニング。

 

ブロードウェイマンションをみながら(……どうみても合成だけど↓↓)

上原謙(左) 岩田祐吉(右)

 

上原謙は 某商社の社長の次男坊。

フランス留学からの帰国途中。

(飛行機ではなく、汽船の旅です)

 

岩田は その商社の上海支店・支店長。

岩田は横浜支店に栄転になるので、上原と一緒に帰ることになります。

 

んで、送別会とかで 上海のキャバレーに行くんだが……

ちらっと出てきたチャイナドレスの美少女は……

あんた、デコちゃん??↓↓

高峰秀子は1924年生まれらしいので

この頃、11歳、12歳というところか。

 

中国美女に膝の上に乗っかられて デレデレの上原謙……

 

上原謙は、お仏蘭西で演劇の勉強をしてきて、

これからレヴューの演出家になる、という設定なので、

キャバレーのレヴューをみて「大いに参考になります」とか真面目なことを言ってます。

 

さて、このちうごく美女は、本当にアチラの方なのか?

それはよくわからない。

(いちおう中国語みたいなものを喋ってはいる)

(デコちゃんが出てくるんだから 大船で撮ってるのか? それともロケ撮影か?)

 

んで、帰国のフネで、嵐……

 

「男性対女性」なるタイトルでまず思い出すのは、

セシル・B・デミルの「男性と女性」(1919) 原題:Male and Female なんですが、

当時の観客もやっぱり、この大傑作を……

淀川長治先生が子供のころ見て感動した大傑作を……

 

思い出すんじゃないでしょうか。

で、デミルの「男性と女性」 イギリスの貴族一家が、嵐で難破して無人島へ……

というお話なんですよね。

 

だが、上原謙のフネは難破はしない。

 

でもお金持ちの一家の運命の流転を描いているから……

まあ、デミルの「男性と女性」を意識して シナリオを書いてはいるんだろう。

 

帰国しました。

上原謙の兄さんは佐分利信。

佐分利信は生真面目な人類学者。

 

おつぎ、レヴューのはなし。

 

上原謙は「俺は演劇の勉強をしてきたんだぜ」とかいって嫌がっていたのですが、

親父(藤野秀夫)が、レヴューの劇場に出資していることもあり、

なんのかの レヴューの演出家になります。

 

その初演出作品をみている眼鏡っ子・絹代たん……

最初に言っておくと

「男性対女性」は田中絹代のためにある映画

です。

シナリオはトップスタア絹代様中心に書かれております。

 

んだが、我々の視線は……

前ボケして写りこんでいる少女の顔に……↓↓

 

やっぱりデコちゃん……↑↓

ついさっき上海のキャバレーにいた売り子が

今帝都のレヴューを観劇中。

ローティーン高峰秀子、光速移動おそるべし。

……というか、大船撮影所建設記念と銘打ったからには 人気子役・デコちゃんも出演しない訳にはいかないのでしょう。

 

えー、ストーリーは、

斎藤達雄(左)は、岡倉男爵(上山草人)という政財界の実力者みたいな奴の道楽息子。

で、眼鏡っ子・絹代ちゃんに惚れてます。

だが、絹代ちゃんは佐分利信が好き。

 

間抜け面で舞台を見ている磯野秋雄は、絹代ちゃんの弟役。

ああ、そうそう、田中絹代・磯野秋雄姉弟の父(水島亮太郎)は劇場のオーナー。

 

えー、で、前回の「家族会議」では無表情な(ちと気味の悪い)ブルジョワ娘を演じていた桑野ミッチーが

劇場の配光主任、とやらで

照明さんをやってます。

 

ワークウェア姿が――軍手!!――ひたすらかわいい。

もっと高画質でみたいな……

 

鬼演出家役がしっくりはまる上原謙。

口癖は「ボヤボヤするなよ!」

 

右側のメガネ君はおなじみ(?) 小林十九二。

さっきの斎藤達雄といい、大船撮影所総出演なわけです。

 

舞台。

この頃の文学作品をみると 女の子たちはとにかく「レヴュー」なるものに熱中していたようなのですが、

当時の実際のレヴューの映像がみれるというのは、貴重な機会だとおもいます。

 

ただ……踊りのクオリティは驚くほど低い気がする……

今のダンサーさんはおおかた、子供のころから鍛えているんだろうが、

この頃はたぶん、そういうシステムじゃないからだろう。たぶん。

 

男装の麗人は

ターキー、こと水の江滝子、なのだろう、とおもいます。

 

とにかく動員できるものは全部動員する松竹です。

ただ……その結果、誰でも予想がつくように、

かなり大味な作品ではあります。

 

レヴューのシーンは長すぎます。

「映像作品」として考えると明らかに欠点。

しかし、わたしのような戦前日本好きにはたまらんところですが。

 

もとい、まとわりつく斎藤達雄から逃げた絹代ちゃん、

配光係の桑野ミッチーのところへ。

 

おしゃべりしていると、上原謙がミッチーを叱る。

絹代ちゃん曰く。「あんまり叱らないで。美代子さん、わたしの妹なんですもの」

「女学校、一年下の後輩で、とっても仲よくしていたの」

 

妹なんですもの。

に感動。「お姉さま」―「妹」のエス関係は、吉屋信子先生の少女小説で山ほどお目にかかっているわけだが

エス関係が、映像作品に出てきたのははじめたみた。

 

まあ、あらすじをさきまわりしちゃうと、絹代―ミッチーは

佐分利信―上原謙の兄弟と結ばれるので、

実際に「お姉さま」―「妹」の関係になってしまうわけですが。

 

上演の後、彼氏……佐分利の部屋へ。

佐分利は研究一筋というキャラクター。

 

弟(上原謙)の晴れ舞台を見に来なかったことを責めます。

 

一方、磯野秋雄君、

女中さんの大塚君代に

ターキーの写真もらってきてやったぜ。

サイン付きだぜ。

ターキーのブロマイド。

 

えー、この磯野秋雄―大塚君代の身分違いカップルも登場して、

いよいよ話がごちゃごちゃになってきます。

 

リハーサル風景↓↓

なんか「コーラスライン」みたいな。

 

先ほどレヴューの踊りが下手くそと書いたが……

途中出てくるタップのおじさんはうまかった↓↓

しかし、名前等わからず。

えんえんこのおじさんのタップシーンは続くから、たぶん高名な人なのだろうとおもうのだが。

 

絹代ちゃんは 両親(水島亮太郎・吉川満子)から 男爵の跡取り斎藤達雄のところへお嫁へ行け、と迫られています。

それで……

付き合っている(?)佐分利信に縁談があることを伝えるのですが……↓↓

相手は岡倉さんの息子さん。

意味ない金持ちよ。

佐分利はグジグジしてはっきりしません。(佐分利信はこんな役ばかりだな)

 

えー↓↓

水島亮太郎(絹代の父)&藤野秀夫(佐分利・上原の父)の会談ですが、

 

ビリヤード場です。

例の政財界の大物・岡倉男爵(上山草人)がここに入り浸っているという設定。

 

モダン建築&鋼管パイプの椅子 というのが気に入ったので載せました。

藤森照信先生によると、戦前日本の冶金技術では 鋼管パイプの椅子とかまともなものは作れなかったようですが。

 

↑↓これは……セットじゃないよなぁ??

 

以下三枚、ひたすらにかわいい絹代ちゃん。

この映画では洋装が多いのだが、このシーンは着物。

 

母親(吉川満子)に 斎藤達雄に会いに行け、と言われているが

行きたくない。

 

ベビーフェイスに丸い眼鏡なのでさらに幼く見える。

だが、ご存知のように声はやけに低くてセクシーという……

かわいいぜ、絹代ちゃん。

 

これは磯野秋雄が眺めている新聞かな↓↓

 

上原謙のことを「美貌のフランス帰り演出家」と紹介している。

今、男の人に対しては「美貌」とあまり使わないが、この頃は使ったのだろう。

 

その「美貌」の上原謙が

桑野ミッチーに もっと自分なりに工夫してやってみろ、とか言っている。

 

この……

 

すねる顔がたまらん……↓↓

つくづく高画質でみたい……

 

だが、こんなくだらん大味な作品は デジタルリマスターとかしてくれないよな。

 

上演後……出待ちの集団が劇場を囲んでいます。

「サインしてちょうだい」「サインしてちょうだい」

「違いますのよ」

「なんだスタアじゃないんだわ」

 

天下の桑野通子に対して

「なんだスタアじゃないんだわ」

がおもしろい。

 

当時のアサヒグラフ

1936年11月4日號

 

スタアに群がる娘さん達の様子は、真新しい光景だったのだろう。

 

一目見たさにこの苦労

娘さんはレヴューがお好き

 

小夜福子

津坂オリエ

といったスタアの名前が見えます↓↓

 

出待ちの群れから抜け出たところで

上原謙に出会い、一緒に夕食。

 

上原謙はさっき 桑野ミッチーの仕事ぶりを

「まあ、いいだろう」などと冷たく評価したのをフォローしようとしているのか。

 

佐分利―絹代の二人は、なんだか高そうなレストランでしたが、

この二人は大衆食堂で

上原謙のキャラクターが案外庶民的であることを表現します。
 

ガツガツしていらっしゃるのね。

この際、じっとしていられるかい。

 

女性に対して消極的な佐分利信(兄)に対して、

気楽に食事に誘う上原謙(弟)

上原謙になにか下心がある、とかいう描写ではないですが……

 

ゴージャスな組み合わせ。

 

後から。

小津みたいに(笑)丁寧に撮ってますな。

小津だともっと構図に凝りますが。

 

飯田蝶子が桑野ミッチーのお母さん役。

1シーンだけの

ちょい役だが目立ってる。

 

飯田蝶子が「こんな遅くまであんたを働かせて……」とか嘆いている。

 

また、お父さんのことなんか思い出してさ。

 

えー

ここは田中絹代がダンスホール(?)に遊びに来ているというシーン。

 

なんかグッゲンハイム美術館みたい。

もちろんライトのグッゲンハイムはもっと後年の建築ですが。

 

螺旋階段の上からホールをみつめる絹代ちゃん。

……というか、

 

ここは高杉早苗を登場させたいために用意されたシーン。

ただ高杉早苗、ロングショットのみ。

 

高杉早苗のアップなんかあったら、それだけで「高杉早苗の映画」になっちゃうからではあるまいか(笑)

トップスタア・田中絹代のために、ここはロングショットだけなのではあるまいか。

 

なにしろ「隣りの八重ちやん」、ほんの数シーンだけですべてを持って行ってしまった前科(笑)があります。

 

帰宅しますと、

大塚君代が追い出されるところに出くわします。

 

磯野秋雄との関係がバレました……

 

↑↓まるで小津みたいな定石無視のカットバック。

 

絹代ちゃんの花柄の衣装。

かわいいが……モノクロ向きではないな。

なんかごちゃごちゃした印象。

 

絹代・父の水島亮太郎は、

自分の事業のため、

どうしても絹代ちゃんと斎藤達雄をくっつけたいので……

 

河村黎吉(悪いヤツ)に依頼して

佐分利―絹代の仲を裂いてもらうことにします。

 

河村黎吉、絹代ちゃんがお嫁に行くから、とかいってだまして

馬鹿正直の佐分利から絹代ちゃんの手紙を受け取ります。

 

で、その手紙を絹代ちゃんに渡します。

 

というか、オシャレなカップですね↓↓

あなたから遠ざかりたいんでしょうなあ。

ああ、悪いやつだ。

 

これもゴージャスなカットバックだね。

河村黎吉先生の「ウソついてます」って顔がたまらんね。

 

ここはあれです。

前回の「家族会議」の桑野ミッチーの ジャーン! ガーン!

ああいうどぎつい表現はないです。

 

というか、全体的に「家族会議」のあくどい表現は鳴りを潜めております。

たぶん、評判悪かったんじゃなかろうか??

 

そのかわり酔っぱらって……

で、めちゃくちゃにピアノを弾く……

というブルジョワ娘らしい表現があるんですが……

 

ここは眼鏡っ子・絹代ちゃんが、この作品でただ1シーン 眼鏡をはずすところなので……

これをうまく使えなかっただろうか?

などと個人的には思います。

 

「男性対女性」――

さすが、うめえなあ、という表現は……ちょっと見あたりませんね。

どの感情の表現も月並みな印象。

 

一方、弟の磯野秋雄。

姉・絹代を気づかって 佐分利信の研究室へ行く。

 

これ↓↓ ずいぶん立派な部屋なので気になります。

どこで撮ったのかね?

 

なんか長くなりそうなので、今回はここまで。