島津保次郎「男性対女性」(1936)感想② 眼鏡っ子・絹代ちゃんモンゴルへの巻 | トトやんのすべて

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猫写真。
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および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

つづきです。

まず前回のおさらいなのですが……

 

・絹代―桑野ミッチーのエス関係が描かれる。

(「美代子さん、わたしの妹なんですもの」なるセリフ)

・レヴューの場面が長すぎる。

ということを書いたのですが……

 

これは

女学生を観客に取り込もうという松竹の戦略なのではあるまいか?

などということを急におもったりしました。

 

アサヒグラフの1936年の記事を紹介しましたが↓↓

こういうスタアの「出待ち」の報道をみて……

「この子たちをまるごと映画館に連れて行けば大儲けできるわい、ぐふふ」

と思ったのかもしれない(笑)

 

さらに……ホンモノの……水の江滝子やら小夜福子やらが出てくるようなレヴューは

大都市圏に住む、ある程度裕福な階級の少女しか見ることができなかったでしょうが、

映画であれば、地方在住の少女、あるいはそれほど裕福ではない少女たちにも

見てもらえるのではないか??

逆に……少女たちの側にも

「スクリーン上でもいいから、ターキーの舞台がみたい」

という希望もあったのではないか?

とうぜん1936年、テレビ放送なんてものは存在しないわけですから。

 

□□□□□□□□

もとい、つづきです。

河村黎吉にだまされて 佐分利信にフラれたと思いこんだ絹代ちゃん。

今度は競馬場にやってきます。

アルコールの次はギャンブルですか。

 

府中競馬場でしょうか。

島津オヤジは競馬マニアだった由。

 

だが、今までに見た島津作品を振り返ってみると……

「隣りの八重ちやん」→野球場

「家族会議」→証券取引所

「男性対女性」→競馬場

と、人が大勢集まり、かつ大金が動く場所、というのが好きなんでしょうかね。

いや、きっと好きなんでしょう。

 

そこで芸者さん(おそらく)かなにかを連れて遊びにきていた斎藤達雄に出会いまして……

やけになった絹代ちゃん、

一緒に出かけることになります。

 

斎藤達雄曰く

行きましょう。

スピードですね? そうでしょ?

 

斎藤達雄。「スピード」を今現在の日本語英語のアクセントではなく、

英語のアクセントで発音している。

当時はそうだったのかな。

 

ドライブシーン。

車種等わかりません。

 

戦前のクルマは「家族会議」のエアフロー(流線型) 「女医絹代先生」のダットサン(小さい)みたいに

わかりやすい特徴がないと、なにがなんだかわかりません。

たぶん、慣れれば各車各メーカー特徴があるんでしょうが……

その段階まで至っていません。

 

楽しそうな二人……

なのですが、このあと、斎藤達雄が湖畔の別荘で絹代ちゃんに無理やりキスをしようとして引っぱたかれて

二人の仲は終わります。

 

斎藤達雄は早々とお役御免。

あ。右ハンドルですね↓↓

 

高杉早苗のクライスラー・エアフローは左ハンドルだったな。

 

このあと、磯野秋雄(絹代ちゃんの弟役)家出事件が起きまして……

絹代ちゃん、「妹」の桑野ミッチーのところへ。

 

劇場のレストランで……

上原謙・桑野通子・田中絹代

という、ため息が出るより他ないゴージャスな会合です。

 

いいなあ。個人的には日本映画の黄金時代は1930年代のような気がするんだが……

はたして50年代で、こうゴージャスな雰囲気は出るかな??

 

このシーンは妙な多幸感が漂う。

磯野秋雄は、大塚君代の実家の東北の牧場に行ったぽいので

別に誰も心配していない(笑)

 

上原謙は 俺が停学食ったとき兄貴は……なんて調子だし、

桑野ミッチーは「牧場、素敵だわ!」なんて調子。

 

トップスタア絹代様だけ逆光気味なのは、わざとなんでしょう。

彼女が沈んでいます、ということを示しているのか。

 

そのあとの絹代ちゃんの散歩シーンも美しい。

どっからどう見ても東京のど真ん中でロケ撮影。

しかし、あまり人影が見あたらないので

早朝撮ったのだろうか??

 

向うに見える数寄屋橋も人影が無いように見える。

というか、電車(市電)の姿もみえない。

 

右側は銀座 左側は日比谷 賑やかな界隈だとおもうのですが。

 

↑↑左側のビルヂングは、おなじみ朝日新聞本社だと思われますので……

絹代ちゃんが歩いているのは……

外濠、山下橋なのではあるまいか?

 

草思社・アイランズ編著「東京の戦前 昔恋しい散歩地図」

27ページ掲載の1931年の地図です。

 

赤丸をつけた橋を↓↓ 帝国ホテル方面に歩いているのでしょう。

今は埋め立てられてますね。

 

右奥に見えるビルヂングもなかなかいい感じ↓↓

一体なんのビルでしょうか?

 

つくづくデジタルリマスターしていただきたいものです。

 

ここはモダン建築づくしのシークエンスなのですが……

この建物が一体なんなのか?↓↓

 

上原謙・桑野ミッチーがいる劇場、ということなのだろうが、

何の建築なのか、わからない。

 

見たことのある建築だと……

東京宝塚劇場、に雰囲気は似てる。

 

二玄社「オールドカーのある風景 師岡宏次写真集」144ページ↓↓

1945年 「アーニー・パイル劇場」といって進駐軍専用で、日本人は入場できなかった頃の写真になりますが。

 

ただ……

松竹の映画に、宝塚劇場は出てこないだろう。

この建物は何なのか、ご存知の方は教えていただきたい。

 

悪者・河村黎吉(左)が劇場の支配人に納まりまして

偉そうに経費の削減を始めます。

(真ん中は 絹代・父役の水島亮太郎。劇場のオーナー)

 

上原謙、大激怒。あっさり劇場を辞めます。

 

その様子をみつめる桑野ミッチー。

舞台の様子。

舞台上にクルマを何台か載せてます。

 

ミッチーも舞台の照明を全部落してサボタージュ。

自分も辞職します。

 

劇場の裏側がかっこいいんだよな。

これは一体どこの何という建築なのか?

 

よしてどうするの?

どうにかなるわ。生きてくぐらい。

しかし、僕のために……

 

この映画は気になる建築が多い。

前回もチラッと紹介したが、上山草人(岡倉男爵)の入り浸っているビリヤード場。

やけにかっこいい。

 

水島亮太郎、電鉄事業だかなんだかに男爵の出資を頼んでいたのですが、

例のドラ息子・斎藤達雄と絹代ちゃんの結婚がコケましたので

出資をあっさり断られます。

 

絹代ちゃんも家出します。

客車から沿線の火事を見つめる絹代ちゃん。

 

この火事。

藤野秀夫(佐分利信・上原謙の父)の会社の工場の火事で(偶然!)(笑)

佐分利・上原の家も没落していきます。

 

家出した先は

弟・磯野秋雄のいる牧場。

 

迎えに来たの?

ううん。あたしも来ちゃったの。

 

佐分利信がああいう……研究一筋のキャラクターなせいか(?)

なんか 田中絹代―磯野秋雄姉弟の描写は 疑似・恋人同士のような感じがしてならない。

佐分利信とのイチャイチャ場面はラストシーンしかないんですが、

磯野秋雄とは何度かイチャイチャ場面があります。

 

ここのセリフも「来ちゃった」なんて もろに恋人同士です。

英語でcome は、……あ、まあキリがないのでいいです(笑)

 

子供二人が家出しちゃった水島亮太郎。

泣きっ面に蜂で、

電鉄事業のためにバラまいたカネをめぐって

検事局が動きはじめ……逃亡。

 

というか、河村黎吉が悪の根源なんですがね。

 

ネオン……イルミネエション、好きね。島津保次郎。

 

牧場の様子。

椅子・テーブルでの食事。

「東北の農村」というよりハリウッド映画にでてくる農村のイメージ。

 

おなじみ坂本武が登場。

さすが(?)絹代ちゃんの隣りというベストポジション。

一方の水島亮太郎。

子供達のいる牧場へ。

しかし……なぜ皆が皆、この場所に吸い寄せられるのか??

 

男たちが

このあたりでは見慣れない立派な男をみかけた、と話している。

 

もしや? とおもう絹代ちゃん。

東北の農村には似合わぬモダンなブラウス姿である。

 

銃声がする。

 

水島亮太郎、ピストル自殺。

というか、子供たちのいるすぐ近くで死ぬという……

嫌がらせみたいな死に方である(笑)

ここは、まあ、「お前たちに負けたよ」とかなんとかお涙ちょうだいのセリフがあったりします。

 

ま。色々と大味なんですわ、この映画。

 

一方、母・吉川満子。

旦那が自殺した悲しみとかなんとかより

住んでいた豪邸が5000円にしかならないという話に、怒るやら悲しむやら。

(たぶん河村黎吉が袖の下をいくばくか抜いてしまっているようだが)

 

河村黎吉先生の例の江戸弁がたまらないところです。

一週間以内に

おしきはらい(お引き払い)

を願いたいんですが……

 

前回「家族会議」では 「秘書」を「ししょ」と発音していたっけ。

母・吉川満子に

生活を立て直しましょう、とかいう絹代ちゃん。

 

ん、だが……とくにそういう話にはならず

吉川満子は例の東北の牧場へ。長男の磯野秋雄が養っていくようである。

で、

絹代ちゃんは実家とは関係なく、佐分利のいるモンゴルへ行くんである。

このあたりもグダグダである(笑)

 

んだが、絹代ちゃんがひたすら可愛いので、許す。

 

一方、

水島亮太郎が死んで、劇場は例の上山草人が手に入れたようです。

で、上原謙はまたレヴューの演出に復帰します。

 

復帰にあたり、

とうぜん

桑野ミッチーを誘います。

ミッチーは喫茶店で働いています。

チェック模様のワンピース、白い襟、バカでかいボタン、なにもかもかわいいです。

 

また、レビューだよ。

もち、OKよ!

 

んだが、

山城のやつ(河村黎吉)、まだいるんだ。

 

というわけで、さっさと劇場オーナー・上山草人との会見を打ち切って帰ってしまった上原謙。

 

追いかけて来た劇場支配人・河村黎吉先生をぶん殴る、上原謙。

 

というか、島津保次郎。

ガラス割れるの好きね。

「隣りの八重ちやん」→磯野秋雄がキャッチボールで窓ガラスを割る。

「家族会議」→桑野ミッチーがガラスのコップを握りしめて割る。

「男性対女性」→上原謙が河村黎吉をぶん殴ってガラスを割る。

 

上山草人に

殴らせておけばいいの。

というミッチー。

 

衣装なんですが、ピンク系かな?

ピンク系だとかわいいですね。

 

殴って、そのまま劇場を飛び出した上原謙を諭す桑野ミッチー。

 

けっきょく、河村黎吉はクビ。

上原謙は演出家復帰。

で、予定調和。めでたしめでたし、となります。

んで、

たぶん聖橋からの光景、だとおもう。

 

(おそらく)聖橋を歩く、佐分利信・上原謙の兄弟。

佐分利は人類学の調査で、モンゴルへ行くことになったようです。

 

上原謙は気を利かせて「時子さん(絹代ちゃん)はどうするの?」とか聞きますが、

あくまでグジグジしている佐分利です。

というか、この映画、佐分利信は終始グジグジです。

 

株式会社ベストセラーズ「東京・昔と今 思い出の写真集」

157ページ↓↓

 

昭和6年(1931)と「現在」の聖橋の対比なのだが……

1971年の本なので、かれこれ50年前です。

 

昭和6年頃の聖橋。ニコライ堂と湯島聖堂と二つの聖堂間に橋を架けたのは、震災後である。まだ総武線は開通せず、橋下は空いている。神田川にはまだ魚が棲んでいた。

 

そうか、地下鉄・総武線の鉄橋がないから、ヘンな感じなのか。

 

はい。

1936年の聖橋です。

このあたり、お茶の水駅もけっこうモダンな建物だったようです。

 

で、ニコライ堂。

小津の「麦秋」にも出てきますね。

 

ニコライ堂の鐘が鳴って、

で、その鐘の音が……そのまま、

服部時計店の鐘の音に。

 

鐘の音でシーンを繋げますが、

うまい! というほどではない。

 

銀座の立派な喫茶店だかレストランだか、です。

ずいぶん天井が高い。

上原謙を諭した桑野ミッチー、

今度は「お姉さま」の絹代ちゃんを諭します。

 

「家族会議」は高杉早苗たんがトリックスター的に暴れまわって事態を解決しましたが、

「男性対女性」は桑野通子が天使的に事態を解決します。

そういえばミッチーは 配光主任……照明さんなわけです。

光りを与える=天使=桑野ミッチー

という構図は、なるほどいいですね。

この作品の唯一「すげえ」という点かもしれません。

 

ちなみに、

桑野通子はあくまで洋装。

絹代ちゃんはここでは和装です。

 

でも、行雄さん(佐分利信)と結婚しちゃいなさいよ。

 

生活の方便に結婚なんかしたくないわ。

言うことだけは一人前ね。好きなくせに。

 

劇場に復帰した桑野ミッチー。

 

そして上原謙。

なんとなく、二人が結ばれるんであろう、という雰囲気の描写。

 

で、絹代ちゃん。

モンゴルへ(笑)

 

こういう男くさい格好が似合うな。佐分利は。

 

驚いて?

乱暴だな。

 

佐分利、横顔がかっこいいんだが……

どこで撮ってるんだか、案外大船の近くだったりして。

丹沢?

 

一緒についていきたいの。

 

ついていきますわ。

 

――と、感動のラストなわけですが……

いくらなんでも唐突すぎるわな。

 

んだが、アサヒグラフ 1936年3月4日號↓↓

 

大興安嶺征服

京大遠征隊の壮挙

という記事。

 

京大隊のモンゴル調査というのがあったらしく、

当時の観客にはタイムリーな内容だったのでしょう。

馬に乗っているのは

ブリヤート人の若者らしいです↓↓

 

このあたりのファッションが佐分利信の格好に影響を与えているのか?

にしても、佐分利の重装備に比較して、絹代ちゃん、あまりに軽装すぎないか(笑)

……と、いろいろツッコミどころはありますが、

田中絹代→眼鏡っ子・かわいい。

桑野通子→ワークウェア姿・ひたすらかわいい。

上原謙→終始かっこいい。

佐分利信→ラストだけ(笑)かっこいい。

と、見どころはたくさんの作品だとおもいます。