小津安二郎「晩春」のすべて その4 | トトやんのすべて

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および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

「晩春」の感想をかいていくと、きりがないです。

泥沼にひきずりこまれるおそれがあるので、

今回「その4」

次回「その5」

と……

シナリオ順、物語順に感想を書いて

「晩春」の感想は終わりにしようとおもいます。


感想の基本は「3」です。

そして円(○)に内接する三角形(△)の問題です。


・「父ありき」より↓↓



俗に…

「晩春」「麦秋」「東京物語」

この3作を…


「紀子3部作」とかいうのですが、なるほど

原節子が「紀子」を演じた、という意味では正しいですが……


僕の

小津の暗号=「3」「△」

という見方からいえば――


正しいトリオは

「戸田家の兄妹」「父ありき」「晩春」

この「3」作品になります。


「戸田家の兄妹」=母・妹・オレの妹萌え△

「父ありき」=父・僕+亡き母が作る悲しき戦時下△


以下に見ていきますが「晩春」もやっぱり△の映画です。


(ちなみに……どうやら、「麦秋」を支配する数字は「8」のような気がする。間宮家の家紋は「8」…「東京物語」も「8」のような気がする……今のところそうおもいます。あとで考えが変わるかもしれんですが)


ま。前置きは以上。


以下、シナリオ順に感想をだらだら書きます。


□□□□□□□□


S4

北鎌倉、円覚寺でのお茶会です。

「客がポツポツ集まってくる。曾宮紀子(27)が来て、すでに来合せている叔母の田口まさ(49)と並んですわる。」


主要人物は

原節子、杉村春子、三宅邦子の「3」人。



紀子=ゴムノリ=ノリ子、という分析で、

前にも書きましたが、

杉村春子が原節ちゃんにズボンを繕ってくれと依頼します。


まさ「ねえ、叔父さんの縞のズボン、ところどころ虫が食っちゃったんだけど、勝義のに直らないかしら?」

紀子「でもブーちゃん、縞のズボン穿いたらおかしかない?」

まさ「なんだっていいのよ、膝から下切っちゃって、どう?」


うーん……

僕的にはこれも暗号とおもいたい。


・縞のズボン=フィルム

・下切っちゃって=カット


と、映画用語に翻訳したいところです。深読みしすぎですか??


原節ちゃん+杉村春子――は、

ぜったいに三輪さん(三宅邦子)と一緒に写らない点もポイント。

おぼえておきましょう。


お茶会シーンおわりまして


S9 

「紀子の父の周吉(東大教授、56)が老眼鏡をかけて原稿を書き、助手の服部昌一(35)が、その清書を手伝って、洋書の人名辞典を引いている。」


周吉「ないかい?」

服部「――(指でたどって)ああありました。フリードリッヒ・リスト、やっぱりZはありませんね。LIST……」

周吉「そうだろう? LISZTのリストは音楽家の方だよ」


という謎めいた会話から始まりますが、

これも深読みしたいところ。


なんつったって、小津安二郎+野田高梧チーム

「晩春」で暗号ちりばめまくりですので……


Zはありませんね。

S/Z……??


S??

Z??


うーん……「Zはありませんね」…か…




あ。


と、おもいついたのは、

ZZZZZZZ……


いびき、です。

「晩春」=いびき、というと、

あの有名な…壺シーン。


京都の宿で、原節ちゃん、笠智衆が仲良く床を並べて寝る……

限りなくヤバイ、あのシーン…


ZZZZZZ……


これって――

「やっぱりZはありませんね」という服部さん、


・「あんたは原節ちゃんとZZZZZZできませんよ」


こういうきわどいジョークではないのか???


深読みしすぎ??

でも重要なオープニングのセリフですよ。これ。

絶対に当ってる、とおもう。



つづいて。

S11

原節子、笠智衆、宇佐美淳、の「3」人。

おまけに誕生仏が「3」です。


つくづく、美しい構図。


ここでもうひとつポイントなのは

「清さん」なる登場人物。


麻雀がやりたくなった笠智衆、

「清さんいないかな?」

と原節子にきくのだが、

原稿を書き終わっていないので「駄目よ」といわれてしまう。


この「清さん」の正体がわかるのは実はさいごのさいご

S102だったりする……


これは、「市民ケーン」の例の……

ROSEBUD

のマネだろうか??


あと「晩春のすべて その1」でご紹介しましたが、

電気屋さんが「3キロ超過です」というのもありました。

冒頭は「3」の嵐で、

やっぱり「晩春」は、「戸田家」「父ありき」の正式な継承者だとわかります。


つづいて

S18

車内

紀子も周吉と並んで腰かけて、本を読んでいる。


美しすぎるショット。

そういや、

「父ありき」の佐野周二も笠智衆のそばでひたすら本を読んでました。



↓↓で、銀座。

「風の中の牝雞」の例のビルが登場。


なんと、銀座にあったとは。

しかも和光のすぐそば。


アントニン・レーモンドの教文館ビルがかつてこんな姿だったのか?

とかおもいますが……


わかりません。

どなたか教えてください。


S21~S25、紀子と小野寺のおじ様のデートがありまして、


S26

夜 鎌倉 曾宮の家

周吉がひとりで外字雑誌を読んでいる。

表戸のあく音――。

紀子が這入って来る。


紀子「ただ今――お客さまよ」

周吉「誰?」

小野寺が這入って来る。

小野寺「やア――」

周吉「よウ!」


なんでもないシーンなんですけど。

原節ちゃんと三島雅夫の登場時間のギャップに注目したい。

原節ちゃんはパンプス(たぶん)なのでさっさと玄関からうちにあがるのですが、

三島雅夫は靴の紐をほどくのに時間がかかっている。


このあたり……小津安っさんの1933年当時の発言を思い出したい。


 日本人の生活は、凡そ非映画的に出来ていて、例えば、一寸家へ入るにしても、格子を開け、玄関に腰かけ、靴の紐を解く、といったような具合で、どうしても、そこに停滞を来たす。だから、日本の映画は、そうした停滞しがちな生活を、映画的に変えて出すより他に仕方がないのです。もっともっと、日本の実際の生活は、映画的にならなくてはなりません。

(「泰流社「小津安二郎全発言(1933~1945)」15ページより)


「映画が作りづらいのは日本人の生活様式が悪いんだ」

と、いっていた青年小津安二郎が、


十数年の時を経て、「晩春」では逆に

「停滞」を芸にしている、という……


「停滞」を道具に1ショット撮ってしまっている、という……


S26


小野寺「ここ、海近いのかい」

周吉「歩いて十四、五分かな」

小野寺「割に遠いんだね、こっちかい海」

周吉「イヤこっちだ」


海=母、は誰もが想像するところです。


もうおわかりかとおもうんですが、


「晩春」の「3」は……

・父(笠智衆)

・娘(原節子)

・母(海? 家? それとも∞??)

この△の物語です。


なんですが、小津安っさん、彼は性格が悪いので……

オープニングでは観客をだまして

別の△を提示しております。


それが

・父(笠智衆)

・娘(原節子)

・彼(宇佐美淳)


このニセの△


観客は当然、

原節子と宇佐美淳のラブストーリーを期待しますわな。


この自転車シーン……

なんかトラックの荷台に自転車をのっけて撮ったとか。


おかげで我々は原節ちゃんの胸のボインボインを

拝むことができるわけですが…


想像するとちょっと間抜け。


ま、そのあたりもニセの△っぽいです。



DRINK

は、二人が結ばれないことの象徴だということは

前回触れました。


自転車おデートのあと、

例の白ソックスシーン。S32~S37

原節ちゃんが、笠智衆を出迎えます。

そしてお着替えシーンがあり、

食事シーンへと続きます。


このあたりで観客は

「そういや、紀子のお母さんはどうしたのだろう?」

とおもいはじめ……


シナリオ上まったく言及されることのない母親は……

「どうも亡くなったらしいな」

と結論付けます。


この母を一切消してしまうという手法、

これってヒッチコックの「レベッカ」の影響なんじゃないかと僕はおもってるんですが……どうなのかな?


「市民ケーン」にしろ「レベッカ」にしろ、

シンガポール時代に小津安っさんが見入っていた作品です。


そうそう、

S36

洗面所でまた「清さん」なる人物に言及されます。


周吉「自転車、二人で乗っていったのかい?」

紀子「まさか――借りたのよ、清さんとこのを」


一度さいごまで「晩春」をみてしまえば

「清さん」が誰なのかはあっさりわかるのですが……


初回の観客にはまったく謎の人物です。



この謎の男「清さん」が不気味なのは……

彼が絶えず数字の「4」と結び付けられているからで…


S11においては

麻雀をやりたいために清さんを呼んでくれ、という。

麻雀はとうぜん「4」人でやります。

S36においては

自転車と結び付けられる。

自転車と言えば、海岸でのこのショット……


「4」つの○

この「4」はさっぱりわかりません。

なにか意味が隠れているのか?

いたずらなのか?


えー…

もとい。

白ソックスシーンにおいて

紀子の「だって、服部さん、奥さんお貰いになるのよ」

というセリフをきき、

我々観客は途方に暮れてしまいます。


というのは…それまで

・父(笠智衆)

・娘(原節子)

・彼(宇佐美淳)

このニセの△を信じ込まされてきたからです。


どうも単純なラブストーリーではないらしい???


途方に暮れた我々の目の前に提示されるのが……

あまりといえばあまりにむごすぎるショット……


小津安っさん、僕はあなたの天才ぶりがこわい……


S38

銀座の舗道…これ↓↓

アールデコ調の美しい看板ですが……


作品中の看板類はすべて小津安二郎本人がデザインしていた、とは

有名な話。


ね?○と△がでてきます。


「一人息子」「父ありき」でおなじみ、

円に内接する三角形、ってやつです。


はい、喫茶店内でもやっています。

安っさん、あなた意識してやってますよね??


BALBOA

なんて看板のショットで一度出せばあとは必要ないもん。

店内で繰り返す必要なんてないもん。


わざとやってる。

○と△を出したいから。


一体なんなの?


原節ちゃんと宇佐美淳がバラバラになったところで

アヤちゃん、月丘夢路が登場です。


このあたりでわれわれは

紀子……原節ちゃんがお嫁に行く意思がない、と知り…


どうやらこれは
・父(笠智衆)

・娘(原節子)

・母(海? 家? それとも∞??)

この△の物語なのだな、と理解し始めます。


真の△の登場。

それはそれとして……

紀子とアヤちゃんの会話は暗号がたくさんちりばめてあります。


S47

アヤ「ああ池上さん? 来たわ――ずるいのよ、あの人、椿姫がお子さんおいくたり? って聞いたら、三人でございます、って澄まァしてるの、ほんとは四人いるのよ、一人サバよんでるの」

紀子「もう四人」


この「3」「4」というのは

覚えておいででしょうか??


「父ありき」のS69

笠智衆と坂本武が昔の生徒たちに子供の数を聞くシーンの再演です。


平田「三人の方は?」

誰も手をあげない。

平田「さすがにまだ三人のお方はないなあ」

いきなり一方から声があって、

「先生!」

両先生、その方を見る。

一人の男が手をあげている。

男「四人!」


「3」「4」……


あと、紀子&アヤちゃんの会話では……「クロちゃん」が気になる。




紀子「そうなのよ――あの人来てた? 渡辺さん……」

アヤ「あ、クロちゃん来なかった。あの人今これなんだって、ラージ―ポンポン。七ヶ月……」

紀子「ふウん、あの人いつお嫁にいったの?」

アヤ「まだいかないのよ」

紀子「まあいやだ」


「渡辺さん」がなぜ「クロちゃん」なのか??

「黒田さん」「黒川さん」とかならわかるが??


――この答えは厚田雄春/蓮実重彦の「小津安二郎物語」に書いてありました。


愛称といえば、小津組でいえば岡田時彦がエーパン、吉川満子はほとけ、菩薩までは行かないっていうんです(笑)。飯田蝶子がカバ。…(中略)…三宅さんはクロちゃん。これは、顔の輪郭や目の感じがジョーン・クロフォードにどっか似ているっていうんで、ぼくらがそう呼んでたんです。

(筑摩書房「小津安二郎物語」68ページより)


ようするに紀ちゃんは三宅邦子を「まあいやだ」というのだ。


S50

も、あだ名のはなし。

叔母さんのうちで、いとこのブーちゃんをからかっている

原節ちゃん。


この子、田口勝義、がなぜ「ブーちゃん」なのか??

安っさんの暗号があるのか?????


これはけっこう長いことひっかかっていたのだが、

謎が解けてみると、

ほんっっっっとにバカらしい。


この子、「長屋紳士録」にも出てたこの子、

芸名「青木放屁」というのだ。


だから「ブーちゃん」……


暗号も何もない、です。そのまんま。


で、

S51


まさ「アノ、これ曾宮の娘の紀子です。こちら三輪さん――」

紀子「……」(しとやかにお辞儀する)

秋子「三輪でございます、いつも北鎌倉で……」


三輪さん…「3」輪さんという名前をわれわれははじめて耳にします。


オープニング同様、

原節子&杉村春子は三宅邦子と同じ画面内に写りません。


↓これだって、写ってるといや写ってはいるが…

ぼやけてます。


S52

で、紀子の縁談と周吉の縁談が同時進行で進められます。


佐竹君の年齢が34歳というのは……気になる。

「年も三十四で、あんたとはちょうどいいし、会社でもとても評判のいい人なのよ」

「3」「4」……


まだお嫁には行きたくない、とはぐらかしていた紀子ですが、


まさ「――ねえ紀ちゃん、さっきの三輪さんねえ……」

紀子「――?」

まさ「お父さんにどう?」


という話が出て来て途端に不機嫌になります。


手をゴニョゴニョ……

小津作品の中では

恋する乙女のポーズだと決まっております。


三角関係、

父、あたし、三輪さん、の△が出てまいりました。


S60


笠智衆と原節子はお能を見にいっていて留守。

で、高橋とよと谷崎純の二人が留守番をしている。


「清さん」というのはなんのことはない。

このおっさん↓↓ 谷崎純のことなのだが……


それは最後にならないとわからない。


S62

能楽堂


暗号も何もないですね……ここは……


こんなにも美しく…残酷な…


△というのは……


しかし三宅邦子は

注意深く原節子&笠智衆とおなじ画面から排除されます。


↑にしても完全に被写界深度の外に三宅邦子はいます。


□□□□□□□□


うーん…

書きたいことをとにかく書いちゃったので…


わかりにくいですな。

とにかく「3」 △の映画だということがわかっていただければ…