小津安二郎「晩春」のすべて その5 | トトやんのすべて

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猫写真。
ブンガク。
および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

その4からつづき。


能楽堂にて、笠智衆と三宅邦子が会釈しあうのをみて

ジェラシーのかたまりになり、


帰り道、「多喜川でご飯を食べよう」というお父さんをふりきって

アヤちゃんの家へいく原節ちゃんでありました。


S67


北川邸、お屋敷です。


ここで心底ホッとするのは……



「洋館」のセットのデザインがいいから。


われわれは

戦前の「淑女は何を忘れたか」「戸田家の兄妹」の

おぞましくケバケバしく毒々しい洋館をけっして忘れはしない……


戦後の焼け野原を経て、ようやく洋館のデザインのなんたるかを学んだ

小津安っさんでありました。


……とかおもったが次回作「宗方姉妹」で

またもおぞましい吐き気をもよおすより他ない「洋館」が出現……

「晩春」の北川邸は「偶然」「たまたま」――であったのかもしれない。


もとい、アヤちゃんちです。


アヤ「ふみイ!(と女中を呼んで、ドア口で女中に)あ、今のお菓子ね、あっちの部屋へ持って来て――」


などと女中さんを呼びつけますので、
原節ちゃんの紀子とは階級が違う人だとわかります。


シナリオに

「ウェストミンスターの時計が綺麗な音で時を打つ……。」とあります。


いいな。この時計もゴテゴテしてなくていい感じです。



アヤちゃんの背後の絵も モダンでいい感じ。

「淑女」「戸田家」の壁にかかっていたおぞましい絵を思い出しましょう。


「晩春」はどこを切り取っても完璧です。


(……にしても、次作「宗形姉妹」…建築にしろ衣装にしろ、どうしてああもおぞましいのか??)



アヤちゃんがショートケーキを「食え」「食え」すすめるのですが、

紀子は食べない、というのは前々回「その3」で紹介しました。


帰宅した原節ちゃん。

「このままお父さんと一緒にいたいの……」

と告白しますが、

笠智衆は突き放します。


紀子「じゃお父さん、小野寺の小父さまみたいに…」

周吉(曖昧に)「うん……」

紀子「奥さんお貰いになるの?」

周吉「うん……」

紀子(愈々鋭く)「お貰いになるのね、奥さん」

周吉「うん」

紀子「じゃ今日の方ね?」

周吉「うん」


で、泣く原節ちゃん。

S73


↑↑原節ちゃんの右側に見えるのは

ステノグラファー……結婚しないで「職業婦人」になるためのスーツでしょうか。

相当本気だったのだとわかります。


しかし。職を具体的に見つける前に、まず「衣」から、というのは

戦前の学生ものの主人公みたいで微笑ましいものがあります。


しかしこのスーツ


S78


ではあっさり消えている。↓↓


相当にお見合い相手の佐竹君がよかったものか…

(34歳…「3」「4」…クーパー…クーちゃん…「食う」ちゃん)

周囲の「嫁に行け」圧力に負けてあきらめたか……


それとも??……


そうそう、話が前後しますが、

S75


アヤちゃんの背後に……「3」……



3個の○がみえるのが気になるところです。


アヤちゃんの人物造形はものすごく深いとおもうのですが……


それは後で触れます。


えー

で、

紀子の結婚が決まり、

父―娘のラブラブ京都旅行です。


S85


ここで、鏡の前でボインボインやっている原節ちゃんのお姿……

(タオルかなにかを手の上でボインボインやってる)


これはどうしても…

「戸田家の兄妹」の高峰三枝子のボインボインを思い出させます。

さらに、

高峰三枝子が愛しの昌兄さまのことを考えていたことを思い出しましょう。


どうも小津作品のヒロインは△が充実してくると…

ボインボインしたがるものらしい??…


高峰三枝子は兄をおもい、

原節ちゃんは父をおもう、わけですが、


あと、原節ちゃんのショットでは「鏡」が出てくる点、進化してます。

「鏡」はもちろん、嫁入りのシーンで登場する小道具です。


S88


清水寺にて

「小父さま、フケツ!!」

とかいわれていた、小野寺の小父さまの奥様は

坪内美子なので


フケツであるわけもなく……


手前、笠智衆、坪内美子の「2」

奥、桂木洋子、三島雅夫、原節子の「3」

という構図↓↓



単純に「5」人並べりゃいいじゃねえか……


というところをあくまで「2」「3」に分解しないと気が済まない

小津安っさんでありました。


それはちょうど…

「戸田家」のラスト、

母(葛城文子)、妹(高峰三枝子)、嫁(桑野通子)の「3」人から

佐分利信が逃げ出したように……


「父ありき」で

父(笠智衆)、息子(佐野周二)、亡くなったお母さん…この「3」人に

嫁(水戸光子)が加わる直前に笠智衆が急死したように……


あくまで△にしないと気が済まないのね…

というか…


このショットが撮りたかったのだ、とよくわかります。

小野寺の小父さまの娘、美佐子さんは、紀子の分身なのです。


東大教授―京大教授、というわかりやすい設定も

「東はどっちだい」「海はどっちだい」とかいう方向論も

全部このショットの下準備のような気がします。

紀子=美佐子


「分身」といえば……

名高き

S90

「既に床が敷かれ、寝巻に着がえた周吉が床の上にあぐらをかいて、膝をなでている。紀子も寝支度を整えて床の上にいる」


というのですが…


僕にはこの↑↑

目を細めてくわえタバコの笠智衆が…

ギョッとするほど小津安二郎その人に似てみえる…のですが…


笠智衆、ふだん目がくりくりしてるんで気づかなかったが、

目を細めると…背も高いし…小津安っさんに似てる??


意識してやってるのだとしたら…??…


さあ…で、問題の…シーン…



紀子「あたし、知らないで、小野寺の小父さまに悪いこと云っちゃって……」

周吉「何を――?」

紀子「……小母さまって、とってもいい方だわ、小父さまともよくお似合いだし……きたならしいなんて、あたし云うンじゃなかった……」

周吉「いいさ、そんなこと……」

紀子「とんでもないこと云っちゃった……」


ここは…えー「近親相姦」だの「エディプスコンプレックス」だの

語られるところですが、

以前は僕もそんなこと書いてたとおもいますが、


今回はあくまで「3」「△」で読み解きますよ。


紀子…原節ちゃんは、自分の分身が△の中で幸せそうなのを見てしまったのです。

フケツだと思っていた京都の△が、とてもよかった。


――……だったら、鎌倉の△だって……


父(笠智衆)、あたし(原節子)、三輪さん(三宅邦子)だって…


とてもよい、かもしれない。

「3」輪さんだし、「3」宅邦子だし…


名高き壺のシーンですが……


偉い学者先生たちがなんのかのおっしゃっているシーンですが……


わたくし、トマス・ピンコがあっさり答えを出しちゃいますよ。




安っさんは○と△しか考えてない、とおもう。

意味なんか知ったことか、とおもってたはず。(?????)


「オレぁ、○と△を撮りたいんだよ。構図はコレ。厚田兄、照明はよろしくな」

といったところ。


そうでないと

なんでこんな形の窓(○)の前に…

なんでこんな形の壺(△+○+△)を置いたのか??


これは説明できない。

別の形の窓だって良かったはずだし。

別の形の壺だって良かったはず。


でも「○」と「△」…

例の円に内接する三角形をやりたいのだから


こうするより他なかったのだ。

△の窓に

でっかい○の壺とかだとカッコ悪いし、な。



意味なんてない、とおもいます。

BALBOA と同じです。

その証拠は


次の

S91

が、竜安寺の石庭であることです。


えーですから、


S93


紀子「あたし……」

周吉「うむ?」

紀子「このままお父さんといたいの……」

周吉「……?」

紀子「どこへも行きたくないの。こうしてお父さんと一緒にいるだけでいいの、それだけであたし愉しいの。お嫁に行ったって、これ以上の愉しさはないと思うの――このままでいいの……」

周吉「だけど、お前、そんなこといったって……」


こんな展開になっちゃったのは、

父(笠智衆)、あたし(原節子)、三輪さん(三宅邦子)の△の提示のせい。

あの○△の壺のせいです。


「お父さん、この△はいかが?」


笠智衆がそれに対抗するには「お母さん」を持ちだしてくるより他ない。

ヒッチコック「レベッカ」のように消されていた「お母さん」が

ここで唐突に登場します。


周吉「お前のお母さんだって初めから幸せじゃなかったんだ。長い間にいろんなことがあった。台所の隅っこで泣いているのを、お父さん幾度も見たことがある。でもお母さんよく辛抱してくれたんだよ――お互いに信頼するんだ。お互いに愛情を持つんだ。お前が今までお父さんに持ってくれたような温い心を、今度は佐竹君に持つんだよ――いいね?」


原節ちゃんがここで納得するのは

「お母さん」なるマジックワードのせいですが……


それはもちろん…


○「お父さんは三輪さんと結婚しない」


――これが確実になったせいでもあります。

なぜって??


笠智衆は、

父(笠智衆)、あたし(原節子)、三輪さん(三宅邦子)…

この△を否定したのですから、


これは三輪さんと結婚しない、といってるようなものです。

お父さんのウソを紀子は見破ったのです。



S95


唐突に婚礼の日。


↓↓二階にあった椅子が一階に降ろされています。






まさ「……綺麗なお嫁さんになって……亡くなったお母さんに一目見せてあげたかった……」


ここで笠智衆がやけにドギマギしてしまうのがおもしろい。


「やっぱり、お父さん―あたし―お母さんの△がいい!」


とか原節ちゃんが言いかねないから、でしょうか??


「タバコ」という小道具は京都の、あの夜を思い出させます。

「鏡」はあのボインボインの場面にありました。



ここらで……われわれは背景の△に気づいてしまうわけで…


いや……↑二枚上の画像に、もう出てますが……



はい。


○△が……

焦点合ってませんが…


これは「清さん」のうちのような気がする。

高橋とよ、谷崎純夫妻の家。


ま、どうでもいいけど。



シナリオ

「紀子、頷いて立つ。周吉、手を添えて、いたわりながら、並んで出てゆく。

まさ、見送り、改めて室内を一廻り見廻って、二人のあとから出てゆく」


――……


この杉村春子の動きを、小津安っさん絶賛したらしいですが、


この杉村春子の動き……


これは公開から66年後…ま、2015年の今、ですが、


○と△隠していないかな??


と見廻るトマス・ピンコを予想しているようで…若干こわくなります…


で、部屋を見廻ると…


案の定(!!)…


○と△がみつかる、という……

今度はピントあってる。


原節子がいなくなってからはじめて提示する、という…


このイヤらしさ……


おしゃれなカフェ、BALBOA ○と△

京都の宿の壺がおりなす ○と△


……それがなんと曾宮家の二階にあったとは……

小津安二郎……

彼は一体何者だったのか??……


なんでこんな…66年も解かれない謎を隠しておいたのか??

(ま、僕がはじめて暗号を解いた、として?? ですけど)


で、結婚式終わりまして、


S100


小料理屋「多喜川」ですが…


笠智衆と月丘夢路のおデートですが…


観客としては主要キャラ二人なので、

なんとなく流れで見ちゃいますが…


よく考えるとヘンです。

結婚式は紀子の第一高女時代の同級生がきたはず。

アヤちゃんはなぜ同級生の集まりにいかないのか?

なぜ笠智衆と一緒にいるのか?


笠智衆も笠智衆で…ま、独り者だからいいにしても…

娘の結婚式のあと、娘の同級生と飲んでる、という……


いえ、別に

「このシーンはおかしい!」といってるわけじゃなく、…


これはアヤシイぞ。といってるんです。

なにか隠してる!!



それで思い出すのは、

原節ちゃん、月丘夢路が二階でおしゃべりしてると、

笠智衆が紅茶とパンを持ってくる、あのショット。


笠智衆、アヤちゃんにやけに接触したがるのです。


アヤちゃんもアヤちゃんで…


アヤ「あたし五杯までだいじょうぶなの。いつか六杯のんだら引っくり返っちゃった」


という「5」「6」は…

周吉の「お父さんはもう五十六だ」

このセリフを思い出させる。


そこでアヤちゃんの人物設定をみていきたいのですが、


アヤちゃんの特徴は――……


↑↑このキスシーンといい、


↑ラージポンポン(妊娠)のクロちゃんの話題を語るショットのように、


父(笠智衆)、娘(原節子)に肉体的接触をはかる人物なのです。


まるで母親かなにかのように……


あと、思い出したいのは↑S75

彼女の背後に浮かび上がる「3」つの○のイメージ。


「3」

ん、ひょっとして…アヤちゃんって…

「お母さん」となにか関係が??……


これが深読みでないことは

キスシーンの後のセリフ…


アヤ「いいわよ、寂しくないわよ。寂しかったら、あたし時々行ってあげるわよ。ほんとよ」

周吉「ああ、ほんとに遊びに来ておくれね、アヤちゃん」

アヤ「ええ行くわ――ああいい気持――」


ポイントは二つ。

・「行く」という動詞ですが、これは「晩春」において結婚に関する言葉として使用されてきたわけです。


S71

周吉「もう行ってもらわないと、お父さんにしたって困るんだよ」

紀子「だけど、あたしが行っちゃったら、お父さんどうなさるの?」


S78

まさ「ねえ、どう? 行ってくれる? ――ねえ、どうなの」

紀子(気乗りもなく)「ええ……」

まさ(目を輝かして)「行ってくれるの?」


という具合。

「ええ行くわ」は限りなくヤバイセリフです。



もうひとつは「ああいい気持」なるセリフ…

これは小津作品の伝統として、死すべき人が口にするセリフ…


「戸田家の兄妹」S9

父「ああそうか……ああいい気持だ……酔ったよ……母さんお冷や一ぱいくれんか」


「父ありき」S80

堀川「――うん……いい気持だ……睡いよ、とても睡い……」

良平「お父さん!」


もちろん、アヤちゃんは今から死ぬ人とはとても思えませんから……


「お母さん」と結び付けようとしている、そうとしかおもえない。


それを考えると、

・周吉(笠智衆)には小野寺の小父さま(三島雅夫)

・紀子(原節子)には美佐子(桂木洋子)

という分身がいたことを思い出したくなる。


アヤちゃん=お母さん


これを考えると、あるいは紀子のお母さんは

お金持ちの家から、あまりお金のない学者の家に嫁いできた人なのかも?

とか考えたくなる。


「お前のお母さんだって初めから幸せじゃなかったんだ。長い間にいろんなことがあった。台所の隅っこで泣いているのを、お父さん幾度も見たことがある。でもお母さんよく辛抱してくれたんだよ」


周吉は、人間的に奥さんをいじめたりするような人ではなさそうだから、

金銭面で苦労したのかもしれない??


ま……なんにせよ、それは映画の外の出来事です。


S102


帰宅した笠智衆が高橋とよに

「清さんによろしくね」

といいます。


前回書きましたが、

ここではじめて「清さん」がS61に出てきた謎の男だとわかります。


お着替えシーン。

ここがとんでもなく寂しいのは、

輝かしき白ソックスシーンを思い出すから。


このショット、

カメラ位置はまったく同じですね。

「晩春」のすべて その2

平面図上のカメラ位置Eです。

あ。


リンゴが「3」個……


この並び方が……

「父ありき」そのまんま……


ヤバイ…ヤバすぎる……


「2」+「1」

原節ちゃんが行ってしまいましたので、


お父さん+お母さん=2 です。


うーん……


というか、アヤちゃん=お母さん、が正しいとすると


お父さん+アヤちゃん=2

なので……


流行りの(?) 年の差婚……

うらやましいぞっ! この、このっ!!…だけど…



そんなイヤラシイことはお父さん考えてなさそうです。


お母さん=海

も見張ってますし……


以上、「晩春」のすべて

おしまいです。


一応。