「少尉は……」
セイラの言葉にアムロは、はい、と顔をあげた。
「ニュータイプという言葉、知っていて?」
つい口調が軽くなるのも、年下の少年だと分かった安心がセイラ
にあるからだった。
「レビル将軍から聞きましたが、スーパーマンとか超能力者なん
て信じられませんね」
「でも、ザビ家の人たちは、自分たちがニュータイプだと思って
いるらしくってよ?」
「冗談じゃないです。もし、そうでしたら僕は今日にでも死にま
す。ギレン・ザビの演説というのを聞きましたが、あれは独善で
す。地球連邦の人間が奴隷になれってことでしょう?許せません
ね」
その直截(ちょくせつ)なアムロの言葉に、セイラはますます嬉
しみを感じた。
「本当ね。でも、ジオン・ダイクンの伝説って読んだことあって
?」
「教科書に書いてあることぐらいしか知りません。でも、ジオン
っていう人は、少なくとも太陽系全域を人間の生活圏とするため
には、人間はもっと考えるべきだ。地球にかじりついていてはい
けないって言ったんでしょ?そのことは判りますけど、ザビ家っ
てのは封建的ですね?」
おやおやとセイラは笑いをかみしめた。先刻の照れ屋さんが雄弁
になっていたからだ。
「人間って権力を手に入れてゆくと、それの基盤にいる国民一般
のことを忘れるんですね。地球連邦政府だってそうです。絶対民
主主義って聞こえはいいんですが、議会第一主義で三分の二以上
の賛成がなけりゃあ何もできない。そうすると、議会工作イコー
ル政治でしょ?国民の方に顔を向ける政治家なんて一人もいなく
なるんですから、ザビ家に軟弱者呼ばわりされても、やむを得な
いんですよ。官僚組織に振り回される連邦の組織から脱しきれな
い政治形態なぞ、これも潰れて欲しいですね」
「じゃあ、なぜ、アムロ少尉は闘っているの?」
「死にたくないからです。戦争って殺し合いですからね…ああ、
ニュータイプのことですがね、連邦の組織を人間の手に取り戻せ
る人っていう意味での新しいタイプの人のことでしたら信じたい
ですね。ほら、人間の意識って判り合える時ってありますよね。
そんな、判り合えるって部分だけがパッとつながって人類が理解
し合えて、人類全体が協調してゆくっていうの。それが、ニュー
タイプというのなら、これは、いいです。僕だってその一員にな
りたいくらいです」
「ジオン・ダイクンという人は、そういう新しい認識を持ちあえ
る人のことをニュータイプといったはずなのよ」
「へえ?」
アムロはセイラのやや寂しげな瞳を見つめた。
「よくご存じなんですか?ジオンって人を?」
「ええ……まさか」
セイラは一瞬狼狽した。アムロはセイラの反応を妙だと感じた。
「ニュータイプ…でも、人間なんてそんな簡単に変われやしませ
んよ」
「そ、そうね。それに、もし、ニュータイプが現れるとしても、
物事にはなんでも生まれる前の陣痛っていうものがあるし…」
「………!」
アムロは直観していた。
「セイラさんは…今がその時代だって、そう信じているんですね
。」
「みせて欲しい、人の光明を…!」
セイラは、アムロの澄んだ瞳の中にその思いを叫んでみた。そん
な辛い思いが、アムロに判るわけはなかった。ただ、真摯なセイ
ラの眼差しに、アムロは、女性の中には恐ろしいものがあるもの
だと感じるのだった。アムロ・レイ少尉はまだ少年であった。
これが、アムロとセイラの、直接の出会いである。(小説版)
これから、アムロとセイラの仲も深い関係になっていくのだが、
アムロを、まだ少年だと思うセイラに対し、年上の“金髪さん”
として、惹かれていく、アムロの感情が痛いほどよくわかるすシ
ーンである。
アニメのセイラ役は井上搖(よう)。機動警察パトレイバーで、
香貫花(かぬか)・クランシーをもこなした、ベテランの声優で
ある。ツンと鼻についた声が刺激的であった。アルテイシア・ソ
ム・ダイクンがよく似合う、高貴な声だった。2003年2月
28日没、56歳であった。