士官食堂と兵員食堂は区別されているが、アムロたちにとっては
昨日までの兵員食堂の方がずっと気楽で、まだ一度も士官食堂で
恰好つけた食事などはしなかった。セルフ・サービスの窓口でパ
イロット用の食事を受け取ると、いつも使っている右隅のテーブ
ルに先客がいた。食事が終わってミライ少尉は立ったが、もう一
人の伍長は立つ気配がなかった。
昨日までの兵員食堂の方がずっと気楽で、まだ一度も士官食堂で
恰好つけた食事などはしなかった。セルフ・サービスの窓口でパ
イロット用の食事を受け取ると、いつも使っている右隅のテーブ
ルに先客がいた。食事が終わってミライ少尉は立ったが、もう一
人の伍長は立つ気配がなかった。
「お疲れね」
「し、少尉こそ…」
すれ違いざま、ミライ少尉は愛想のいい笑顔を送ってくれた。つ
ぶらな瞳というのは、ミライ少尉のためにとってあった形容だと
アムロには思えた。制服の上からもふっくらとした肩の線がみえ
て、いかにも姉さんという人柄は、兵たちの間で、ナンバーワン
の人気があった。
「かみさんね。かみさん。二つ年上の姉さん女房なんて、こりゃ
いいすよ」
「賛成だな。この件については、カイさんと同意見です」
ハヤトまでが、ミライ少尉のこととなるとこう言った。
本当に如才のない女性で、それでいて、ミライ少尉に殴られたと
いう若い兵も多かった。手抜き作業を神業のように見つける才能
を持ち合わせているのだ。その二つの面がミライを魅力的な女性
にしていた。
「俺はドジでないから、まだ一度もひっぱたかれていない」
あのリュウが、そう言うのだ。
「痛くなくって、気持ちいいよぉ!」
アムロは、隣のテーブルに腰を掛けようとして、残った伍長をど
こで見た女性なのだろうかと考え、その伍長の名前を思い出して
アムロは耳まで赤くなった。
こで見た女性なのだろうかと考え、その伍長の名前を思い出して
アムロは耳まで赤くなった。
アムロたちパイロットは、モビルスーツの3インチ・モニターの
画像の中のドシセイラしか知らないのだ。生身のセイラの識別な
どは訓練されていなかった。
セイラが通信兵として能力不足なのは当たり前のことなのだが、
誰それをAからDブロックへ移動させろと命令されても、それを
おうむ返しに伝えているだけでは、兵は動くものではなかった。
兵は、何のためにどのように移動するのか知りたがっているのだ
が、その時、嘘でもいいからお世辞の一つでも言って、「がんば
って」といってやれば、バカな兵隊はセイラさん好きよ、ぐらい
言ってすっとんでいくのだ。命令伝達に女性兵士が多く使われる
のは、男どものこの生理を利用しての事なのだが、セイラ伍長は
口が裂けてもそんなことは言わなかった。だから、兵はセイラの
伝言を聞かなかったし、その結果もまずくなった。だから、ドジ
セイラなのだ。
「…サイド7のゼラビ図書館で、よくお見かけしました」
ああ、もっと別の言い出し方があったろうに、と後悔の念にとら
われた。
「アムロ少尉が?」
セイラは微笑を崩さずに聞き返した。
「は、はい。軍に入る前の二年間、サイド7にいたんです」
「…そう」
セイラの作り笑いが、真底うれしそうに輝いた。
この人の笑顔がこんな間近に見られる!これはアムロにとって歓
喜に近かった。軍隊という処は、人種の寄せ集めの集団である。
そのために、同じ国やサイドの出身と分かっただけで、旧知の仲
に思えたりする。同じコロニーなら、お隣さんみたいなこのだっ
た。
「少尉がサイド7の方なんて心強いわ。ブリッジには一人もいな
いのよ。私割り込んで入隊したでしょ。判らない事だらけで、ミ
ライ少尉だけが頼りだったけど、アムロ少尉の様な天才的パイロ
ットが同じサイド出身なんて、素敵だわ」
このセイラの言葉に、アムロは天にも昇る気持ちだった。