▶『史記』「刎頸(ふんけい)の友」 | ぐーすけとりきのブログ

ぐーすけとりきのブログ

ブログの説明を入力します。

趙には、二人の上郷(大臣)がいた。

藺相如(りんしょうじょ)と廉頗(れんぱ)である。

趙王は藺相如の功績を認め、同じ上郷の廉頗大将軍より上位にお
いた。

廉頗「面白くない、なぜ相如がわしより位が上なのだ。わしは、
趙の総大将として数々の功績をあげた。相如は口先だけの働きで
はないか。
しかも相如は身分も知れぬ食客だった身、そんな男の下におかれ
るのは、おれの自尊心が許さん」

家臣:「ごもっともでございます」

廉頗はだれかれ問わず、不満を口にした。

廉頗:「みなの者、よく見ていろ、わしは奴と会ったら必ず辱め
てやる!」

その話を耳にした相如は病気と称して外出をやめた。

家臣:「ご主人様、いつも屋敷に閉じこもっているのはお体にさ
わります。今は花も美しく咲き乱れております。たまには外に出
られてはいかがにございます?」

藺相如:「そうよのう。よし、たまには外出してみるか。馬車を
用意してくれ」

藺相如はひさしぶりに外に出た。

「鳥がさえずり、花が咲き乱れる、やはりいいものじゃのう」

すると、前方から廉頗将軍の馬車がやってきた。

藺相如:「これ、道を変えよ。この建物の裏にまわれ。
よし、ここで廉頗将軍の馬車が通り過ぎるまで待て」

廉頗は相如が隠れているのを知らずに通り過ぎた。

それをみてから相如は屋敷に引き返した。

その晩、藺相如邸──

家臣:「家臣一同お話したいことがあって集まっておりまする」

藺相如:「おう、みんな集まってなんとした?」

家臣:「ご主人様、わたしどもが家を捨ててまでご主人様に仕え
るのは、ご主人様の高誼をお慕いすればこそにございます。

いま、ご主人様は、廉頗将軍とは同列の御身分、それなのに廉頗
将軍の辱めを恐れ、ひたすら逃げ隠れをなされます。

今日の昼間の出来事は匹夫でもいさぎよしとせぬ振る舞い……し
かしご主人様はそれを恥じている風もみえませぬ。もう、わたし
共は我慢がなりませぬ。全員おひまをとらせていただきまする」

藺相如:「そうか……
その方たちは、廉頗将軍と秦王とどちらが手強いと思う?」

家臣:「それは秦王でございます」

藺相如:「その秦王とわしは二度にわたって堂々とわたりあった
そのわしがなぜ廉頗将軍を恐れる。

あれほど強大な秦がなぜ我が国を攻めないのか……それはわしと
廉頗将軍と頑張っているからだ。

今、わしと廉頗将軍の間がうまくいかなくなったら、それこそ秦
の思う壺……わしが争いを避けるのは個人の争いよりも国家の方
が大切だからじゃ。わかってくれ」

家臣:「ご主人様の深いお心も知らず、われらは愚かにございま
した。今夜の無礼何卒お許しくださりませ」

藺相如:「わかってくれればそれでよいのじゃ」

この話は、たちまち宮中に広まった。

趙の重臣:「相如どの、廉頗将軍と会ってほしいのだが…」

藺相如:「いや、会わぬほうがよかろう」

趙の重臣:「いや、廉頗将軍をこの屋敷までお連れして居るのじ
ゃ。それがしの顔を立ててくださらぬか」

藺相如:「廉頗将軍が参っておられるのか。趙の総司令官を玄関
払いにはできませぬ。お会いいたします」

藺相如「うっ!!!」

なんと、廉頗は上半身裸で、荊(いばら)の鞭を首にかけて正座
していたのだ。

藺相如:「廉頗将軍、そのお姿は何事でございます?」

廉頗:「それがしは、相如どのの深いお心も知らず、愚かしい態
度をとりました。相如どのの御心を知って穴にも入りたい気持ち。

この荊の鞭で、心ゆくまでお打ち下され。どれだけ打たれようと
も相如どのの今までのお苦しみをつぐなえるとは思えませぬが、
自分の愚かさが恥ずかしくて……」

藺相如:「廉頗将軍、なにをおっしゃいます。あなたがおられる
から、他国は趙に手を出せぬのではありませぬか」
「さあさあ、着物を着てくださりませ。これ酒席の用意をいたせ

こうして二人は酒を酌み交わした。

廉頗:「相如どの、わしは相如どののためなら首を…頸(くび)
を刎(は)ねられても悔いはない」

藺相如:「それがしも同じでござる。廉頗のためなら喜んで頸を
刎ねられましょう」

廉頗:「趙のために、藺相如どののために乾杯」

藺相如:「趙のために、廉頗どののために乾杯」

その友のためなら、頸を刎ねられても悔いはないという「刎頸(
ふんけい)の交わり」または「刎頸の友」という言葉は、ここか
ら生まれた。

ロッキード事件の時、国際興業社主であった、故・小佐野賢治が
国会に証人喚問され、故・田中角栄との関係を問われ「刎頸の友
」であると答えたのは有名な話である。

秦は、その後、藺相如と廉頗が元気なうちは趙への侵攻はしなか
ったのである。