相撲興行では、10日目以降に上位同士の対戦が組まれる。
そんななかで、期待された大関同士の対戦が途中欠場なんてこと
になると、非常にがっかりさせられる。
1人で土俵に上がって勝ち名乗りを受ける力士も、さぞかし張り
合いのない気分になっているだろうと思うのだが、実は、そうで
もないらしい。
ある相撲ジャーナリストによると、何よりもケガを嫌い、何より
も白星が大事な関取にとっては、不戦勝ほどありがたいものはな
いそうだ。
だが、一昔前の力士には、はるかに勝負師らしい潔さがあった。
昭和14年1月場所11日目のこと。
大関・鏡岩と前頭筆頭・磐石の対戦が、がっぷり左四つのまま
完全に膠着した。
勝負は二番後の取り直しとなったが、すでに精根尽き果てた鏡岩
は、若い者を磐石のもとへ走らせて「不戦勝の勝ち名乗りを受け
くれ」と告げさせた。
ところが、当の磐石は、相手の疲労困憊につけこんで白星をいた
だくわけにはいかぬと、勝ち名乗りを辞退した。
よって、ここに前代未聞の「両者不戦敗」という事態が生じたの
である。