アトキンスが日本にやってきたのは、もちろん馬場をアメ
リカに連れ戻すためだ。
アトキンスはグレート東郷と一緒になって、連日のように
力道山を口説き続けた。
馬場は素晴らしいレスラーであり、金の卵を産む鶏だ。
アメリカに戻ればいくらでも稼げる。
リキは馬場の独立を恐れているようだが、彼は心優しく
従順な男だから心配ない。
馬場はこれまでと同様にシカゴのアンフィシアターでも、
ニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデンでも
試合が出来るし、さらにセントルイスのキールオーディ
トリアムのリングにも上がれる。
馬場には基本的にアメリカで稼がせて、ワールドリーグ
戦など、重要な試合の時だけ日本に戻せばいい。
「アメリカで活躍する馬場が帰ってきた!」と大会に
希少価値も加わるだろう──。
アトキンスと東郷が馬場の再度のアメリカ遠征を力道山
に求め続ける最中、「豊登が大木金太郎を焚きつけて、
リング上で馬場を負傷させようとしている」という情報
が、力道山、東郷、アトキンス、馬場4人の知るところ
となった。
フレッド・アトキンスは呆れ果てた。
プロレスラーが生活できるのは、観客が会場に足を運んで
くれるからであり、観客を呼ぶ力を持つのは強烈な個性
の光を放つ、ごく少数のレスラーだけだ。
日本ではリキドーザンとババだけがその力を持っている。
豊登以下のレスラーは、要するにこのふたりに食わせて
もらっているのだ。
にもかかわらず、愚かな日本のレスラーたちは嫉妬の炎
に灼かれるあまり、金の卵を産む鶏を殺そうとしている。
冗談ではない。
こんなアホな奴らに馬場を壊されてたまるか。
馬場は俺が守る。
そう考えたアトキンスは場外乱闘に持ち込み、故意に
豊登の肩を脱臼させた。
翌日から、馬場への不穏な動きはピタリと止んだ。