●「格闘者の血」~「超老伝」カポエラをする人・中島らも | ぐーすけとりきのブログ

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中島らもさんの秀作である。


いたるところに、人間に対する「愛」がちりばめられ
ている。


はちゃめちゃで、めちゃくちゃな物語だ。


井上ひさしを彷彿とさせるところがある。


主人公は菅原法斎(すがわらほうさい)という強烈な
爺キャラで、カポエラの達人でもある。


陸軍中野学校でサバイバル技術を叩き込まれた経歴
の持ち主。元警官である。


わしはもっぱら趣味でカポエラをやっとった。
知らんか?


カポエラはブラジルの格闘技でな、
ちょっと変わったものだ。


足しか使わん。


これは昔の黒人奴隷がだな、
主人の横暴から身を守るために考え出した武術だ。


手をいましめられていても使えるように足技が
主体だ。


逆立ちして足を風車のように回して蹴ったりする。


ん?わしの腕前か?


そうさな、ま、口はばったいが今のところまだ
負けたことはないな。


なにしろ珍しい格闘技なのでな、
戦う相手がおらんのだよ。


カポエラをやっているのはそれが魅力だからだ。


誰もやっておらんなら負け知らずの第一人者で
いられるからな。


わしは負けるのが嫌いじゃ。


定年で警察学校を辞して一日目。


紋付正装をした妻から
「おいとまをいただきます」
と「定年離婚」された。


その頃からじゃ、近所でワシのことをあれこれ
噂するようになったのは。


「いつも裸に近い格好で暮らしている」


「いつも庭で飯を炊いて、蛇やトカゲをおかずに
して食べている」


だの。ま、たしかにその通りではあるのだが、
近所の結論としてはわしは
「奥さんに逃げられたせいで気が変になった
おじいさん」
ということになるらしかった。


それを聞いて最初は随分と立腹したが、
そのうちにこう考えるようになった。


わしはいまや社会的地位もないし役割もない。
妻も逃げた身で天涯孤独である。


そのために歯も磨かず服も着ず、自由に暮らしている。


ということはわしには有り余る自由の上になおかつ
「発狂してもかまわない自由」さえ約束されて
おるのではないか。


そう考えるとわしは実に今まで感じたことのない
無上の歓喜に包まれたのだ。


うれしくなったわしはそのまま二階へ
かけあがり、朝日に向かってあらんかぎりの
声で叫んだのだ。


「おむつおむつおむつーっ!!」


とな。


どうです?


かなりイッテるでしょう。


実際、カポエラをみたことがないので、
どんだけ、格闘技の中で強いのかよくわからんが、
両手を使えない分だけ、技が制限され、
勝機は薄いのではないかと思う。
これは、ぐーすけの私論だが…


だが、この法斎先生、小説の中では、まことに
強いのである。


腕の彫り物を失敗した彫物師を助けたりする。


その彫物師は「御意見無用」を「御意見御用」と
彫ったため、その筋の人に狙われていたのだ。


そこで、法斎先生、ひと暴れしたあと、
失神しているヤクザの「御意見御用」に
字を継ぎ足して丸くおさめるのだ。
(ネタバレ無用)


また、プロレスを見に行った時も、
場外乱闘していて、逃げ場を失って
「ナンマンダブ、ナンマンダブ」と
となえている、おばあさんをみて
ヒールの役割だが、老人には手を出さない
という悪役レスラーに突っかかっていって
悪役レスラーに大怪我を負わすこともあった。
法斎先生は武道家なのだ。
でもプロレス団体側にはど顰蹙なことだった。


なんやこんやで、法斎先生、今度は
「格闘技世界一決定戦」に出場する羽目になった。


この「ルール調整委員会議事録」が都立練馬公民館
大会議室でしたためられている。


法斎先生:この会議は、弁当は出んのかね。


相撲代表:土俵はつくるんだろうな


インドズ相撲代表:ハマヌーン像は何処に置くんですか。


など、各代表者が、それぞれ、思い思いのことを
主張してキリがない。
ここらへん代表者の格闘技の背景が反映されていて
面白い。


そのうち、事件が起きて(ネタバレのため記さないが)
格闘技世界一決定戦はポシャってしまう。


そして、法斎先生は、今日も
「おむつおむつおむつ…」と
叫ぶのである。


中島らもさんは、新生UWFが
空中分解して、レスラーがUインター、藤原組
に収まっていく中、
たった一人ぼっちになってしまった前田日明に
こうFAXを送ったという。


「…君には挫折する資格がない。


日本中の若者が君を見ている。


君が引退しようとか芸能界に入ろうとか


言って頓挫してしまったら、


若い子たちが人間が執念を燃やしても


所詮こうなるのかと失望してしまう。


だから頓挫する資格はない」


このFAXが、人間不信になって、引きこもっていた
前田を突き動かし、リングスを立ち上げる
きっかけになったという。


まさに熱い話である。