貢と淑子は、今から1年前にお見合い結婚をした。
中学、高校と男子校で学んだ貢は、女性の扱いがよくわからな
かった上、高校卒業後に勤めた建設会社には女性社員が少なく、
女性と知り合う機会がなかなかなかった。
貢が31歳となって、上司から勧められるままにお見合いをして
結婚したのが、今の妻の淑子だった。
淑子は、当時29歳で、短大を卒業してから特に就職すること
もなく、いわゆる家事手伝いをしている女性であった。貢は
米倉涼子の大ファンで、淑子のお見合い写真を見たときに口元が
米倉涼子に似ているなと好印象を持った。お見合いの席で、本人
と実際に会ってみると、写真以上に似ていたこともあって、
ひと目で気に入ってしまった。共通の趣味であった映画の話でも
盛り上がり、そのままトントン拍子に話が進んで、それから
半年後に結婚した。
最初の一ヶ月間は、貢ぐにとってはまさに蜜月と呼ぶにふさわ
しい期間であった。しかし、その後、淑子はしばしば外出して、
夜遅く帰宅することが度重なった。
貢がこれを責めると
「あなたがおもしろくないから、外でウサを晴らしてくるのよ。
文句ある?」
淑子は開き直って言い返した。女性の扱いにまったくなれていない
貢は、ただオロオロするだけで、このことからかえって淑子の
気持ちは貢ぐから離れていった。
淑子は、29歳になり、30歳が目前に迫ると、親にいわれる
ままにお見合いをして、結婚なんてこんなものかと思いつつ、
自然の成り行きに身を任せてしまった。別に貢のことは好きでも
嫌いでもなかった。
しかし、貢ぐと結婚して一緒に生活を始めると、どうにも我慢
がならないことが多かった。食事の後で、箸を楊枝(ようじ)
代わりにして歯の掃除をしたり、トイレで用を足した後、水を
流さなかったりすることがたびたびあった。
そんな中でも絶対に許せなかったのが、日曜日に親友を家に
招いたときに、平気でステテコ一枚の姿で現れたことだった。
30歳で初婚の淑子は、他の同級生に対して、貢が「30歳
まで待った白馬の騎士」というイメージを作ろうと必死だった
のに、これがぶち壊されてそのプライドがズタズタにされて
しまったのだ。
淑子は、貢ぐに対して、離婚を切り出したが、貢はこれを頑なに
拒むだけであった。離婚用の用紙はとっくに市役所から取って
きてある。貢の署名欄を除いて、すべて記入しておいた。
淑子は、貢の署名さえあれば離婚できるんだと思ううちに、これ
を自分で書いて、離婚届を提出してしまえばいいんじゃないかと
考えた。そして、夫の署名欄にボールペンで貢の筆跡を真似て
「高橋貢」と書き、市役所におそるおそる持っていったところ
受理されてしまった。
これを知った貢は、どうしたらよいのだろうか?