お昼のご飯が終わって
ベッドに座りながら外を見ていた
窓には柵があって、少し見えにくいけど
それでも春の日差しは降り注いで
花壇の花達が綺麗に咲いてる
前に進むって…
どうやって?
あまりにも周りに甘えてばかりいたから
自分の足で進む方法がわからない
でも
もう誰にも甘えることはできない
自分で選んだことだから
「失礼します」
掃除の人が挨拶をして、部屋の掃除を始めた
僕は軽く会釈をして
そのまま窓を見つめていた
「いい天気ですね」
「そうですね」
「今日は暖かくて気持ちがいいですよ」
「そうみたいですね」
「外には出ないんですか?」
「後から…」
「お若いのに部屋にばかりいたらもったいない。もっと楽しまなきゃダメですよ」
そんなこと言われなくてもわかる
でも僕だって色んな気持ちがまだ解決できてないんだ
先生だって、ゆっくりでいいからって
「お顔も綺麗だし。本当に綺麗な顔をしてますね。モテるでしょ」
「…別に」
「またまた~」
なんなんだ、この人
すごく馴れ馴れしい
掃除の人がこんなにお喋りしてくるなんて初めて
「モテるに決まってる。彼女はいるの?」
「いません」
「あっ、それとも彼氏?」
「いません!」
「隠さなくてもいいのに」
「隠していません!」
「なんだ、智とは上手くいかなかったのかよ…」
「…そう、えっ?」
「マジでか。バッカだな」
「えっ?」
慌てて掃除の人の顔を見た
被っていた帽子をゆっくり外して
その人は僅かに微笑む
「そんで、お前はこんなとこで何してんの?本当に放っておけないわ」
「…まさか、おじさん?」
「久しぶりだな、潤」
「えっ?本当におじさん?本物?!」
「当たり前だ。幽霊にでも見えるのか?」
「…だってだって!どうしているの?」
「お前があまりにも見てられないから仕方なく出てきてやったんだろ?ありがたく思え!」
掃除の人と同じ制服で現れるんだもん
わかるわけないよ!
でも、すごく懐かしくて
もう会えないと思っていたから嬉しくて泣いてしまった
「おいおい、泣かれても困るんだよ」
「だって…」
「だいたいのことは知ってる。で、お前はこれからどうするんだ?」
「…わかんないよ。でも今はすごく嬉しくて涙が止まらない」
「仕方ない奴」
おじさんはベッドに腰を掛けて
僕を引き寄せる
久しぶりの人の温もりと、懐かしい温もりに包まれて
気持ちが穏やかになった
「俺のこと、心配したか?」
「ずっと心配だったよ。あんな形でいなくなるんだもん」
「ごめんな、巻き込んで」
「全然。僕こそ何もできなくて。おじさんを助けられなくて…」
「俺はそんなこと望んでなかったよ。お前が幸せになることだけを望んでた」
「…らしくない」
「だな」
ギュッとおじさんに抱きついた
おじさんは僕の頭を優しく撫でて、キスを落とす
唇には絶対しないとこは変わってない
「智とは…もうムリか?」
「お兄ちゃんは…新しい道を歩きだしたんだ。僕はもう足手まといなんだよ」
「守るんじゃなかったの?」
「必要なかったみたい。1人で空回りしちゃった」
「そっか」
「お兄ちゃんに執着し過ぎて周りが見えなくなっちゃって。優しくしてくれた人も傷つけた」
「男だろ」
「…うん。僕を好きになってくれたのに」
「ヤッ たか?」
「…記憶にないんだけど多分」
「まあ、仕方ないんじゃねぇの?ずっと誰ともヤ ッてなかったんだろ?お前はちょっと病んでるから変な行動しても仕方ないんだよ」
「…。」
「しちまったことを悔やみ続けても仕方ないんだ。時間がもったいねぇ」
「…そうかな」
「あと、簡単に死 のうとか考えるな。バカ」
「ごめんなさい」
「これからどうする?」
「…。」
「わからないなら、一緒に行くぞ」
「えっ?」
おじさんは袋から洋服を出して
僕に着替えるように渡してきた
展開に付いていけなくて洋服を握りしめていたら
ボケッとするなと怒られて手早くおじさんが着替えをしてくれた
「服、ぴったり。靴も」
「当たり前。どれだけお前の身体を見たと思ってるの」
「言い方が…酷いよ」
「本当なんだから仕方ないだろ」
ニヤリと笑って帽子を目深に被る
僕も同じようにした
「行くぞ」
どこに行くのか
一緒に行ってどうなるのか
全くわからないけど
今はこの手を取りたい
他に僕の進む道が見えない
病室を飛び出して
おじさんが用意していた車に乗り込んだ
僕の未来はおじさんの手の中にある