この旅はトルティーヤとの戦いから始まる。
金沢に向かう小さな旅だ。
それはあまりにも小さくて、私とよっちゃんが3日間東京都小金井市を留守にしても、おそらく誰も気づかないだろう。
だけど私たちは早起きをし、電車に乗った。
トルティーヤはよっちゃんの鞄をずっしりと重くしていた。
たぶん、彼の持っている荷物の中で一番重い荷物だったんじゃないかと思う。
一人まるまる2本づつ、①ラタトュイユとチーズ入りと②ポテトサラダとトマトサラダ入りのトルティーヤサンドだ。
私たちは朝7時にそれを電車の中で食べた。前日の夜は1時間しか寝てなく、その上その日は晴天だった。
寝不足の肌がピリピリし、胃がキュウっと悶えた。
これから4時間の電車の旅と、その先のことなんてもう来年のことのように遠く感じた。
午前11時、それでも私たちは金沢駅に着く。
私たちに何が起ろうと、何を思おうと、4時間という時間は4時間にすぎない。
金沢は暑く、間違って南に来てしまったのかと勘違いをしてしまうほどだった。
トルティーヤとの鮮烈の戦いからも4時間が経過した私たちの身体からはその戦の傷も消え失せ、次の獲物を欲していた。
もちろん、これは金沢おいしいもの巡りの旅ではない。
むしろ私にとって金沢という街が特に特別な場所であったというためしもない。
私たちは21世紀美術館のためにはるばる来たのだ。
金沢21世紀美術館。
しかし、朝ご飯の次は昼ご飯と相場は決まっている。それに美術館は明日だ。
私たちは目の前に立ちふさがる海鮮市場へと、海鮮丼を求め足を踏み出した。
市場の人々は元気だ。それはベネチアの人々の元気さに似ている。
「こっからここまで全部で5千円にしてやるよ。」なんて気の利いたことを言う。「ほら、見てみ。かになんて1、2、3、4匹とあとほら、このエビ全部だよ。今しかないよ。」
でも、どこに行っても同じことを言われるのだ。
わたしがバイト先で「いらっしゃいませ。」と言うのと同じくらいたくさんの人に繰り返されるフレーズなのだ。
おいしそうなお寿司屋さんや海鮮丼屋さんも軒を連ねている。
どこに入ればいいのか、いろんなお店の人にアドバイスを請うと、みんながみんな違う料理屋さんの名前を言う。かすかに市場の水面下に潜む入り組んだ大人の繋がりやビジネスの存在を感じる。
おそらくは、どこの海鮮丼も同じようにおいしいのだ。
そして、案の定私たちはとてもおいしい海鮮丼を食べた。
さて、話はとんで。今ふと時計に目をやると2:34分である。
ぞろ目が幸運なのか不吉なのかという問題は置いておいて、お風呂に時間だ。