感染というプログラム


──悪夢の始まりは、いつも唐突。


「なんだ、この人形。気持ち悪……


玄関先に転がっていた、やけに精巧な作りのフランス人形。仙道魁(せんどう かい)はそれを拾ってゴミ箱に捨てた。まるで生き物に触れたかのように手に残った熱は気味が悪く、何度も何度も手を洗ってしっかり消毒まで済ませて部屋に戻る。仮眠のためにベッドに横になって目を閉じる。

ふと違和感を覚えて目を開けば、そこは知らない建物の中。マンション、いや、ビルといえばいいのだろうか。コンクリートで覆われた階段の多い景色に、ゲームのダンジョンにあったな、などと考える。


……紫苑(しおん)……?」


ぼんやりとした瞳で、それでも口角だけを上げた虚ろな笑みを浮かべる弟。その背後には包丁を手に泣き喚く母の姿。何が起きているのか。


「やめろ、風音(かざね)!! 何をするんだ!!」

「だってもうこの子は"感染"しているの!! もう殺すしかないじゃない!!」

「息子を殺すのか!!」


ヒステリックに叫ぶ母と怒鳴る父。わからない。何が起きているんだ? 魁は必死に思考する。しかし、答えは出ない。ふと、あの人形の顔が過ぎった。あ、と思ったのも束の間。


世界がひび割れていく。

壊れる。

ああ、何か……何か、聞こえる……


『無事"感染"を確認しました。プログラムを終了します』