「何が面白い、クソガキ」
その言葉を聞いたオレはつい「オマエもクソガキだろ」と零してしまった。幸いレオンにへ届いていなかったようなのでホンダとシンモンのやり取りを聞き流しながら正面を向く。シンモンが扉を開けて出ていった後、小さくため息を零す。原国主義が悪いとは言わないがあの態度はさすがにいただけない。まァ、この場に一瞬でも留まっていただけマシになったか。
「ホンダ大隊長も相手にしなければいいだろうに」
「ルイス」
「……私も同じか」
相手にするな、と言われたようでげんなりしながら呟く。クサカベがアドラバーストを持つという情報は有益だと感じたが、大隊長を集合させてまでの情報だとは思えなかった。退屈な気分のまま話を聞き、途中で帰らせてもらうことにする。
うっかりしていたが、オレは極度の方向音痴だった。
「……なんで浅草なんかに来ちまったのか」
よりによってあの第7、シンモンの管轄じゃないか。中隊長のサガミヤはともかく、シンモンは苦手だ。なんせ。
「あァ? ルイスじゃねェか」
「げ、シンモン」
何故か親しげにファーストネームで呼んでくるシンモン。オレが何と言おうと「バーンズじゃややこしいだろ」と気だるげに言って聞かない。そんなことを気にするような男ではないと知っているし、それなりに付き合っていればどうやら気に入られているらしいことにも気が付く。
「やっと第7に来る気になったか」
「なってねェし年上には敬語くらい使え、クソガキ」
こいつの相手はいちいち面倒だ。自分も敬語なんて使わないことは棚に上げて貶してやる。
「オレはただ迷子の仔猫ちゃんしてるだけだ」
「なら詰所に来るか?」
「……変なことしねェだろうな」
「俺をなんだと思ってやがる。しねェよ」
まだ、と聞こえたのは気のせいだと考えておとなしくついていく。どの道一人では帰れないし、サガミヤに頼んでレオンに迎えに来てもらう方が賢明だと思ったからだ。それに。
「ルイス!! 久しぶりだな!!」
「手土産はどうした、持ってねェとは言わせねェぞ!!」
やたらと懐いてくる口の悪い双子は癒しでもある。カバンにいつも入れてあるチョコレートを差し出して「これで勘弁してくれ」と言えば、可愛らしい笑みを浮かべて「しょうがねェな」と去っていく。
「サガミヤ、レオンに連絡してくれるか」
「年上には敬語じゃなかったのかよ」
じと目でこちらを見てくるシンモンは無視だ。苦笑するサガミヤにもう一度頼み、用意されていた茶に口をつける。
「美味いか?」
「……何か盛ったのか」
「俺が淹れた」
本当に淹れただけなのか怪しく思えたので、オレはそれ以上飲むのをやめた。サガミヤが困ったような顔をしているのが視界の端に映る。そんな顔をするくらいならこの男の行動を止めてほしいものだ。
と、思ったその時。
「ーーっ!?」
わずかに身じろいだだけ。正確に言うなら服が少し擦れただけなのに。
「効いてきたみてェだな」
「、んの、クソガキ……っ」
ニヤリと笑うシンモンを睨み付けて悪態を吐く。やっぱり何か盛りやがったか。サガミヤがまた困ったような表情を浮かべている。八つ当たりだと言われてもいい。それでも構わないから一言。
「躾ぐらいしておけよ……っ」
「すまねェ。きちんと言って聞かせる」
そんなオレたちのやり取りを楽しげに眺める聞かん坊。何を言っても無駄だろう。
「体が、熱ィ……」
誰か、誰か助けて。
「レ、オン」
愛しい者の名前を呼べば、身体は更に熱を持つ。目を閉じて思い浮かべる最愛の人。早く、助けて。でないとオレは。
「ほら、迎えだ」
シンモンの声に顔を上げると、目を見開いたまま固まるレオンの姿があった。縋るように手を伸ばすと少し慌てた様子で抱え上げてくれる。人前であることなど頭の隅に追いやって逞しいその体にしがみついて口付けをねだる。触れるだけのキスをしたレオンがシンモンに怒気を放つ。
「私の息子に何かしたのかね」
「ちょっとからかって遊んだだけだ」
文句なら受け付けてねェ、と横柄な態度のシンモン。遊びの域を超えているだろう、という文句を口にすることはできなかった。
後日わかったことだが、あのお茶に怪しい薬など入っていなかったらしい。
「あ、んのクソガキ……っ」
END