――生きとし生ける全ての命は 僕らに弱さを許さない
“散歩”から帰ってきたエイルが口ずさんでいたそのフレーズがやけに印象的だった。
放蕩癖のあるクザンをもってしても適わない自由気ままな海兵“鴉揚羽”は三年ぶりに本部に帰還した。といっても自発的に帰ってきたわけではない。白ひげの船で一番隊長を誑し込んでいたところをクザンが連れ帰ったのだ。
「おや、帰ってきたのかい?」
随分と機嫌が良いね。
つるの言葉にエイルはどうでもいい事を告げるように淡々と呟いた。
「ゼファーに会った」
「なんだって……?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「いつの間に仲直りしたんだい?」
「今の彼なら仲良く出来そうじゃない」
自嘲的な笑みを浮かべて呟くエイルの瞳は微かに濡れていた。かつて全ての海賊の命も平等に守り抜いたゼファーと、平等に死を与えてきたエイルとでは相性が悪いのも当然のことだった。
「みんな変わるからね」
ちらりとこちらを向いた瞳は、変わってしまったクザンの“正義”をも責めているかのように感じて居心地が悪かった。
『罪は償える……っ』
情けない命乞いを最後まで聞かずに鋭い爪を向けたエイルの前に立ちはだかったゼファーの姿を覚えている。
『退け。海賊は皆殺しだ』
その言葉に込められた本当の意味を、まだ若かったクザンは知らなかった。
一一アンタだって、海賊でしょうが。
二人きりになった時、そう言ったことがある。
新兵時代から甘く優しい視線ばかり向けられていたクザンが初めて絶対零度の瞳を向けられた瞬間だった。
『だからだよ』
今ならわかる。
エイルは逝きたいのだ。
かつて愛した人達の待つ、その世界へ。
「若者の考えなんてボクにはわからないけど。あの子、良からぬ事を考えてるみたいだよ」
いいの?
エイルの視線の先にはセンゴクがいた。
「それなら、お前も始末せにゃならんことになるな」
「それは言えてる」
くくっと笑ったエイルはとても楽しげだったけれど。
「ボクが殺ろうか」
もしかして。
あの男なら、と。
「……おれ以外に殺されようなんて、許さないよ」
醜い嫉妬を隠しもせずに言えば、エイルは大きな目を真ん丸にしてこちらを振り返った。
「アンタを連れていくのは、おれの仕事でしょうや」
任せときなさいって。
拳を胸に叩きつける。
――伸ばし損ねたあの日の手で 誰かを求めるなら