人は何故ミスをするか | 言葉の宝石

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ティーンエイジの娘と話す時間の無かったお父さんが娘と日常に話したかった事をブログります(2011年9月から3年間限定)

人間はミスをします
ミス=mistake のことです

作業をするときに犯してしまう間違いの事です

人がミスをしたとき、周りの人はどうするか?
(1)助ける
  これは助ける事ができる能力があるなら当然の事です
(2)叱る
  これは「同じ間違いを将来繰り返さないように強力に注意をする」という事でしょう
  ※そういう目的の事を「再発防止」と言います
(3)再教育をする
  これも「再発防止」が目的です

たとえば、毎日の集計表にこういう項目を記入する作業があるとします
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
   |   |   |   |   |
   |   |   |   |   |
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

このマスに数字を入れて、月末に今月の合計を計算する、という
小学生でもできる作業です。
7/29に品物五個が入って、1個売れたら、こう記入します
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
7/29| 5 | 1 | 4 |くろの|
   |   |   |   |   |
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

次の日の7/30には1個も売れなかったとき、こう記入するのが正しい記入方法です。
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
7/29| 5 | 1 | 4 |くろの|
7/30| 0 | 0 | 4 |くろの|
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

ところが、この表に、こう記入するひとが出ました。これは間違いです。
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
7/29| 5 | 1 | 4 |くろの|
7/30| 5 | 1 | 4 |くろの|
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

7/30の最新の在庫数はあってます。
何が彼女にこう書かせたのか?(書いたのは女性らしいです)

彼女の上司は
「もう二ヶ月前に教育して毎日やってる事なのに。。。」
「何を考えているのか理解できない」
「アタマ悪いのかしら」などと首を傾げるばかり。本人にどう伝えたら良いのか、考えあぐねている。直接叱ったら凹むだろうし、何を考えているのか分からないからどう教えたら良いのかも想像がつかない。



よくあることです。

「なぜこの人はこのような行動をしたのか?」


こういうミスのことを、ヒューマン・エラーと呼んで研究する学問分野があります。

mistake と error の違いは、、、

使用例文
"It would be a mistake to argue with your boss the day before he or she evaluates your performance, but to forget an important step in an assigned task would be an error. "
解説
Although these nouns are used interchangeably in many contexts, a mistake is usually caused by poor judgment or a disregard of rules or principles (it was a mistake not to tell the truth at the outset), while an error implies an unintentional deviation from standards of accuracy or right conduct (a mathematical error).
出所
Oxford American Writer's Thesaurus 3rd edition © 2012 by Oxford University Press

人が間違った行動をしたとき、当人に100%理由や責任があるのではなく、それを引き起こした環境に原因がある、という考え方に基づいてその「原因」を発見し取り除いて再発防止を計る、というのがこの学問の目的です。

つまり、

「叱ったってダメだ」
「本人にしっかりしろなどと気合いを入れても環境が同じなら誰かがまた同じ事をする」
「環境が同じなら今はミスを犯した事の無いあなた自身もいずれ同じミスをするかも知れない」

ということです。


ミスを犯した会社などが「再発防止に努力する」とよく言うが、「社内マニュアルの再教育・再度の周知徹底」などでは「再発防止」にはなりません。徹底していたのに起こったのかも知れない。たまたま一人がバカだった、のが理由では無いかも知れない。

航空事故の場合は「再発防止」というものが徹底的に行なわれます。
原因究明のためには事故の当事者の過失責任を問わずに真相究明に協力させる、という規則まである。


なぜこんな事が起こったのか?
本人ではなくその背景や環境に原因を探す。
そしてそれを排除する事によって、再発を防止するのです。

「そういうミスが起こらない環境を作り直して行く」


以前、ドイツのアウトバーンの話をこのブログに書きました
この本にも書いてあります。
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アウトバーン(ドイツの速度制限の無い高速道路)の出口というのは60Km制限になっています。
アウトバーンの高速のまま一般道に出てもらっては困るからで、標識にも高速の出口は60Km制限と書いてある。しかし、それだけでは60Kmを越える速度で一般道に突入してしまうミスは防げません。

そこでドイツはどうしているか。
実は、アウトバーンの出口は、必ず半径の小さい急カーブになっているのです。あの急カーブを100Km超でそのまま曲がる事はシューマッハでもできない。(シューマッハ:ドイツのレースドライバー)

これで「ゼッタイにスピードを落として一般道に出る」という仕組みが出来上がっている訳です。

■ 人に何かをさせたいときは「みずからそうしたくなるようにさせるのが唯一の方法」という事がドイツでは実感できます。おそろしい国です。



日本ではスピード違反の多発する道路に数メートルおきに速度制限標識をたくさんたくさんたくさん並べている道路を見た事があります。いやでも目に入る。しかし、有効ですか?

ドイツ人だったら、「道を曲げる」でしょう。ゼッタイに速度を制限したいなら。



さて最初に戻って、あの人はなぜミスしたのか?

これです。
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
7/29| 5 | 1 | 4 |くろの|
7/30| 5 | 1 | 4 |くろの|
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

正しいのはこちら。
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
7/29| 5 | 1 | 4 |くろの|
7/30| 0 | 0 | 4 |くろの|
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

ミスの原因を考えてみましょう。
(本人がウッカリさんだから、などというのは「再発防止」になりません)

私の想像では「7/30は何も変化が無かったから前の日と同じと考えた」からです。
このまま月末までいけばちゃんと月間の入荷と出荷の合計がすぐに分かる。足し算しなくて済みます。合理的です。
彼女は7/30に入荷が3個あったら、こう書くのでしょう。
____________________________
日付 |入荷 |出荷 |在庫 |記入者|
7/29| 5 | 1 | 4 |くろの|
7/30| 8 | 1 | 7 |くろの|
   |   |   |   |   |
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
計算は合ってます(笑)


★この予想が正しいかどうかは、本人に「7/30に入荷が3個あったらどう書きますか?」と聞いてみれば良いのです。


じゃ、再発防止はどうするか。
私なら(原因が上記のものなら)こうします。
タイトルを変えるのです。
________________________________________
日付 |今日の入荷 |今日の出荷 |在庫 |記入者|


そして、試してみます。

まだミスが起こるなら、また別の原因を探します。
再発防止というのは、永遠に続く作業なのです。


最後までお読み戴き有り難うございました。