運命を変えた日【★女性専用車両 日記★act-1】 | ★女性専用車両 日記★

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「男がおらぬ女性専用車両といふものに、私も乗ってみむとて乗るなり。」

引越しが終わり、心機一転、初めての経路での出勤。

最寄り駅の改札から一番近いところに女性専用車両がある。
だから、なんとなく、乗ってみた。


それだけ。


おじさんと一緒はイヤ~とか、痴漢がしんぱ~いとか言える歳ではないことは自覚済み。
おっちゃんも、こんなケツには興味がないだろう。


今思えば、初日から衝撃的だった。
むしろその衝撃がなければ、私は翌日には一般車両に乗ってたかもしれないし、少なくとも、激戦の女性専用車両に乗り続けようなんて思わなかっただろう。

そう、女性専用車両は激戦なのだ。


最寄り駅からひとつ先は、いわゆるターミナル駅。

この駅に着き、扉が開いた瞬間、私の頭の中でスタート合図のピストル音が響いた。


よーい、どん(パーン)



ドカドカ ドスン ズドン・・・



順位やタイムがかかっている東京マラソンのランナーたちでさえ、もっと冷静にスタートすると思う。

しかし、ここにはコースはない。


開き始めた扉に、我先にと体をねじ込む選手たち。


そしてダッシュ。


とにかくダッシュ。


扉が開くまでの間に電車の外から目星をつけていたであろう空席へ向かって、滑り込む。


これを読んでいる紳士・もしくは女性専用車両ユーザーではない淑女のみなさまは、「そんな大げさな」「女性同士だと譲り合い精神もあるんじゃないの?」などと思っているのではないだろうか。

もしそうだとしたら、是非明日は女性専用車両の隣の乗車列に並び、扉が開く瞬間、女性専用車両の列に注目してほしい。

彼女たちの目が、きっとすべてを教えてくれるはずである。

そしてその様子は、誰にも言わずそっと胸にしまっていてほしい。

さて、車内ではまだまだ戦いの真っ最中。

無事座るまでが勝負である。


ふいに、小学生時代の総合学習で「椅子取りゲーム」をしたことを思い出す。

低学年ごろの決勝戦では、男女・もしくは女子同士の対決となることもよくあったが、高学年になるとほとんどが男子同士の決勝だった。

男子を意識し始めるのと同時に、女子は計算を覚える。


「"椅子取りゲームの強い女" < "一生懸命だけどなかなか勝てない健気な女"」

の方程式を瞬時に弾き出す。


「あ、押したー!ずるーい!」とか言いながら、ハナから座る気なんてない。アクシデントに見せかけて、少しだけでも意中のカレに触れることが、このゲームの最大のミッションなのだ。


でも、ここには女しかいない。

男性ウケ抜群三種の神器、ハイヒール・ハンドバッグの腕掛け(持ち方)・ふわふわスカートは、たちまち女の武器ではなくなる。

むしろ、良いスタートダッシュを妨げるものにもなりかねない。

一見無関係そうなふわふわスカートは、座る際に後ろ部分に手を当て、そろりとお尻を椅子まで誘導する必要がある。その一瞬の間が敗戦につながることだってあるのだ。



そして、ついに決着。
その間、わずか5秒ほど。

敗者から漏れるのは、遠吠え、ならぬ舌打ち。

そう、これは本気の勝負なのだ。

順位やタイム以上に背負っているものがある。

甘く見てはいけない。


初日の戦いに、あろうことか戦意すら装備し忘れて望んだ私は、もちろん敗者となった。

軽いショック状態の中、それでも頭の中では一瞬にして計算をしていた。


「"比較的空いている車両で快適に通勤" < "毎日レースにエントリーし猛者たちと戦う(刺激という名のおまけ付き)"」


いくつになっても「おまけ」にはどうしても心惹かれるものがある。

必死に何かを訴えかける心の声を無視して、次の日も必ずこの車両に乗ろうと決意したのだった。