マジすか学園6 坂道譚 第10話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。







『ーーもう、ここには来ないから』






マジ女2階の一角にはテーブルや椅子が並べられた休憩スペースがある。すぐ近くには自動販売機も設けられ、そこでひかりはぐったりしていた。



どうしてあんな事言ってしまったのだろうと、どうやら教室での発言を悔いているようだ。勢いとはいえ、言ってしまった以上教室にはいけない。



でもKILLERZにはお肉をもらったお礼をしなくてはいけないので、どの道行く事になる。ただ受けた恩は早く返せが森田家の家訓なので、どうしようと眉を八の字に歪める。



仮に教室に行き、増本達と関わった事が生徒会に知られ、彼女達が狙われたらたまったもんじゃない。さっきの様子だと生徒会は既に動いてる。
下手に増本達と接触すれば、仲間だと思われかねない。



(私のせいであの子達を巻き込む訳にはいかないよね)



ほとぼりが冷めるまでそっとしておくか、それだといつになるか分からない。言質がある以上、生徒会はどこまでも狙ってくる筈とひかるが緩慢な動きで起き上がる。



いっそのこと生徒会を潰してしまおうか?と考えるが、すぐに首を横に振る。美玲の口ぶりから察するに生徒会も恐らく強い。何人いるかも分からないし、ここで動くのは流石に無謀。



ならどうすればとひかるが美玲からもらった豚まんを手にする。包装紙に“日向屋”と書かれ、丁寧に包装を剥がすと、丸々とした豚まんが姿を現す。



ずっしりと重たく、冷めてしまっているが皮がモチモチしている。美味しそうと唾を飲み込み、大きく一口食べると、カッと目を見開き、思わず椅子から立ち上がる。




目の前を歩いている生徒達が何だアイツと奇怪なモノを見るような視線を飛ばしてくるも、ひかるは意に返さず、もう一口いく。



「おいしぃ〜」



頬に手を当て、うっとりとした表情を浮かべる。
皮は思っていた以上にモチモチしており、中にはぎっしりと具が詰まっており、口の中でほろほろと崩れ、凝縮された旨味が口内で爆発する。天にも昇るような美味しさに、ひかるの頬がふにゃっとなる。



冷めてもここまで美味しいなら、買ったばかりならもっと美味しい筈と思いながら椅子に座り直し、モグモグと咀嚼する。



最後の一欠片を口の中に放り、さてどうするかと今後の事を考えているとーー。




「待てって言ってんだろっ!!!」



人が真剣に物事を考えているのに、それをぶち壊すような怒声が耳朶を打つ。ひかるは眉を不愉快そうに歪め、そちらに視線を向ける。数名の女が1人の女生徒に詰め寄っていた。



サラサラとした黒髪は揺れる度に淡い燐光を振り撒き、色白の肌は陶器のように綺麗で、きめ細かい。鼻筋の通った端正な顔立ちは同性のひかるですら息を呑むほど。



長い睫毛に覆われた瞳は儚く、真一文字に結ばれた唇から呼気を溢す姿すら絵になる。ほっそりとした体を制服で包み、首から“百合”が刻印されたペンダントを下げ、右手には白とパステルブルーの2つのシュシュをつけている。左手にはパールピンクのブレスレットを装着してる。



全体的に穏やかな空気を纏っている。例えるなら森だろうか。兎に角静かで、絡んでいる生徒達とは空気感が違う。



「……」



ひかるがジュースを飲みながら、魅入るようにみていると、歩いていこうとする女生徒の肩を掴んだ。瞬間、ひかるの背筋にゾワッと怖気が走る。
それは美玲が発していたものと酷似してる。



「ーーっ!!!」



女生徒の体が揺れたと思えば、女が吹っ飛んでくる。足元まで転がり込み、苦しそうに呻いている。そこで初めて殴られたと理解するひかるだが、全く見えなかった。




(……あの人、すごく強い……)




先程まで静かだった空気は今や触れる物全てを切り裂く刃となり、洗練された動きは一切の無駄がなく、次々に女達が吹っ飛んでいく。



動いたと思った瞬間には相手が倒れている。きっと相手も攻撃を食らって初めて殴られたと認識している事だろう。



そのぐらい女生徒の攻撃は速く、的確だ。
見えないが、倒れている女達を見る限り綺麗に顎やこめかみといった急所を狙い撃ちされてる。



技術力の高さに驚きつつ、ひかるは真剣な顔つきで女生徒の細やかな動き、足捌きや攻撃の対処法を見ていると、足元で苦しんでいた女が立ち上がり、飲んでいた缶ジュースを奪われる。




「あっ……」




「小坂っ!!!」




女が叫びながら、缶を“小坂菜緒”に向かって投擲する。クルクルと回転し、小坂の顔に肉薄するも、当たる直前で小坂が首を傾けて躱す。標的を失った缶が窓ガラスにぶつかり、床に落ち、飲み口から中身が溢れ出た。




小坂が鋭く女を睨み付けるも、すぐに少しだけ目を大きく開く。女の背後でバチバチと櫻色の士気を迸らせるひかるを見たからだ。



「それ、私のジュースっ!!!」




喉を震わせて叫び、女が振り向くより早く、右足で膝窩を蹴りつける。女の膝が折れると、両手で襟首を掴み、思い切り真横に投げ飛ばす。女が椅子やテーブルにぶつかり、動かなくなる。




「テメェっ!!!何してんだゴラァっ!!!」




小坂に向けられていた敵意がひかるに向き、女が突っ込んでくる。拳。ひかるは顔を横にずらし、前に出る。拳が顔の横を通り抜け、ひかるが繰り出した縦肘が女の腹部にめり込む。



「うっ……」



目を見開き、体をくの字に折る女。ひかるは立て続けに左手の側面で女の膝を横から叩いて崩し、背後をとって、もう片方の膝も折って、中腰にさせると、中途半端に染められた髪の毛を掴み、テーブルに叩きつける。



鼻が潰れ、歯が欠ける。両方から流れ出た血が乳白色のテーブルを赤々と染める。そこでひかるはやめず、もう一度顔面をテーブルに押し付ける。



鈍い音に混じり、骨が折れる音や肉が潰れる音が響く。横に投げ、その勢いで最後の女の方に体を向け、走り出す。女がえ?と声を洩らす。



十分に勢いをつけて、ひかるが床を蹴って跳躍する。スカートの裾が大きく広がり、小坂が目を見開く。重ねられた両足が女の胸部を穿ち、女が後方へ弾け、自動販売機に背を打ち付け、前に倒れた。



「フン!!!」




着地したひかるが鼻から大きく息を吹きこぼす。
小坂は目を剥いたまま暫く固まっていたが、ひかるが行こうとすると、




「待って」



呼び止め、自動販売機でひかるが飲んでいたジュースを買い、それを差し出す。ひかるが小坂を見上げる。



「良いんですか?」



「うん。元はと言えば私のせいだしね」




「そんな……ありがとうございます」





元気よくお礼を言い、早速プルタブに爪を引っ掛けてあけると、ゴクゴクと喉を鳴らし、ぷはーと風呂上がりにビールを呑む中年男性のように豪快な息を吐いて、満面の笑顔を浮かべる。




その笑顔を見て、小坂の胸が温かくなり、可愛いなと小坂もつられて、口角を少しだけ吊り上げる。




「じゃあ。ありがとうございます」




「うん」




頭を下げて、歩いていくひかるを見て、小さくて可愛いと呟き、視線を辺りに向ける。眩しい笑顔を浮かべたひかるがやったとは思えない光景。
彼女の動きを思い返し、ふと思う。




(あの動き、“芽依”さんみたい)



ーーと。




その瞬間、トクンと心臓が一拍跳ね上がるが、小坂は気付かないフリをして、その場を後にしたーー。






続く。




【小坂菜緒】。
マジ女2年生。ラッパッパと軽音楽部が名指しで欲しがる逸材。喧嘩の強さは2年ではトップ。
それを買われ、両組織から勧誘されたが、断った。