マジすか学園6 坂道譚 第11話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。







「どうして私の指示を無視したのですか?」




生徒会長潮紗里奈の寒々とした視線が4名の生徒を射抜くと、4人が額に冷や汗を滲ませ、頭を深々と下げる。



「すみません。奴に監視してる事がバレ、気が動転してしまい会長の指示を無視する形になりました」



「成程。そういう時こそ私達に指示を仰ぐのが普通なんですがね……」



潮の言葉は冷たく、鋭い。長い睫毛がかかる瞳は黒々とし、いつもの温かさはない。刺すような緊張感に、松田里奈、上村ひなのの両名は壁際に立っている事しかできない。



「我々生徒会は弱き者を守る為に拳を振るうのです。決して自己の為、私欲の為に拳を振るってはいけません」



「……はい」




ひかるに見つかった段階で、本来なら潮ないし高瀬に伝えるべきだった。独断で動くなとは伝えていた。



しかし4人はそれを破り、ひかると相対した。
結果として軽音楽部部長、佐々木美玲の登場により事なきを得たが、それは美玲が来なければ戦っていた事を意味する。



“テッペン宣言”したひかるを生徒会は危険視しているが、潰せとは指示していない。あくまでも行動の監視。それが今回の目的。



生徒会に所属している以上、竜胆のコサージュをつけている以上、自己はいらない。弱い者を守る事を最優先とし、それを脅かす存在の監視が次点としてある。



見つかったから戦うとは愚の骨頂であり、浅はかと言わざるを得ない。肩がぶつかったから喧嘩するのと同じ理論。生徒会がそれではいけない。



ラッパッパと軽音楽部と同じであってはいけない。“テッペン”などというくだらないモノの為に、弱き者を踏み潰す“邪悪”と同じになってはダメなのだ。



「……とはいえ、貴女方も生徒会に入って間もないので、今回は大目に見ましょう。ですが、次はありませんよ?」




「はい……」




声に圧力を乗せて言うと、4人が頷き、生徒会室を出ていく。潮が小さく息を吐いて、椅子から立ち上がり、棚の上にある倒れた写真を手に取る。




(……中々思うようにはいきませんね)



里奈、ひなのを含め、何人かの1年生が生徒会に入った。ただその大半が生徒会の理念や考えが分からず、看板を利用しようとする愚か者。



生徒会と言えばラッパッパ、軽音楽部と並び評される一大組織。しかし2つの組織と違い、生徒会は“テッペン”を目指していない。それを“破壊”するのを目的として、活動している。



ラッパッパ、軽音楽部をなくし、“テッペン”という概念を壊せば、それを目指す者は出てこない。更に生徒会がマジ女の秩序を統制する事で、蔓延る弱肉強食論もなくす。



どんな人間であっても、平穏に暮らしていける学園を創る。それこそが生徒会が目指す最終目標なのだが、それを真の意味で理解している者は少ないだろう。



殆どの生徒達は生徒会がラッパッパ、軽音楽部に代わる“テッペン”としか思っていない。それでは今までと同じ、つまり“悲劇”が起こるということ。



“テッペン”を目指す者がいる事で生まれる“悲劇”を潮も、高瀬も知っている。もう2度と“悲劇”が起きない、起こさせない為に生徒会を立ち上げた。



写真に目を落とす潮の脳内には様々な記憶が流れ込む。雨、複数の笑い声、呻き声、動かない者。



額からジワっと汗が浮かび上がり、胸中に黒い感情が生まれ、全身に流れていく。瞳から少しずつ光が抜けていった時、生徒会室のドアが開く。




「失礼します。カツアゲをした者達が分かりました」




「……そうですか。ではその者達を“粛清”するように」




はいと生徒会室を出ていく女。潮が写真を元の場所に戻し、体を高瀬達の方に向ける。




「不届きを犯せば“罰”が下る。それは子供でも分かること」




ゾッとするような冷たい声、光のない瞳に里奈は息を呑み、ひなのは震えていた。









帰ろう。
ひかるはふとそう思った。教室に行く決心もつかず、これ以上学校にいてもやる事がないので、今日は帰ってしまおうと、花壇から腰を上げる。




ひかるは現在校舎裏にいた。雑草が脛の辺りまで伸び、ゴミが放置され、何故か錆びたスクーターが倒れている。そのせいか殆ど生徒がいない。



ジメッとした不快な空気感漂い、ここでスマホを弄ったり、弁当を食べたが、気持ちが上がらず、リュックを背にして歩いていく。



雑草を踏みしめながら進んでいると、校舎から校舎裏へと来れる廊下に生徒が座っている。背に龍と黒豹が刺繍された、紫色のスカジャンを着ている。



こんな所に人がいるんだと思いながら歩いていくと、その生徒が振り向く。顔を見て、うっと息を呑むひかる。



生徒は何故か般若のお面を被っていた。無機質な目は気味悪く、足を止めてしまうひかる。それに対し生徒が立ち上がり、近付いてくる。



距離が縮まるにつれてひかるの顔が険しくなり、心臓が早鐘のように脈打つ。そして、拳が届く範囲に入った時、ひかるが身構えた。




「森田ひかる……」



「そうですけど……貴女は?」



「んっ。軽音楽部の東村芽依。宜しくね」



「軽音楽部!?」



「そう」



抑揚のない淡々とした声でそれだけ言い、芽依がひかるに背を向ける。そのまま立ち去ると思い、ひかるが構えを解いた刹那、芽依が振り返り、貫手を飛ばす。



咄嗟に防御体勢をとろうとするが、風を切った貫手はそれより速く、ひかるの眼前に迫るが、両目に触れる直前で止まる。



「ーーっ!!!」



「私は敵。油断しない」



芽依が腕を戻し、暫くひかるを見た後で背を向けて歩き出す。ひかるは心臓が異様に弾んでいる事に気付く。芽依が止めなければ、あのまま両目を抉られていた。



「……」



胸中に芽生えた恐怖心。額から冷や汗が垂れる。
芽依が言ったように彼女は敵だ。油断したひかるが悪い。



美玲といい、小坂といい、芽依といい、この学校には底知れない者達が多い。




歩き去る芽依の背中を見て、ひかるは小さく息を吐く。自分はまだまだ弱い。それを痛感しながら、ひかるもまた足を進めた。






マジ女を後にして、自宅に向かっていたひかるだが、その途中で神社に寄る事を思い出し、慌てて来た道を引き返す。




ヤンキーなら一度は行っておきたい神社がある。
名は“猫神神社”といい、そこは“ラッパッパ誕生の地”や“始まりの場所”とも呼ばれるヤンキーの聖地。


数多くのヤンキー達がタイマンを張った所としても有名で、直近でいえば小林由依と佐々木美玲、遡れば“大島優子”と“篠田麻里子”、マジ女が出来てから数々のタイマンが繰り広げられた場所。



そんな話を聞けば、見てみてたいと思うのが自然だろう。ひかるも“テッペン”を目指す者として、見ておきたいとずっと思っていた。



マジ女に入学するまでは見ないと決めていた。本当なら昨日行く予定だったが、忘れていたので、今日は行くと早足で向かう。



猫神神社周辺には何もなく、田園風景が広がる鄙びた場所だ。【猫神神社はこちら】という日焼けた看板を一瞥し、矢印の方向に進んでいく。



歩いていると、それらしい場所が見えてくる。何もない所に十数段程の階段があり、頂上には朱色の鳥居が神々しい存在感を放っている。



「ここだ」



緊張からか心臓の鼓動が激しくなり、手の平に汗が滲む。それをハンカチで拭き取り、小さく息を吐いてから、階段に足を乗せた。




「ーーっ!!!」




瞬間、空気が変わる。それまで変哲もない空気だったのに、急に温かい何かに包まれているような感覚がする。不思議と嫌ではなく、寧ろ心地よく、ひかるは軽快に階段を登っていく。



頂上まで上がり、朱色の鳥居を潜って境内に入れば、空気がまた変化する。包み込む感覚が強くなり、神秘化的な、言語化が難しい不可思議な空気が流れていた。




「ここが……」



多くのタイマンが行われた場所と辺りに視線を走らせる。一本道の石畳が拝殿まで続き、拝殿の手前には賽銭箱が置かれ、すぐ上には鈴がある。



神社らしい設備はそれだけで、石畳から外れた場所にベンチがある。ひかるが爛々と瞳を輝かせ、歩き出す。




「みゃ〜」



ひかるが石畳を歩いていると、猫の鳴き声が聞こえ、顔を向けると、ベンチに1匹の三毛猫が座っていた。



こんな所に猫がいるんだと、ひかるが近づいて行く。猫はまだ仔猫で、寄っても逃げないので人馴れしてると思われる。



「みゃ〜」



「可愛いね」



ひかるが微笑みながら小さな頭を撫でると、仔猫が目を細め、喉をゴロゴロと鳴らす。それから背中に手を伸ばすと、手触りが良く、誰かが面倒見てるのかと思う。




「こんな所に人か……珍しい事もあるんだな」




落ち着き払った少女の声が耳朶を打ち、振り向けば1人の少女が立っており、目があった瞬間、びりっとした電流が頭上から爪先までを駆け抜けた。



茶髪を背中に流し、色白で端正な顔立ち。ひかるよりも上背があり、大人びた空気を纏っている。
マジ女の制服を着用し、ロングスカートの裾を靡かせて歩いてくる。




「誰……ですか?」



不思議な感覚に襲われながら、ひかるが問う。
ベンチから飛び降りた仔猫が少女に駆け寄ると、体を屈め、仔猫の頭を撫でながらひかるを見上げた。




「私は山崎天。アンタは?」



「森田ひかる。宜しくね」





偶然か、必然か。
多くの出逢いが紡がれたこの場所で、ひかると天が出逢ったーー。






続く。