マジすか学園6 坂道譚 第9話 | 黒揚羽のAKB小説&マジすか学園小説ブログ

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マジすか学園の二次創作を書いています。マジすか学園を好きな方、又同じく二次創作を書いている人良かったら読んでください。







「……アイツ、強かったな……」



1年C組。
静かな教室内に響く山口陽世の声。表情は曇り、紙皿に盛られた肉に手をつけず、脇に積まれた雑誌の上に置く。



「そうだね、思ってた以上に強かった」



隣で陽世の言葉に同意したのはスマホを弄る森本茉莉だ。“マジ板”に綴られたひかるへの誹謗中傷の数々に、不快そうに眉を顰める。




「……皆、好き勝手言いやがる」



「しょうがねぇよ。まさかアイツが“テッペン宣言”したなんて思わねえだろ。入学式に出てねぇんだぞ?アタシ達」



「そういう事じゃねぇ。“テッペン”とる気もねえくせに偉ぶってんのが腹立つんだよ」



こめかみに青筋を浮かべながら言う、大沼晶保。
室内が僅かにどよめいた。少なからず生徒達も思う所があったようだ。



ひかるを糾弾した女達はあの後、そそくさと出ていった。恐らくもう来ないだろう。



「また来るかな?」



「来ないでしょ」



増本の言葉をバッサリと否定した幸坂茉里乃は黙々と肉を焼いては食べるを繰り返す。あんな事があったのに良く食べられるなと呆れる陽世。



「あの人はもう来ないって言ってたでしょ?それは私達に会うのが嫌なんじゃない。自分がいる事で私達に迷惑をかける事が嫌なんだよ」



「何だよそれ、意味わかんねぇ」



「アイツ等も言ってたでしょ?不用意にあの人と関われば生徒会に目をつけられるって……」




一切表情を変えず、淡々とした口調で言葉を落としていく幸坂。増本と大沼の顔が険しくなる。似たような経験をした事があるからだ。決してそれは思い出したいものではない。



『“親なし”が来たぞー。逃げろ』



『アイツ等母ちゃんと父ちゃんいないんだって。危ないから関わるなって母ちゃんが言ってた』



『“親なし”、“親なし”』



『“親なし”と一緒にいると馬鹿がうつるからどっか行けよ』



『これだから“施設”出身の奴は……こんな簡単な式すら解けないのか』




増本、大沼、幸坂の3人は児童養護施出身だ。
大沼と幸坂は小学校高学年の頃、増本は産まれて間もなく施設の前に捨てられていた。なので親を知らず、物心ついた時には施設にいて、それが当たり前だった。



そんな3人に対して世間は非常に冷たかった。
大人は口にはしないが、目で語り、子供は大声で自分達を非難してくる。



施設出身というだけで腫れ物のように扱われ、大人達はいつも蔑んだ目を向けてきた。あの時抱いた感情や気持ちは今になっても忘られないし、一生忘れることはない。



「……私達は無意識に同じような事をしようとしてたって事?」




「そうなるね」




幸坂の言葉に2人の顔が暗くなり、増本が顔に手を当てる、陽世と茉莉も3人の事は昔から知っているので、幸坂の言葉の意味を理解し、表情が重たくなる。



彼女達がいる所だけ、他とは比べ物にならない肌空気が重たく、それに耐えられないのか、次々に生徒達が教室から出ていく。




「……じゃあ、どうすれば」



「今度来たら一緒に焼肉食べれば良いんじゃない?」



「今度って来ないんでしょ?」




「それは私の見立て。多分すぐには来ないだろうけど、ひょっこり来るかもしれない。そしたら誘ってみればいい」



「でも、そうしたら……」



生徒会に目をつけられるかもしれないという言葉を茉莉が飲み込んだ。生徒会がどういう基準で目をつけているのかが分からない以上、どうする事も出来ない。



“テッペン宣言”したひかるは間違えなく目をつけられている。ただ彼女と関わったら、本当に目をつけられるのだろうか?



「茉莉、お前なんで私達と一緒にいる?」



「それは友達だから。何が言いたいの?」



「餓鬼の頃、施設にいるから誰も関わろうとしなかったのはお前も知ってるだろ?でもよ、お前とパルは私達に関わってきた。今回の事、それと一緒じゃねえか?」



大沼に言われ、茉莉がはっとする。陽世も茉莉も周りの事なんて気にせずに3人に話しかけた。
いつも校庭の隅で遊んでいたから。



聞けば自分達が行くと、周りから人がいなくなり、後で教師から怒られるらしい。遊び場を独占するなと。



勿論、そんな事はしてないと言っても、聞く耳を持ってくれない。それを聞いた2人は3人の手を引いて遊び場へと連れていった。



人が蜘蛛の子散らすようにいなくなった遊び場。
ジャングルジムに登った陽世がこう言ったのを今でも覚えてる。




『ブランコも、滑り台も、全部アタシ等のモンだ』



シシシと笑ったのも忘れられない。思えばそれに救われたのかもしれない。




「……そうだね、何も関係ない」



「生徒会が茶々入れてくんならその時考えればいい」



「来るか分からないけどね」



「お前な、そういう事言うなよ」



「事実でしょ」



短く、簡潔に言う幸坂。大沼と茉莉が全くと肩を竦める中で、陽世だけが暗い顔のまま俯いていた。



「どうしたの?パル」



「……イヤ、アタシがあんな対応しなきゃよかったのかなって」



どうやら陽世はひかるに対しての接し方について気にしているようだ。あれに関しては仕方なかったともいえる。



腹を空かせていたひかるに肉を分けた。その相手がまさか“テッペン宣言”したなんて知れば、誰でも驚くし、対応も変になる。そうだったとしても、陽世は気になって仕方がない様子だ。




「パルって本当に“狂犬”なの?」



「は?何だよ急に」



「優しいってこと。でもそれがパルの良い所」



「……うるせぇよ」



茉莉に笑顔を向けられると、陽世が頬をうっすらと赤く染める。



「じゃ、次森田さんが来たら焼肉に誘うって事で良いね?」



「おう。って何でお前がまとめんどよ」



「何よ。私、リーダーよ。文句あるの?」




「誰だよこんな奴リーダーにしたの」



「貴女達でしょ」



「ちょっと落ち着きなって!茉里乃も手伝ってよ」




「疲れるから嫌だ」




あれだけ重苦しかった空気が彼方への消え去り、いつもの明るく、うるさい、KILLERZが戻ってきたーー。





続く。



次回の更新は月曜日です。



綺良ちゃん、大沼ちゃん、幸坂ちゃん、陽世ちゃん、茉莉ちゃんは全員同じ小学校です。

中学は陽世ちゃんと茉莉ちゃんは3人とは違う所に入学してます。親の都合というやつです。