こんばんは。都議の栗下です。
大統領選挙、混沌としてきていますね。
3日前に、前回の記事、「アメリカにおけるゲーム規制に対する各党のスタンス」について書いたときには、すぐに次の大統領が決まると思っていたのですが・・・。
引き続き、アメリカ編ということで、
今回は「自由」を標榜する国、アメリカの表現の自由にまつわる近年の重大判決についてお伝えしたいと思います。
■発端はカルフォルニア州でのゲーム販売規制
(リーランド・イー議員が手に持っているのは
GTA、アサシンクリード、RED DEAD REDEMPTION?)
2005年、カリフォルニア州議会民主党のリーランド・イー議員が
「California Assembly Bills 1792 & 1793」という
カリフォルニア州暴力ゲーム規制法案を提出し、州議会で可決されました。
この州法は18歳未満に暴力的なゲームや性的な描写があるゲームを販売したり貸し出す業者に対して1件につき最大1000ドルの罰金を科すなど、独自の規制を加えるものです。
この州法が施行される前に、米エンターテイメント商業協会がカルフォルニア州を提訴・
2011年に連邦最高裁判所は、この暴力ゲーム規制法が表現の自由を保証する合衆国憲法修正第1条に違反するとの判決を下し、この州法は破棄されました。最高裁判事は7対2で違憲と判断しています。
このゲーム規制法が
「表現の自由を侵害している」と訴えるゲーム業界と
「性描写同様暴力的な表現も規制されるべき」という
カリフォルニア州側との対決という構図です。
ちなみに、熱心にゲーム規制を推進していた上述のイー議員は2014年チャイナタウンのマフィアと共謀し恐喝・贈賄、武器密売と汚職というまさにGTAのような犯罪で懲役5年の有罪判決になってしまいます・・・。
この裁判は、近年のアメリカにおける「表現の自由」解釈に大きな影響を与えた点が多数含まれていますので、以下取り上げていきたいと思います。
■最高裁判決の重要なポイント
・「ゲームは、憲法上保護された表現である。」
アメリカにおける表現の自由は、合衆国憲法の中の権利章典(Bill of Rights)の修正第1条の中で定められています。
裁判の中では、双方向性を持つ特殊なメディアであるゲームが、小説・音楽・映画といった憲法で保護されるべき表現か否かが争われました。
結論はゲームも社会的なメッセージを伝達する言論の一つであり、憲法の保護の範疇にあるということが明確に示されました。
日本においても、小説とマンガを差別する感覚は、かつてと比べればだいぶ変わってきましたが、依然残されています。
マンガ・アニメ・ゲームも保護されるべき言論の一つであるということは改めて確認されるべきことです。
・「わいせつ」と「暴力(不快な表現全般)」を一緒にしてはいけない。」
上述の通り、アメリカにおける言論における自由は憲法で保障されているものの、「わいせつ」「扇動」「喧嘩を売る言葉」については、政府が一部制限をすることが認められています。この裁判の中では、暴力表現=わいせつ主張のもとに、暴力ゲームも規制されるべきとの主張がなされましたが、「わいせつ」は「わいせつ」であり、明確に暴力表現とは区別されなくてはいけないという指摘がなされました。
これは、あくまでアメリカにおける判決ではありますが、日本でも嫌悪される表現全般を「わいせつ」と絡めて排除しようとする動きがあるので重要な視点だと思います。
・「暴力ゲームが青少年を暴力的にするということは証明されていない。」
被告であるカルフォルニア州はゲームが青少年を暴力に駆り立てる有害な影響を与えることを各種研究から証明しようとしましたが、いずれも因果関係を認めるには十分ではないという結論に達しました。
この裁判の中ではゲームがプレイヤーに与える影響についての権威であるCraig Anderson博士の研究を中心に論じられました。
ゲームの影響は皆無ではないが、せいぜいプレーした後に少しの間、暴力的ではないゲームをプレーした少年に比べ、攻撃性があがり、大きな音を立てたりという程度の小さな影響しか認められない。とされました。
日本においてもゲーム規制が論じられようとしている昨今、アメリカ最高裁で現状、このような結論となっていることは非常に重要です。
アメリカにおける表現の自由に関する違憲訴訟として極めて重要なこの裁判には上記の論点の他にも重要なポイントが詰まっています。
時間のある方はこの裁判について詳細が書かれた桧垣伸次氏による論文をご覧いただければと思います。
https://www.waseda.jp/folaw/icl/assets/uploads/2014/05/A04408055-00-046010204.pdf
以上、普段あまり触れる機会のないアメリカの表現の自由ですが、表現の自由が、人権について定める権利章典の(修正)第一条に規定されているというのが非常に印象的。日本と比較すれば違憲判決も少なくありません。
日本に対して影響を与えることも多い、アメリカにおける表現の自由について今後もお伝えしていこうと思います。