こんばんは。都議の栗下です。




昨日は、青少年健全育成条例改正によって追加された新基準での不健全図書指定を受けた3冊についてお伝えしました。
これまでの18回で東京都の青少年健全育成条例の歴史について概ね網羅してきましたので、今日は不健全図書指定の移り変わりを俯瞰した形で書きます。


来月の10月12日に開かれる青少年健全育成条例審議会は第719回ですが、1964年11月の第1回からここに至るまでの不健全図書指定の傾向や移り変わり、背景などをお伝えしていきます。

不健全図書指定一覧  をもとにしています。関心のある方は元データもご覧ください。



 

昭和39年から令和二年までの不健全指定図書一覧のPDFはこちら(Google driveが開きます)

 


■60年代:実写系ポルノ雑誌

1964年から不健全図書指定が始まりましたが、当初はヌード写真や官能小説の入ったものが多かったようです。
現在でも販売されている「プレイボーイ/集英社」や「週刊アサヒ芸能/徳間書店」「週刊大衆/双葉社」「週刊ポスト/小学館」といった週刊誌も、僅かながら指定されたことがあります。「静かなるドン」などで有名な週刊漫画サンデー(実業之日本社・現在は廃刊)も複数回。


指定件数は4点/月 程度でした。



■70年代:SM系雑誌・劇画系マンガ雑誌

70年代に入るとSM系雑誌の指定が顕著に多くなっていきます。マンガ雑誌も一部入っていますが、まだ実写系の雑紙が断然多い感覚。

またブログ(第6回)で取り上げたとおり、70年代に入って指定のペースが激増。10冊以上/月の水準までまで加速して行きますが、おそらく70年代半ばに雑紙自販機が普及したからだと考えられます。70年代後半の三流劇画ブームなどで劇画系雑誌も増えて行きます。


■80年代:美少女系実写誌、マンガ誌の増加

80年代に入って、マンガ雑誌が増えてきて、実写との割合は5分5分くらいになっていきます。80年代、規制史の中での大きなイベントは少なく、比較的穏やかな時代のイメージだったのですが、80年代前半の指定のペースは月12冊以上/月の水準で、約60年の中で最多となっています。

不健全図書の対応は世の中から3〜5年程度遅れて進むという指摘もあります。70年代の勢いがまだ残っていたのかも知れません。80年代中は徐々にそのペースを落としていきます。



■90年代:いわゆるエロマンガ雑誌全盛

90年代は89年に宮崎勤事件が起こり、その後3度の条例改正が行われた激動の時代でした。

依然として実写系の雑誌もありますが、現代的な画風のいわゆるエロマンガ雑誌も増えてきます。80年代から緩やかに下降してきた指定件数も、95年を境に一旦盛り返します。

この時代については私もよく覚えていますが、当時はゾーニングが徹底されておらず、コンビニや街の古本屋でこういった本が売られていました。



■2000年代:パソコン関連雑誌・レディコミ

00年代の始まり、インターネットとPCの普及に合わせて、アダルトサイトのリンク集や動画データのCD、DVDを付録にした雑誌が多数出版されます。

当初はそれらは不健全図書指定の埒外でしたが、条例改正の末、指定されるようになりました。

そのせいか、10冊前後/月と不健全図書史上2番目に指定が多くなりました。

コンビニでの小口留めが開始されて以降は、3冊前後/月の水準まで激減します


また女性向けのいわゆるレディコミやBL雑誌も指定の対象と上がってくるようになりました。


■2010年代:エロマンガ単行本・BL単行本

2010年〜2020年は不健全図書の歴史の中で極めて大きな変化が起こった10年だと言えます。


まず、この10年間で実写誌は指定ゼロの水準となり、マンガ誌も「雑誌」ではなく「単行本」が対象となってきました。これは、2000年代にコンビニでの成年誌小口止めなど、2010年代に大手コンビニで成年誌ごと撤去されるなど、ゾーニングが強力に進められた結果である事は疑いの無い事実だと思います。また、インターネットの隆盛により、街の本屋がどんどん減っていることも拍車をかけています。

2020年現在、私も委員として審議会に参加していますが、月々2〜3冊の書籍、その殆どがBL本になるに至りました。成年向けコーナーに置いてしまうと売り上げが大きく減少してしまうため、一般向けコーナーに置かれるBLがほぼ唯一のターゲットとなってしまっている格好です。

以上、見てきたように時代の要請に合わせて不健全図書指定も大きく変化してきましたが、現在の指定件数の水準は2〜3冊/月と歴史上、最もその役割が小さなものになっています。


今や表現物は「図書」の枠を超え、インターネット空間が主流となっています。
ネット上でのデータの授受については都条例の範囲を超えており、これまでの歴史を振り返ってみると今後、国において大きな規制議論が始まる可能性を予感させます。

私たちは都における表現規制の歴史から学び、今後いつ始まるかわからないネット上に関する法整備についても注視していかなくてはいけないということを改めて感じました。


明日は、来月10月12日に行われる青少年健全育成審議会の運用見直しについてお伝えします。
都条例シリーズは一応明日で完結です。