◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「安芸祥子。業務上横領罪で逮捕する。」
逮捕令状を持っている刑事が重々しく口を開いた。
「な・・・・っ」
祥子は目を大きく見開いたまま絶句してしまった。
会社のお金を少しづつ誰にも分からないように、くすねていたのは確かだが、まさかこんなに早くばれるとは思わなかった。
祥子が思っていたよりも、松太郎は金遣いが荒く、そのくせ将来はビッグミュージシャンになるんだと嘯いて仕事どころかアルバイトもしない。
そのくせ、住む所は安新譜のアパートは嫌だとさんざん駄々をこね、住むのならここと松太郎が祥子の意向を確認もせずにさっさと契約をしたのは、祥子の給料の八割がたが飛ぶような高級マンションである。
それに加えて、着る物や食べ物にも煩い。
完全にヒモなのは重々分かってはいたけれど、年下で手の焼ける松太郎が可愛くて仕方のなかった祥子は、別れると言う選択肢は全く持ち合わせていなかった。
その代わり、松太郎に贅沢させるために彼女が取った手段は、会社のお金に手を付けると言う最悪の物だった。
最初の頃こそ、良心が疼いて何度も止めようと思ったけれど、会社にとったらはした金なんだから、何の問題はないと言い聞かせているうちに、それが当たり前のようになってしまったのだ。
けれど、それも終わりだ。もう逃げも隠れも出来ないと、祥子自身覚悟した。
「会社のお金を横領したのは事実です。逮捕して下さい。」
祥子は観念してそう言って、腕を前に出すと手錠を掛けられた。
その間も、松太郎は何も言わないまま立っていた。
そして、別の刑事がまた一枚令状を取り出して告げた。
「不破松太郎。結婚詐欺の容疑で逮捕する。」
「は?いつ、俺が結婚詐欺なんてやったって言うんだよ!」
結婚詐欺なんて働いていないと言う自覚の無さから、松太郎はいつになく強気に出た。
が、敵もさるものながら手強い。
「証言と裏付けは取れている。話は署で聞こう。」
何とか逮捕から逃れようと松太郎は暴れたが、相手はプロだ。ものの数分も経たないうちに松太郎の腕には手錠がはめられた。
刑事たちが松太郎を連行しようとした時、待ったの声がかけられた。
それは、松太郎の母親の兄二人で、松太郎がこの世で最も苦手としている伯父たちだった。
「申し訳ございません。少し甥に話しておきたい事があるので、待ってもらってもいいですか?」
そう言ったのは、顔が鰐にそっくりな伯父だった。その伯父は、松太郎に向き直ると重々しく告げた。
「松太郎。お前が釈放される時は俺と勇で迎えに行くからな。」
「な・・・・んで伯父貴たちが・・・・」
「バカモン!!当たり前だ!!」お前みたいなのを野放しにするなんて、身内の恥もいいところだ!!俺がお前のお前の身元引受人を俺たちがするからな。」
「その後は、自宅に帰れるなと思うなよ。儂の家にお前の性根を叩きなおしてやる。」
そう言ったのは筋肉隆々の勇伯父である。
その言葉に松太郎の顔が思わず引き攣った。
それもそのはず、勇と呼ばれた伯父の家は飛行機と船を乗り継いで、ここから何時間もかかる離れ島にあり、そこで土木業を営んでいるのだ。
そこに松太郎の母親がダメ押しをした。
「あんたには貯金なんてないんはしってるんや。慰謝料はうちらが立て替えてはろうとくから、あんたは勇兄さんの家でせいぜい汗水流して働き。うちらが立て替えた分は、あんたの給料から天引きで返してもらうよって。」
松太郎は項垂れたまま連行されていった。
《つづく》
こちらも、ラストまで後チョイの所で停滞していたので投下です。
ググったけど、横領罪と背任罪の違いが今一つ理解できませんでした。
二つの違いを冴菜ママンと藤道さんと鰐顔先生にみっちり教えてもらおうかしら(;´▽`A``