分子生物学:哺乳類ミトコンドリアでの翻訳開始機構についての手掛かり | Just One of Those Things

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Let's call the whole thing off

前回に引き続き、33号目のネイチャーのハイライトより。

 

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分子生物学:哺乳類ミトコンドリアでの翻訳開始機構についての手掛かり
Nature 560, 7717
2018年8月9日    

真核生物では、細胞のタンパク質の大半は細胞質のリボソームで作られる。しかし、酸化的リン酸化に必要な膜タンパク質は、特化したミトコンドリアリボソームにより翻訳される。ミトコンドリアリボソームによる翻訳の開始には、リーダー配列なしのmRNAが使われるなどの独自の特徴が複数あり、開始機構については十分解明されていなかった。N Banたちは今回、翻訳開始状態にある哺乳類ミトコンドリアリボソームの構造を解いた。この構造により、哺乳類ミトコンドリア開始因子2(mtIF2)に見つかったドメイン挿入がリーダー配列を持たないmRNAの結合と暗号解読の活性化に影響すること、またミトコンドリアタンパク質mL45のN末端ドメインが開始から伸張への移行を調節して、ミトコンドリア内膜のタンパク質輸送孔への呼吸鎖タンパク質の挿入を容易にしているらしいことが明らかになった。これら2つの領域は今後特に関心を集めそうだ。

Letter p.263
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上記のネイチャーの論文を最後に転載します。

リボソーム - Wikipedia

ミトコンドリアリボソームとは - 生物学用語 Weblio辞書

産総研:ミトコンドリアのタンパク質に新説(2008/12/26)

哺乳類 ミトコンドリア呼吸鎖 複合体II(コハク酸−ユビキノン酸化還元酵素)の多様性とその機能的変化(PDF)

 

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分子生物学:クライオ電子顕微鏡によって明らかになった、哺乳類ミトコンドリアでの翻訳開始に固有の特徴
Nature 560, 7717 |  Published: 2018年8月9日 | 

ミトコンドリアは、自身の特化したタンパク質合成装置を維持していて、哺乳類では酸化的リン酸化を行う膜タンパク質の合成にもっぱら使われている。ミトコンドリアでのタンパク質合成の開始は、細菌や細胞質での翻訳系とは大きく異なっている。ミトコンドリアでの翻訳開始には、細菌から哺乳類までの他の全ての翻訳系に必須の開始因子1が欠けている。また、開始と伸張の両方に1種類のメチオニル転移RNA(tRNAMet)だけが用いられ、開始因子はホルミル化されたtRNAMet(fMet–tRNAMet)を特異的に識別しなくてはならない。そして、ほとんどのミトコンドリアmRNAは、リボソームへのmRNA結合を促進する5′リーダー配列を持たない。現在、哺乳類ミトコンドリアでの翻訳開始機構についての知見はほとんど得られておらず、mRNAの結合、開始因子–tRNAの動員および開始コドン選択が起こる仕組みはほとんど分かっていない。今回我々は、哺乳類ミトコンドリアから得られた完全な翻訳開始複合体のクライオ(極低温)電子顕微鏡構造を3.2 Åの分解能で決定し、哺乳類ミトコンドリア開始因子2(mtIF2)に存在する、さらなるドメイン挿入が持つ機能について述べる。この挿入部分は、暗号解読センターを閉じることでリーダーを持たないmRNAの結合を安定化しており、暗号解読に関わるrRNAヌクレオチドにコンホメーション変化を引き起こす。我々は、fMet–tRNAMetの特異的識別とそのGTPアーゼ活性の調節に必要な、mtIF2独自の特徴を明らかにした。さらに、翻訳を開始するリボソーム中のリボソームトンネルはミトコンドリアタンパク質mL45のN末端部分の挿入によりふさがれていて、トンネルはリボソームが伸長様式に切り替わると露出することも観察された。これはミトコンドリアリボソームをミトコンドリア内膜のタンパク質輸送孔へと向かわせるためのもう1つの仕組みとなっている可能性がある。
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これも後で転載します。
リボ核酸 - Wikipedia(rRNAヌクレオチド)
リボソームRNA - Wikipedia(rRNAヌクレオチド)
立体配座 - Wikipedia(コンホメーション)
んーいつの間にか書き換わってますね・・・。
 
以下に、参考に挙げられていたネイチャーの論文を転載します。
 
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細胞生物学:哺乳類ミトコンドリアリボソームの大サブユニットの完全な構造
Nature 515, 7526 |  Published: 2014年11月13日 |

ミトコンドリアリボソーム(ミトリボソーム)は、細菌由来のリボソームで、広範囲に変化が生じており、ミトコンドリア内でのエネルギー変換やATP産生に重要な膜タンパク質の合成や膜への挿入に特化している。哺乳類の39Sと28Sサブユニットからなるミトリボソームは、その起源である細菌リボソームから大きく変化しており、細菌、真核生物の細胞質、菌類で見られるミトコンドリアリボソームに比べると、独自の性質を持っている。我々は以前、ブタ(Sus scrofa)のミトリボソームの39S大サブユニット(ヒトのミトリボソーム大サブユニットと非常に相同性が高い)の構造を4.9 Å分解能で決定した。本論文では、低温電子顕微鏡と化学架橋/質量分析法により、翻訳中に停止した状態のブタ・ミトリボソーム39S大サブユニットの3.4 Å分解能での完全な原子構造を示す。この構造から、50個のミトリボソームタンパク質の位置と折りたたみ方の詳細が明らかになり、ミトリボソームのペプチジルトランスフェラーゼについて、高度に保存されている活性部位が基質である転移RNA(tRNA)と複合体を形成した状態が示され、哺乳類ミトリボソーム中で新生タンパク質鎖が特異なトンネル出口へ向かう経路が明確になった。さらに、全ての細胞質リボソームで広く見られる構成成分である5SリボソームRNAが存在しないこのミトリボソームで、ミトコンドリアtRNAがその構造的代替物となる位置を占め、39Sサブユニットの中央部突起に組み込まれた不可欠な要素となっていることの証拠が得られた。
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続けます。
 
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分子生物学:細胞質mRNAとミトコンドリアmRNAのm1Aの1塩基分解能での全体像
Nature 551, 7679 |  Published: 2017年11月9日 |

mRNAの修飾は、mRNAの運命を転写後に調節することを可能にしている。最近の複数の研究で、ワトソン・クリック型塩基対形成を破壊するN1-メチルアデノシン(m1A)が、mRNA内に広く存在することが示唆された。これらの研究は、修飾された個々の塩基を突き止めるだけの分解能がなく、また修飾を受ける特異的な塩基配列モチーフや、修飾を触媒する酵素装置も明らかにされていなかったため、推定された修飾部位を確認し、機能を明らかにすることは困難だった。今回我々は、1塩基分解能でm1Aの位置をトランスクリプトーム全体にわたってマッピングできる方法を開発した。細胞質では、m1Aが存在するmRNAの数は少なく、一般に化学量論的レベルは低いが、tRNAのTループ様構造にはほぼ確実に存在し、その導入を行うのはTRMT6/TRMT61A複合体である。我々は、ミトコンドリアのND5 mRNAでm1A部位1か所を明らかにした。このメチル化はTRMT10Cが触媒し、メチル化レベルは組織特異性が非常に高く、発生段階によって厳密に制御されている。m1Aは翻訳の抑制につながり、抑制の機序にはリボソームによる走査あるいは翻訳が関係しているらしい。これらの知見は、mRNA上のm1Aが、おそらくは塩基対形成に及ぼす破壊的影響のために翻訳の抑制を引き起こし、修飾は通常、細胞によって避けられていることを示唆している。一方、ミトコンドリアで見つかった1例では、m1Aは転写後調節の手段候補として、その修飾レベルが時空間的に厳密に制御されていた。
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以上。
 
溜まりに溜まった恒例のネイチャー。次回は34号目に入り、Cover Storyから、変わりゆくクローンより、遺伝進化ががん細胞株の薬剤応答を変える仕組み、を取り上げます。
 
 

※多忙につき、相変わらずブログでの対応が遅れていますことを、心からお詫び申し上げます。今からまわります・・・。
 

 

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