分子生物学: PINK1とparkinの関係についての最新事情 | Just One of Those Things

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Let's call the whole thing off

昨日に引き続き、30号目のネイチャーのハイライトより。

 

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分子生物学: PINK1とparkinの関係についての最新事情
Nature 559, 7714
2018年7月19日  

parkinとPINK1は重要な酵素だが、それは損傷を受けたミトコンドリアのマイトファジー過程による除去を仲介する役割を担っているからだけではなく、それらの変異が常染色体劣性(潜性)若年性パーキンソン症候群に関連しているからである。分子レベルでは、parkinは自己阻害状態にあり、その活性化にはPINK1の活性が必要である。PINK1はparkinのUbl(ubiquitin-like)ドメインとユビキチンタンパク質の両方をリン酸化し、これによってparkinはユビキチンと結合できるようになる。この分子経路についての構造的な手掛かりはいくつか得られているものの、parkinのリン酸化がその活性化につながる仕組みはまだ分かっていなかった。今回、D Komanderたちは完全長ヒトparkinの分解能1.8 Åでの最新の結晶構造を報告し、これによって活性化の仕組みについての情報がもたらされた。この構造を質量分析のデータと組み合わせたことで、活性化過程に伴ってドメインの再配列が起こることが明らかになった。意外にも、parkinのUblドメインと他のドメインの間にある保存されたリンカー領域が活性化エレメントとして働き、常染色体劣性若年性パーキンソン症候群の患者では、このエレメントの機能が影響を受けていることが分かったのである。

Letter p.410
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PINK1 - Wikipedia(英文)
 
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分子生物学:PINK1によるparkin活性化の機構
Nature 559, 7714 |  Published: 2018年7月19日 | 

E3ユビキチンリガーゼparkin(PARK2、別名PRKN)とプロテインキナーゼPINK1(別名PARK6)の変異は、常染色体劣性(潜性)若年性パーキンン症候群(AR-JP)に関連付けられている。細胞レベルでは、これらの変異はマイトファジー、すなわち損傷を受けたミトコンドリアの破壊を組織化する細胞過程に異常を引き起こす。parkinは自己阻害されていて、その活性化にはPINK1が必要であり、PINK1はユビキチンのSer65とparkinのUbl(ubiquitin-like)ドメインをリン酸化する。parkinがリン酸化ユビキチンに結合すると、parkinの効率的なリン酸化が可能になる。しかし、この段階ではparkinは自己阻害されたままで、活性部位への接近は不可能である。parkinのリン酸化がparkinを活性化する仕組みはまだ分かっていない。今回我々は、水素重水素交換質量分析を使って完全長ヒトparkinの活性化を追跡し、活性化過程で大規模なドメイン再配列が起こることを明らかにした。この過程では、リン酸化されたUblがparkinの中核部分に改めて結合し、RING2触媒ドメインが解離される。リン酸化されたヒトparkinの1.8 Å分解能での結晶構造から、リン酸化UblのUPD(unique parkin domain)上の結合部位が明らかになった。UPDドメインには、AR-JPで見られる変異によって覆われるリン酸結合ポケットが含まれる。UblとUPDの間にある保存されたリンカー領域は活性化エレメント(ACT)として働き、UPD上でのRING2の相互作用を模倣することによるRING2の解離に関わっていて、これはAR-JP変異が持つ意味のさらなる説明となる。我々のデータは、parkinの自己阻害が解消される仕組みを明らかにしたもので、parkinが切り離されたRING2ドメインを介して、その基質をユビキチン化する機構を示唆している。これらの知見は、臨床で使用するためのparkin活性化剤の設計に新たな道筋を開く。
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ここからは、今回の論文に関連する、これまで上げてこなかった、ネイチャーやネイチャーの姉妹誌で取り上げられてきた論文を取り上げていきます。
 
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PINK1によるParkinのユビキチン様ドメインのリン酸化がParkinのミトコンドリア移行を促しマイトファジーを制御する
2012年12月19日 Scientific Reports 2

パーキンソン病原因遺伝子PINK1とparkinは、それぞれキナーゼとユビキチンリガーゼをコードしている。これらの遺伝子産物はミトコンドリアをターゲットとしたオートファジー、つまりマイトファジーに関与する。ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)が消失すると、未知の機構で細胞質のParkinがPINK1によりミトコンドリアに誘導され、これがマイトファジーにおける一連の現象を引き起こす最初の段階となる。本研究では、Parkinのユビキチン様ドメイン(Ubl)の65番目のセリン残基(Ser65)が、ΔΨmの脱分極に応じてPINK1依存的にリン酸化されることを報告する。Ser65への変異導入実験により、Ser65のリン酸化はParkinの効率的な移行に必要なだけでなく、マイトファジーにおけるミトコンドリアタンパク質の分解にも必要であることが示唆された。また、Parkinの疾患型変異体を用いたリン酸化解析から、Ser65のリン酸化がParkinのミトコンドリア移行の十分条件でないことも示唆された。今回の研究から、マイトファジーの初期段階として、PINK1依存的なParkinのミトコンドリア移行と活性化の分子機構の一部が明らかになった。
 
柴-福嶋 佳保里1, 今居 譲2, 吉田 繁治3, 石濱 泰3, 金尾 智子4, 佐藤 栄人1 & 服部 信孝1, 2, 4, 5
 
1.順天堂大学 大学院医学研究科 神経学講座
2.順天堂大学 大学院医学研究科 神経変性疾患病態治療探索講座
3.京都大学 薬学研究科 製剤機能解析学分野
4.順天堂大学 大学院医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センター
5.独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(JST-CREST)
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引き続き、姉妹誌より。
 
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PINK1 はパーキンソン病において機能不全ミトコンドリアをオートファジーの標的にする
Nature Reviews Neurology
2010年4月1日

PINK1 targets dysfunctional mitochondria for autophagy in Parkinson disease
 
PLoS Biology に発表された報告は、PTEN-induced putative kinase 1(PINK1)は機能不全ミトコンドリアの選択的オートファジーに関与するというエビデン スを提供している。PINK1 遺伝子の劣性突然変異は、家族性パーキンソン病(PD)症例と関連付けられており、したがってこの研究は、この病態におけるミトコンドリアの関与をさらに裏付けるものである。
 
PD は、運動緩慢、固縮および振戦といった運動および姿勢症状によって特徴づけられる慢性の神経変性疾患である。多くのデータから、運動症状の根底にある原因は黒質におけるドパミン作動性ニューロンの変性であることが示されているが、なぜ変性するのかについてはほとんど知られておらず、根本的治療法も存在しない。
 
E3 リガーゼであるパーキンとミトコンドリアキナーゼであるPINK1 をコードする遺伝子の突然変異は、家族性パーキンソン病と関連することが知られており、研究結果はこれら酵素の変異体とミトコンドリア 機能不全との関連も示唆している。さらに、ミトコンドリア機能不全が弧発性PD 症例に一部関与している可能性が、いくつかのエビデンスから示唆されている。したがって、ミトコンドリア機能の調節異常がどのようにドパミン作動性ニューロンの変性に関連しているかの解明は、この病態の治療法の開発に有用であると考えられる。
 
米国NIH のRichard Youle らは、パーキンは損傷ミトコンドリアのサイトゾルから表面に移行することをすでに明らかにしている。「われわれは、パーキンのミトコンドリアへの移行は、損傷を受けたミトコン ドリアのオートファジーによる除去を活性化することも見出した。このことからパーキンは、損傷を受けたミトコンドリアの選択的除去によりミトコンドリアの品質管理に関与していることが示唆される」とYoule は説明している。どのような方法でパーキンが機能不全ミトコンドリアのオートファジーを誘導したかは不明であるが、PINK1 はミトコンドリアの表面に局在することが知られており、またショウジョウバエ (Drosophila)を用いた複数の研究では、PINK1 がパーキンの上流で関与していることが示されている。したがって、PINK1 とパーキンはいずれも、機能不全ミトコンドリアのオートファジーによる分解における不可欠な構成要素と考えられる。
 
この仮説を検証するため、Youle らは培養細胞における標準的な臨床検査を行い(免疫細胞化学および逆転写酵素PCR を含む)、PINK1 およびParkin 突然変異がミトコンドリアのオートファジーに及ぼす影響について検討した。Youle は「PINK1 が損傷ミトコンドリアを同定する新しいメカニズムを明らかにする所見を発見できなかった。PINK1 は構成的に産生され、すべてのミトコンドリアに送られるが、そこで速やかに分解を受ける。ミトコンドリアが損傷を受けるとPINK1 の分解は停止し、特に損傷を受けたミトコンドリアでPINK1 の濃度が急速に上昇し、パーキンの動員を促進する」と報告している。
 
分極状態のミトコンドリアにおけるPINK1 の選択的蛋白質分解、および機能不全ミトコンドリア膜(慢性的に分極状態にある)の選択的安定化のメカニズムは十分には解明されていない。しかし、Youle ら はin vitro 実験により、ミトコンドリア外膜におけるPINK1 発現は、サイトゾルから損傷ミトコンドリアへのパーキンの移行に必要なだけでなく、損傷オルガネラへのパーキンの移動を十分に引き起こすことを明らかにした。さらに、PINK1 は損傷ミトコンドリアのパーキン介在性除去に必要である。疾患を引き起こすパーキン遺伝子(Parkin)の突然変異は、パーキンの動員とパーキン介在性オートファジーを著明に抑制することが示され、PINK1 突然変異は、パーキンの動員を大幅に抑制することが示された。これら後者の結果は、PINK1 とパーキンはミトコンドリア表面で相互作用する可能性を示しているが、この相互作用の正確な本質はいま未だ確定されていない。
 
このPINK1 -パーキン経路はどのようにミトコンドリアの分解をコントロールしているのか、またPINK1 とParkin の突然変異が弧発性PD の発症にどの程度影響を及ぼすのかを完全に解明するためには、 さらなる研究が必要なことは明らかである。この目標を達成するために、Youle は「PINK1 とパーキンがミトコンドリアの品質管理経路を調節しているというわれわれのモデルを、PD の動物モデルで確認することが重要となるだろう」と述べている。PINK1 とパーキンはいずれもさまざまなタイプの細胞で広く発現されているため、将来の実験では、ドパミン作動性ニューロンは他の細胞型よりもPINK1 とパーキンの機能喪失型突然変異に対して感受性が高いのはなぜか、という問題に取り組むべきである。
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次に、本来なら挙げているネイチャーの3年前のハイライトと論文です。
 
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細胞生物学: マイトファジーでパーキンが果たす役割
Nature 524, 7565
2015年8月20日
 
損傷ミトコンドリアを除去するマイトファジーの過程では、選択的オートファジーの例に漏れず、損傷した積み荷(ここではミトコンドリア)に識別と分解のための標識としてユビキチン鎖が取り付けられる。具体的には、この過程の一環として酵素PINK1がユビキチンをリン酸化し、ユビキチンリガーゼであるパーキンを活性化する。その結果、パーキンがミトコンドリア外膜のタンパク質上にユビキチン鎖を形成できるようになり、そこにオートファジー受容体が引き寄せられる。今回R Youleたちは、この経路の調節がもう一段階複雑なことを明らかにし、リン酸化ユビキチンの細胞内での役割を示した。ゲノム編集技術を使って数種類のオートファジー受容体をノックアウトすることで、PINK1がNDP52とオプチニューリンという2種類の受容体だけをミトコンドリアへ引き寄せ、パーキンとは無関係にマイトファジーを直接的に活性化することが明らかになったのである。ミトコンドリアに誘導されたNDP52とオプチニューリンは次に、オートファジーに関わる他の要素を引き寄せる。これらの観察結果は、マイトファジーでパーキンが果たす役割に関する現在のモデルを見直す必要があることを示しており、PINK1が作り出したリン酸化ユビキチンというシグナルを、パーキンが増幅してオートファジーへとつなげていることが示唆される。
 
Article p.309
News & Views p.294
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細胞生物学より、タグ付きタグは廃棄を保証することがわかりました。

細胞内小器官のミトコンドリアは、損傷を受けた場合には単一のシグナル伝達カスケードの働きによって処理されると考えられていました。だが今回、複雑な分子間相互作用のネットワークによって廃棄作業が開始されることが、細胞を使った解析によって明らかになりました。
 
この論文はネイチャーのニュースにも取り上げられました。
 
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細胞生物学:ユビキチンキナーゼPINK1がオートファジー受容体を誘導してマイトファジーを引き起こす
Nature 524, 7565 |  Published: 2015年8月20日 |

タンパク質の凝集体や損傷した細胞小器官には、選択的オートファジーを引き起こすためにユビキチン鎖の標識が付けられる。マイトファジーの開始に当たっては、ユビキチンキナーゼPINK1がユビキチンをリン酸化してユビキチンリガーゼであるパーキンを活性化し、これがミトコンドリア外膜タンパク質にユビキチン鎖を形成し、このユビキチン鎖の働きでオートファジー受容体が外膜に誘導される。今回我々は、ゲノム編集技術を用いてHeLa細胞の5種類のオートファジー受容体をノックアウトすることにより、すでにゼノファジーとの関連が知られている2種類の受容体NDP52とオプチニューリンが、PINK1およびパーキンの関わるマイトファジーの主要な受容体であることを明らかにする。PINK1はNDP52とオプチニューリンをミトコンドリアに引き寄せ、パーキンとは無関係にマイトファジーを直接的に活性化するが、p62は引き寄せない。ミトコンドリアへ誘導されたNDP52とオプチニューリンは、ミトコンドリアに近い限局的部位へオートファジー因子ULK1、DFCP1、WIPI1を引き寄せることから、NDP52とオプチニューリンがLC3の上流で機能することが判明した。この結果は、PINK1によってリン酸化されたユビキチンがミトコンドリアのオートファジーシグナルとして働き、パーキンがこのシグナルを増幅するという新しいモデルの裏付けとなる。またこの研究により、他のオートファジー経路でもユビキチンのリン酸化が直接的で幅広い役割を果たしていることが示唆された。
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以上。個人的には、EW&Fのモーリス・ホワイトのおやじさんやホーキング博士には、画期的な治療法が完成して治療できるまで生きていてほしかったです・・・。
 
溜まりに溜まった恒例のネイチャー、次回は、分子生物学より、 プレスプライソソームの集合、を取り上げます。スプライシング過程のこれまでわかっていなかった構造がわかりました。
 
さて・・・。どこまでまわれるでしょうかまわ・・・。ぎりぎりまでまわります。まわれなかった方は申し訳ございません・・・。
 
 
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