材料科学: 透過と遮断を切り替えられる酸化グラフェン膜を通る水輸送 | Just One of Those Things

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Let's call the whole thing off

前回に引き続き、29号目のネイチャーのハイライトより。

 

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材料科学: 透過と遮断を切り替えられる酸化グラフェン膜を通る水輸送
Nature 559, 7713
2018年7月12日 

膜を通る水の透過は、ろ過や淡水化などの用途において有効性を決定付ける大きな要因である。膜を通る輸送の速度は、膜の構造や形態を調節して制御されることが多い。今回R Nairたちは、電場を印加することによって、マイクロメートルの厚さの酸化グラフェン膜を通る水輸送をオン・オフ切り替えできることを報告している。この切り替えは、膜を通る電流の臨界電流密度で膜中に導電性フィラメントが形成されることに起因する。著者たちは、こうしたフィラメント付近の局所電場によって周囲の水分子がイオン化され、このイオン化によって水輸送が遮断されると示唆している。
 
Letter p.236
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酸化グラフェン: 還元制御で性能を向上させる|AIMR

英国マンチェスター大学、酸化グラフェン膜を海水淡水化等への応用に向けて研究進める

酸化グラフェンで海水ろ過して飲用水に変える技術を開発-マンチェスター大

驚異の素材グラフェンで「海水を飲料水にする」ことに成功

 

導電性フィラメントはPLA樹脂に分散剤及び導電性カーボンを配合することで電気を通す特殊なフィラメントで、3Dプリンターのフィラメントで使われていることで知られていますね。

 

上記の論文を見るだけでも、凄い挑戦をされていると思います。もの凄いことです。

 

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材料科学:酸化グラフェン膜を通る水の透過の電気的制御
Nature 559, 7713 |  Published: 2018年7月12日 | 

膜や毛細管を通る水分子の輸送制御は、水質浄化技術やヘルスケア技術など、さまざまな分野で重要である。膜(主にポリマー膜)を通る水の透過を制御するこれまでの試みは、pH、温度、イオン強度を変化させることによって膜の構造や膜表面の物理化学的特性を調節することに重点を置いていた。水輸送の電気的制御は魅力的な代替法であるが、理論とシミュレーションからは、電場印加の下での水分子の凝固から氷の融解まで、矛盾する結果が得られることが多かった。今回我々は、マイクロメートルの厚さの酸化グラフェン膜を通る水の透過を電気的に制御したことを報告する。酸化グラフェン膜は、超高速水透過や分子ふるいといった特性を示し、工業規模で製造できる可能性があることが以前明らかにされている。我々は、水の透過を電気的に制御するため、制御可能な絶縁破壊を介して酸化グラフェン膜中に導電性フィラメントを形成した。こうした導電性フィラメント付近に集中する電場によって、酸化グラフェン膜内のグラフェン毛細管内部の水分子がイオン化され、水輸送が妨げられる。このようにして我々は、高速透過から完全遮断まで、水透過の精密制御を実証した。今回の研究は、人工生物システム、組織工学、ろ過といった用途向けのスマート膜技術を開発する道を開くものである。
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微小重力下でグラフェンの物性を初テスト、人工衛星用冷却材に応用へ - ケンブリッジ大(グラフェン毛細管)

ASCII.jp:多孔質グラフェンで太陽熱エネルギーを世界最高レベルで水蒸気生成に(ラフェン毛細管)

 

(おまけ:グラフェンの研究では、グラファイトからグラフェンを剥離し、余ったグラファイトは捨てられるますが、しかし今回は、余ったグラファイトの方に着目し、グラファイトからグラフェンを一部除去することによって、グラファイト内部に微小な空洞や毛細管構造を形成することに成功しています。原子レベルの精密さで形状制御した毛細管を人工的に作れることになるため、分子輸送技術やナノ流体力学などの分野への応用が期待できます。2016年9月7日付けの Nature に論文が掲載されています。参照
 

人工生物システム、組織工学、ろ過といった用途向けのスマート膜技術を開発する道が開くとなると、更に面白くなってきますね。
 

溜まりに溜まった恒例のネイチャー、次回は、古気候学より、 淡水から見た氷期の海洋循環、を取り上げます。
 

 

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