17号目のネイチャーのハイライトより。
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生物工学: 大腸がん細胞の多様化
Nature 556, 7702
2018年4月26日
がんは単一細胞あるいは少数の細胞群から始まり、それが増えることで、増殖を続ける細胞集団が生み出される。M Strattonたちは今回、個々の大腸がん内の細胞のゲノム多様化を調べた。彼らは、3人の大腸がん患者から提供されたがん組織とがんに隣接した正常組織から、複数の単一細胞に由来するオルガノイドを作製し、体細胞変異率を解析した。その結果、大腸がん細胞では、正常な大腸細胞に比べて、体細胞変異が数倍多いことが明らかになった。ほとんどの変異は、がんの最終段階で発生してきた優性クローンが増殖する間に獲得されたものであり、がんに特有の変異過程に起因していた。また著者たちは、同一の腫瘍からの細胞間で、抗がん剤に対する応答が異なることも示している。この結果は、大腸がん細胞における腫瘍内多様化の特性を明らかにする上で、オルガノイド系が使用できることを示している。
Article p.457
News & Views p.441
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オルガノイドが明らかにしたがんのダイナミクスが挙がりました。
がんの単一細胞解析は、個々の細胞の生物量が少ないため限界があります。今回、単一の腫瘍由来細胞から3Dオルガノイド構造体をin vitroで作ることで、詳細に解析するのに十分な生物量が得られました。
オルガノイド(organoid)は、3次元的に試験管内 (in vitro) でつくられた臓器です。オルガノイドは、拡大しても本物そっくりの解剖学的構造を示し、実際の臓器よりも小型で、単純です。これらは、組織の細胞、ES細胞またはiPS細胞から、自己複製能力および分化能力で、3次元的な培養で、自己組織化により形成されます。オルガノイドをつくり出す技術は、2010年代初めから急速に進歩しており、ザ・サイエンティスト誌はオルガノイドを「2013年の最大の科学的進歩の1つ」に選びました。
in vitroとは、生物学の実験などにおいて、試験管内などの人工的に構成された条件下、すなわち、各種の実験条件が人為的にコントロールされた環境であることを意味します。
論文を見ていきましょう。
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生物工学:大腸がんにおける単一細胞レベルでの腫瘍内多様化
Nature 556, 7702 | Published: 2018年4月26日 |
あらゆるがんは、たった1つの細胞から始まる。腫瘍性の細胞集団が増殖する間に、個々の細胞は互いに、遺伝的および表現型の違いを獲得する。今回我々は、腫瘍内の多様化の本質と規模を調べるために、3人の大腸がん患者のがん組織と隣接した正常な腸陰窩に由来する、複数の単一細胞から作製したオルガノイドの特性を解析した。大腸がん細胞は大規模な変異多様性を示し、正常な大腸細胞よりも数倍多い体細胞変異を起こしていた。ほとんどの変異は、がんの最終段階で発生してきた優性クローンが増殖する間に獲得されたものであり、正常な大腸細胞には観察されなかった変異過程に由来する。また、DNAメチル化と遺伝子発現パターンの腫瘍内多様化も生じていた。これらの変化は細胞自律的で、安定しており、各がんの系統樹に沿って起きていた。同一腫瘍内における非常に近い領域由来の細胞間でも、抗がん剤に対する応答に顕著な差異が認められた。これらの結果は、大腸がん細胞では、正常な大腸細胞に比べて体細胞変異率の大幅な上昇が起きており、それぞれのがんの遺伝学的多様性は、個々のがん細胞の生物学的状態に広く見られる安定した遺伝的差異を伴うことを示している。
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この論文はネイチャーのニュースにも取り上げられました。
DNAメチル化については、下記のページをご覧ください。
個々にがん細胞の多様性がわかれば、パターンとして分類でき、速やかに対処が出来るようになるかもしれません。更に研究が進むことを祈ります。
次回は、腫瘍生物学より、がんの転移についての論文を取り上げます。