構造生物学: INO80によるクロマチンリモデリングを見る | Just One of Those Things

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昨日に引き続き、16号目のネイチャーのハイライトより。

 

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構造生物学: INO80によるクロマチンリモデリングを見る
Nature 556, 7701
2018年4月19日 


細胞には、DNAの転写や複製、修復といった過程を調節するタンパク質がゲノムDNAに接近できるようにヌクレオソームのリモデリングを行う複合体が複数含まれている。今回、K Hopfnerたち、そしてD WigleyとX Zhangたちがそれぞれ、多数のサブユニットからなる大型のクロマチンリモデリング複合体INO80についての新しい知見を報告している。2つのチームはどちらもクライオ(極低温)電子顕微鏡を用いてヌクレオソームに結合したINO80の構造を決定し、他のヌクレオソームリモデリング複合体と比べると独特といえるヌクレオソーム結合様式と作用機構を明らかにしている。


Letter p.386
Letter p.391
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クロマチンリモデリング複合体とは、ATPの加水分解に依存してヌクレオソーム構造の崩壊や再構築を促進するタンパク質複合体の総称(chromatin remodeling complexes)です。ヌクレオソーム・リモデリング複合体(nucleosome remodeling complexes)とも呼ばれます。遺伝子発現、DNA修復、組換えなど様々なクロマチン機能の制御に関わります。

 

クロマチン・リモデリング複合体は、コアとなるATPaseサブユニットを指標にして、4つのサブファミリーに分類されます。ISWI サブファミリー複合体は2-4個のサブユニットから構成されます。それ以外のサブファミリーに分類される複合体はすべて10個程度のサブユニットから成る巨大な複合体です。多くのクロマチンリモデリング複合体は、クロモドメインやブロモドメインなどのヒストン修飾結合モチーフをもつサブユニットを有します。すなわち、これらの複合体は特異的なヒストン化学修飾を介してクロマチンにリクルートされ、周囲のヌクレオソーム構造を変化させる能力をもちます。

 

今回は、 INO80の構造についてのものです。まず、一つ見ていきましょう。

 

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構造生物学:INO80複合体によるATP依存性クロマチンリモデリングの構造基盤

Nature 556, 7701 |  Published:  2018年4月19日  |


真核細胞の核では、DNAがヌクレオソームの形でパッケージングされていて、個々のヌクレオソームはヒストンタンパク質八量体の周りに巻き付いたほぼ147塩基対のDNAからなる。ヌクレオソームの位置とヒストン構成は、15のサブユニットからなるINO80複合体のような、ATP依存性のクロマチンリモデリング複合体によって決められる。INO80は、遺伝子発現、DNAの修復や複製を、ヌクレオソームのすべり移動、ヒストンH2A.ZとH2Aの交換やプロモーターDNA上での+1と−1のヌクレオソームのポジショニングによって調節している。これらのリモデリング反応の構造や機能は現在のところ分かっていない。今回我々はクライオ(極低温)電子顕微鏡を用いて、好熱性真菌Chaetomium thermophilum由来のINO80複合体の進化的に保存されたコアについて、ヌクレオソームに結合した状態の構造を、全体分解能は4.3 Å、主要な部分の分解能は3.7 Åで解いた。INO80コアは、ヌクレオソームの完全な一巻き分を、DNAとヒストンの間の複数の接触により抱え込んでいる。Rvb1/Rvb2のAAA+ ATPアーゼヘテロ六量体は複合体集合用の足場であり、モーターの「固定子」やヌクレオソームをしっかりつかむサブユニットとして働いている。Swi2/Snf2 ATPアーゼのモーターは、ヌクレオソームDNAの超らせん部位(SHL)−6に結合し、約15塩基対をほどいてH2A–DNA間の接触を破壊し、entry DNAをヌクレオソームに送り込む態勢を取っている。Arp5とIes6はSHL−2とSHL−3に結合し、H2A–H2B二量体上の反対側の端でモーターの逆側のグリップとして働いている。Arp5のinsertionドメインは、引っかけかぎのような構造要素となってヌクレオソームdyadに結合し、約90 Åの距離を越えてArp5のアクチン様折りたたみ部分とentry DNAを結び付け、「酸性パッチ」近傍でヒストンH2A–H2Bに近寄るように詰め込んでいる。我々の構造は、生化学データと共に、ヌクレオソームのすべりとヒストン編集がINO80によって統合的に行われる機構を示唆している。モーターは巨大分子ラチェットの一部となっていて、entry DNAをH2A–H2B二量体を越えてArp5グリップに向かって連続的に移動させ、その結果ヌクレオソームの大規模な移動という段階が起こる。モーター活性によってH2A–H2Bが一過的に露出することと、H2A.ZとH2Aが区別されることが、ヒストン交換を制御しているのかもしれない。

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謎が増えましたね。もう一つを見ていきましょう。

 

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構造生物学:ヒトINO80–ヌクレオソーム複合体の構造と調節

Nature 556, 7701 |  Published:  2018年4月11日  |


転写や複製、修復などの細胞内で起こるさまざまな過程では、ヌクレオソーム内のDNAへ接近しなければならない。そのため、細胞にはヌクレオソームのリモデリングを行う複数の系が備わっている。このような複合体は、1個から数個のタンパク質サブユニットからなる単純なものだったり、多数のサブユニットからなるもっと複雑な装置だったりする。生化学研究によって、いくつかのクロマチンリモデリング複合体のモータードメインが、ヌクレオソームの超らせん部位(SHL)2周辺に位置することが分かっている。クロマチン構造をリモデリングする能力を持つ複合体(RSC)のサブユニットである酵母Chd1やSnf2がヌクレオソームと複合体を形成した状態の構造研究からは、これらの複合体によって行われるヌクレオソームのすべり移動の基本機構についての知見が得られている。しかし、INO80のような、もっと大型で多数のサブユニットからなるリモデリング複合体については、ヌクレオソームとの相互作用の仕組みや、ヌクレオソームのすべり移動、ヒストン交換、ヌクレオソームの間隔調整といった機能を果たす仕組みはほとんど解明されていない。一部のリモデリング複合体は単量体として働くが、それ以外は高度に協調のとれた二量体として働く。今回我々は、ヌクレオソームが結合したヒトクロマチンリモデリング複合体INO80の構造を示す。この構造から、INO80がこれまで報告されたことのない様式でヌクレオソームと結合していることが分かった。すなわち、モータードメインはSHL2ではなく、DNAのヌクレオソームに入る側(entry point)に結合しており、それに加えてINO80のARP5–IES6モジュールがヌクレオソームの反対側に接触している。このような配置によって、ヌクレオソームヒストンH3の尾部が、INO80モータードメインの活性を調節する役割を果たすことが可能になる。詳細が解明されている他のリモデリング複合体ではH4尾部がモータードメインを調節することが分かっているが、今回の配置はそれとは異なっている。

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これによって、他のヌクレオソームリモデリング複合体と比べると独特といえるヌクレオソーム結合様式と作用機構が明らかになりましたが、新たな謎もでてきましたね。

 

INO80についての情報は下記になります。

 

アクチンファミリー分子によるクロマチン・細胞核機能制御

 

ん~、わかりやすいのが上記ぐらいしかないですねぇ・・・。クロマチンリモデリング複合体INO80は、DNA複製再開を促進したり、DNA複製の再開に必要なものであるんですが、ふむぅ・・・難しいですね(苦笑)

 

次回は、17号目に入り、生物工学より大腸がんについてのものを取り上げます。

 

 

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